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My magic!  作者: 小佐内 美星


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第2話

 私はまた手を下ろす。今度は静かに下ろした。ここまで言われて、それでもまだその肌に触れようとするほど、私は鈍感ではなかった。


 なにしろ、私はさっきまで……さっきまで、何をしてたんだろう。記憶を思い起こそうとすればするほど、水中でもがくような気になる。


 そして目の前にいる、私の愛した少女。首元にほくろがあるのも、照るほどに白い柔肌も、黒に青みがかった短い髪の毛も、何も変わりない。私の目が、幼馴染を見間違うわけがなかった。


 夢とするには、意識はハッキリしすぎている。地面に接する足は、小石に押されて痛んでいる。まして、どうせ夢なら彼女は私のことを覚えていたっていいではないか。


「いえ、違いますね」


 愛は、いや、愛に似ただけの、青い髪の少女は、私の手を握り直した。


「これは避ける手ではなくて、ともに逃げる手でした」

「なに言ってんの」

「助けてください、追われています。でも、あなたも私が巻き込んでしまいましたので、ともに逃げましょう」


 言うが早いか、少女は私の手を掴み立ち上がったが、行方を影が遮った。見上げると、肩の広い男だった。エイミーがずりと後ずさる。しかしその小さな腕は、私を庇うように広げられていた。


 馬鹿な。そんな華奢な身体でなにができる。唇を噛んで、怯えているのに。


 やがて、別の方向から仲間と思しき男も合流した。


「輝石を出しな。そこは先に俺らが目星を付けていたんだ」

「いえ、そもそもこの山は、私たちのために開放されている山で、外の人は立ち入りが許されていないはずです」

「知ったことじゃねえよ、やっちまおうぜ」


 正面に立つ男とは別の男が言った。じれったそうにしている。


 私は半身を起こしたが、地べたに座ったまま、成り行きを見守っていた。


 見た目ははあれだけそっくりでも、少女のおどおどとした様子は、愛らしくはなかった。見た目は弱っちいのに、性格は男勝りなのが愛だった。男に囲まれたところで、怯むような子ではなかった。では、この子は愛とは別の愛なのだろうか?


「まあ待てや。この黒い服の女はどこから現れたか知らねえが、さっきから追ってるこいつといい、見てくれが悪くねえ」

「おう兄貴、売るか?」


 はっきりした。悪いのは、この男どもか。


「ねえ、輝石ってなに?」


 私は声を発した。最初に咳払いが必要なほど声が枯れていた。青髪の少女が振り返る。その鼻筋に目が行く。ああ、愛……。


「輝石をご存知ないのですか。光る石です、照明になります。日光を吸って……そして、高く売れます」


 私は指に力を入れて立ち上がった。青髪の少女にもう一度問う。


「ねえ、名前は?」


 訝しんだ蒼い瞳が向けられる。目の底が怯えできらめいていた。


「……エイミーです、エイミー・アイ・ケイシー」


 私は思わず腰を折るほど笑ってしまった。

 久しぶりなほど笑った。幼なじみが死んでからの年月、私は一度も笑っていなかったのかもしれなかった。毎日毎日、死にたいと。死んでやると、そう願っていたのだから。


 ミドルネームだかなんだか知らないけど、この子の名前にも「あい」が付くのか。とんだひどい悪戯だ。世界は、私に死んで欲しくて仕方がないらしい。


 私が気が狂ったように笑うのに怯んでいた盗賊たちは、平静を取り戻して言った。


「輝石を差し出すか、力づくで奪われるかだ」


 正面の肩が広い男が言う。右側にも男が立っており、そいつはそれほどガタイは良くなかったが、でも繰り返し野次を飛ばしていた。左側には寡黙な男がいた。


 男3人に女2人、フィクションでしか聞いたことのないセリフを言ってみることにした。


「多勢に無勢だね」


 エイミーは神妙に呻いた。


「輝石、渡しちゃだめなの?」

「生活が、私にも」

「それは、よく分かるよ。でも命より大事な金?」

「命を繋ぐためには、お金が必要です」


 そっか、じゃあ価値観が違うな。ここはきっと、私が知っているのとは別の世界なんだ。命を繋ぐためには、そりゃお金が必要なんだろうけど、少女一人の手が、それほどのお金を握ることはそうそうあることではない。


 私はエイミーに手を差し出し、エイミーから輝石が入っていると思しき布袋を受け取った。なにも言っていないのに、従順な子だ。袋は中身が詰まっているのかずっしりと重かった。紐の部分に持ち替えると、その重さがよく分かる。中を覗き込むと、確かに拳大サイズの石が入っていて、それは眩く輝いていた。


 そしてそれを、野次を飛ばしている右の男に差し出した。


「あ?」


 正面の男が表情を曇らせる。差し出された男は不意を突かれて、動揺を顔に出す。


「なにしてやがる、女」


 ガタイのいい男が私に向かってドスの効いた声を飛ばした。


「なにって、こっちがボスでしょ?」


 ぴくりと男の眉が動く。


「そう見えるか?」

「え、はい」


 男が吠えた。

「んなわけねえだろうが!」

 巨体が突進を始めた。私はエイミーを後ろに突き飛ばし、そのまま大きく布袋を振りかぶって、男の顎目掛けて振りかぶった。


 女子高生と侮るな。遊んでいるだけに見えるかもしれないけど、学校にも政治があり、力関係があるのだ。私は、それだけが得意だった。

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