第12話 地雷ポエム第2編
「ほらジラエッティ、9篇ありますよ。知性の残骸が」
レム判事は菫色の瞳に冷たい愉悦を宿し、手袋をはめた指先でスマートフォンの画面をスクロールした。
「まだたったの1篇です。あと8篇、残らずその震える唇で紡いでいただきましょうか。貴女が夜な夜な他人の金を掠め取りながら書き殴った、誇り高き自己承認の結晶を」
「ひ、ひぃぃっ……! もう嫌ぁ、許してぇぇ!」
ユウキが首を振って拒絶しようとした瞬間、レンブラント中佐が後頭部に乗せた靴底にじわりと圧力を加えた。
「喚くな。声が濁っているぞ、パチモンシンデレラ」
中佐はチェック柄のネクタイを整え、冷淡な眼差しで見下ろす。
「判事がわざわざ聴いてくださるというのだ。一文字たりとも噛まずに読め。それとも、残りの8篇は地面に顔面をめり込ませた状態で朗読したいか?」
「よ、読みますぅ! 読みますから踏まないでぇ……!」
鼻水をすすり、羞恥と恐怖で顔を真っ赤に腫らしたユウキは、再び画面に並ぶ壊滅的なポエムの群れへと視線を落とした。
地下サロンの静寂の中、知性の欠片もない地雷ポエムの公開処刑が、淡々と次の幕を開ける。
「第2篇の朗読を、ジラエッティ?」
レム判事は足を組んだまま、肩を踏みしめる踵の角度をわずかに変えて微笑んだ。菫色の瞳の奥に宿る冷気は、一分の狂いもなく獲物の神経を逆撫でしている。
「は、はいぃ……っ! よ、読みます、読みますからぁ……!」
ユウキは震える指で画面を支え、息を呑みながら次のテキストを絞り出した。
「『……たいとる、友情はサブスク。
友だちのカードは、私の魔法の杖。
ピッて鳴るたび、きらめく世界。
働いて稼ぐとか、まじナンセンスだし?
だって私、かわいく生きてるだけで満点だし。
払えないんじゃない、払わない主義。
ギルティなのは、私を縛るこの退屈な社会のほう……☆』」
読み終えた瞬間、ユウキ自身が放った語句の軽薄さが地下室の冷気にさらされ、耐え難い羞恥となって降りかかる。
「……ほう。『友情はサブスク』、ですか」
レム判事は涼しげに口角を吊り上げ、憐れむようなため息を漏らした。
「他人の労働の対価を勝手に定額制サービスと錯覚し、窃盗を『魔法』と言い換えるその卑小さ。挙げ句の果てに『払わない主義』と開き直り、社会のせいにする……。小学生の言い訳にすら劣る論理破綻のミルフィーユですね。壊滅的な語彙力もさることながら、精神の寄生性が極めて醜悪だ」
「吐き気がするな」
レンブラント中佐が冷酷に呟き、頭部を押さえつける靴底を僅かに滑らせた。
「『かわいく生きてるだけで満点』だと? 面の皮の厚さだけなら満点どころか規格外の汚染物質だ。知性も品性も持ち合わせていない単細胞が、よくもまあそこまで恥知らずな妄言を書き連ねられたものだ」
「ひぃっ、ごべんなざいっ……! もう、もう言いませんからぁっ!」
「謝罪の言葉を紡ぐ舌があるなら、次の3篇目に使いなさい」
レム判事は冷たく細めた瞳で画面を示した。
「まだまだ先は長いですよ、0円女王様」




