第14話 羽を毟られた蝶
「羽を毟られた蝶、第4篇を読みなさい」
レム判事は白のジャケットを正し、肩を踏みしめる踵の重心をさらに冷徹に固定した。菫色の瞳には一片の慈悲もなく、ただ実験動物を観察するような静謐な光が宿っている。
「は、ひぃ……っ! よ、よみますぅ……!」
ユウキは震えが止まらない両手で端末を支え、滲む涙で歪む画面の文字を懸命に追った。
「『……たいとる、私の涙はシャンパンタワー。
みんなが働いてる時間、私は夢を見てるの。
だって私は、生まれたときからお姫様だから。
お会計のときだけ、現実が私をいじめてくる。
だけど大丈夫、私にはたくさんのスポンサー(笑)がいる。
奢らせてあげるのも、私のファンサ。
感謝しなさいよね、私の貴重な時間をあげたんだから。
世界の中心で、今日も私は輝くの……ちゅっ☆』」
地下サロンに落ちたのは、乾ききった失笑だった。
「……『私の涙はシャンパンタワー』。からの『ちゅっ☆』ですか」
レム判事は細い指先で顎を撫で、憐れみすら混じった冷ややかな視線を落とした。
「他人の血汗を勝手に『ファンサービス』と呼び変え、集りを『お姫様の特権』と言い張る……。論理の破綻もさることながら、ここまで厚顔無恥な妄想を垂れ流せるその精神構造は、ある意味で奇跡的な欠陥品ですね」
「反吐が出るな」
レンブラント中佐が後頭部の靴底をわずかに捻り、冷酷なトーンで吐き捨てた。
「スポンサーではなく被害者だ。他人の財布に寄生しておきながら『時間をあげた』などと、どの口が抜かすのか。輝くどころか、泥水の中で悪臭を放っている自覚すら持てぬとは、真性の知性欠損だ」
「ひぎっ……! もう、もう嫌ぁ……! 恥ずかしいよぉ……!」
ユウキは自らの放った軽薄極まりない言葉の数々に精神を摩耗させられ、無様に絨毯を涙で濡らしながら身悶えした。




