第13話 腐ったシンデレラ
「ほれ、読む。腐ったシンデレラ」
レンブラント中佐が後頭部を靴底でコツンと軽く蹴り上げ、再び冷淡な菫色の視線を落とした。
「声が小さくなっているぞ。貴様が他人の善意を踏み躙りながら夜な夜な悦に浸っていた、その薄っぺらい自己陶酔の塊を吐き出せ。それとも、このまま絨毯のゴミと一緒に掃除されたいか?」
「ひっ……! よ、読みばす! 読みますからぁっ……!」
ユウキは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を床すれすれのスマートフォンへ向け、震える声で第3篇の文字列を辿り始めた。
「『……たいとる、孤高のバタフライ……。
みんな私のこと、わがままだって言うけどぉ……。
それは私が、高貴な花だから。
ミツバチたちが蜜を運ぶのは、あたりまえ。
お金ちょうだいって言ったんじゃない、
あなたの愛を試してあげただけ……。
貢げない男も、ケチな女も、みんな私の踏み台。
天高く羽ばたく私に、嫉妬乙……。
残高ゼロの翼で、今日も夜の街をフライト中……きらーん☆』」
読み終えた瞬間、地下室に訪れたのは氷点下の静寂だった。
「……『嫉妬乙』からの『きらーん☆』ですか」
レム判事が心底あきれ果てたように優雅に首を傾げ、踵を肩にめり込ませたまま薄く笑った。
「高貴な花を自称しながら、飛び出す語彙がネットスラングの掃き溜めとは。他人の口座から掠め取った金を『愛の試し』と糊塗する浅ましさは、もはや芸術的な無恥ですね。残高ゼロの翼など、ただの墜落死体です」
「蝶などとおこがましい」
レンブラント中佐がチェック柄のネクタイを指で弾き、冷酷に吐き捨てた。
「蜜を運ばせるどころか、他人の血管に直接ストローを刺して生きているただの害虫だ。その腐りきった羽をもがれる気分はどうだ、ジラエッティ?」
「うぅ……っ、ひぎぃっ……!」
逃げ場のない二重の重圧と、自らの拙いポエムがもたらす猛烈な精神的屈辱に、ユウキはもはや言葉にもならない呻き声を漏らしながら床を掻きむしった。




