第5話 初めの第一歩
『跳ねる小鹿亭』でお世話になることになった、私、カエデ。女将アニエスさんに明後日からよろしくと言われ、今日は部屋に戻ってきた。
「よし、ここで働けることになったぞ。・・・あ、テラ様に報告しなきゃ。」
私はすっかりテラ様への報告を忘れていた。なので、急いで神棚のようなものを作り(きれいなハンカチを敷き、そこに10㎝くらいの女神像を置いた)、
「テラ様、報告遅くなり申し訳ございません。美味しいへの第一歩を踏み出すことができそうです。ありがとうございます。」
〈・・・もうっ、遅かったじゃない!でもよかったわ、すてきなご夫婦のお店で働けるのね。それと、今日のスープ、とっても美味しそうね、もちろんわたくしの分もあるのよね?〉
「もちろんです!」
と私はスープボウルに入った、特製のミルクスープをお供えした。すると、スープボウルが光に包まれ、
〈これこれ!これ、気になっていたのよー♪・・・美味しー!!とっても美味しいわ!魚の旨味?っていうのがスープに溶けて、パンを浸すとさらに美味しいわね。〉
「よかったぁ、ところでテラ様、今更ですが身長が縮んだような気がするのですが・・・」
問うと、ギクッとした雰囲気が。
〈あ・・・それはね・・・えぇっと、実はね、あなたは精霊として転生したでしょ?それが影響しているみたいで・・・〉
詳しく話を聞いてみると、どうやら転生したのが原因らしい。私の年齢35歳は精霊ではまだまだ子ども、いや赤ちゃんなのだそう。そのせいで私の身長が縮んだらしい。また、隠蔽して種族もハーフリンクで、小柄な種族なのもあってこの身長に。
「そういえば、転生してから、鏡を見てなかったですね、私、今の容姿ってどうなっているんです?」
〈あら?そうだったかしら。じゃあ今のあなたの姿を映してみせるわね。〉
と、鏡のような円盤が現れ、そこに私の姿が映る。
「ふぁっ!?なんですか、これ!?私とは思えないくらい、かわいくなっている!??」
髪の毛はオリーブ色の肩までの長さで、瞳の色ははちみつ色。10人中7人がかわいいと思う、そんな容姿に・・・なんだけど、ぽっちゃりはぽっちゃりのままだった(悲しみ・・・)。
「ぽっちゃりのままか・・・でも、かわいくしてもらったんだ、嬉しいなぁ。」
〈そうよ、やせすぎは体に毒よ!あなたの魅力は容姿だけじゃないわ。〉
「そう言っていただけるのはうれしいです。」
〈明日からはどうするの?何か考えているのかしら?〉
そう聞かれ、
「明日は、市場見学です!食堂で使えそうなものを探しに行きます。あと、作りたいものがあって・・・」
〈あら、どんなもの?美味しいものかしら?〉
「はい、本当は作るのに1週間近くはかかるんですが、魔法で短縮して作ります!」
〈楽しみだわ!何か必要なものがあるならいつでも言ってね?用意するから。〉
「ありがとうございます。明日から頑張ります!!」
〈応援してるわ。さぁそろそろ寝る時間よ、おやすみ。〉
「はい、おやすみなさい。」
テラ様とのお話を終え、『クリーン』を唱え、さっぱりする。そしてベッドに横になると疲れていたのか、すぐ眠りについた。
翌朝、鐘の音で目が覚める。ぐーっと背伸びをし、ベッドから出る。季節は春先だが、この国は温暖な気候なのか、少し肌寒いくらいだ。『クリーン』を唱え身支度をし、女神像に手を合わせ、お祈りをしてから部屋を出た。今日は市場を見て回って、必要なものを買い、跳ねる小鹿亭に帰って、あるものを作る。ワクワクしながら食堂へ。
食堂へ行くと、人はまばらだった。女将さん(アニエスさん)が見えたので挨拶をした。
「おはようございます!」
「おはよう、昨日はよく眠れたかい?」
「はい、横になったらぐっすりでした。」
それを聞くと、
「なら良かった。朝ごはんはどうする?」
「今日は市場に行くんです、なので、そこで調達しようかと。」
「わかったよ。美味しいものを見つけておいで。」
とアニエスさんは送り出してくれた。
商業ギルドのある通りを横切り、中央の通りを行くと、広場があり、その周りを取り囲むようにお店が軒を連ねていた。私は右からぐるっと巡ることにした。まずは雑貨屋さん。身の回りの必要なものを買うためだ。コップにお皿、カトラリー、石鹸はあるかな?・・・石鹸、すごく高い・・・。とりあえず石鹸は諦めて、必要なものを購入した。次に服屋さんだ。タオルとか、下着とかも欲しい。あと、パジャマ。よし、買えた。
・・・ぐぅぅ~
・・・おなかすいた。あ、八百屋さんだ!果物あるかな?えぇっと、リンゴみたいな橙色なのが、ポムリね、これ一つください。ポムリを買って、広場のベンチに座り、かぶりつく。しゃきっとした食感に、果汁があふれてきた。うん、リンゴとおんなじ、さっぱりとした甘さで美味しい!あっという間に食べちゃった。ごちそうさまでした♪
次に今日どうしても作りたかったものの材料を探しに、お店巡りを再開した。魚屋さん、お肉屋さん・・・お?スパイス屋さん?あとは薬屋さんなど、異世界らしいものを取り揃えているお店がたくさん!よし、まずはお肉屋さんを狙いに定めた。
「おはようございます、良いお肉、ありますか?」
「おう、いらっしゃい!もちろん、うまいやつばっかりだぞ!」
そう聞いて、期待値が上昇。
「バラ肉ってありますか?」
「あるぞ、そんな脂が多い部分でいいのかい?オークのバラ肉だけが残ってたんだよ。」
「それ、ください!1キロくらい。」
「1キロだな、ほい、お待ち!」
と、店主さんから葉っぱに包まれた、オークのバラ肉を受け取る。代金の70トラ(安い!)を渡して店を後に。よしよし、これであれを作ろう!あと、必要なのは・・・
「スパイス屋さん、けっこうするなぁ。・・・よし、すみません、こんなスパイスありますか?」
と聞くと、似たようなものがあった。フェンネラ(フェンネルみたいなスパイス)を購入。
「海に面してるから、塩はたくさんあるみたいだから、今回は買わなくていいかな。あとは、ローズマリーは宿の裏庭に生えてたから、それを使ってと。」
あ、もう一回果物屋さんへ。忘れてた、ポムリ、美味しかったからあれも作ろうっと。ポムリを8個買って、跳ねる小鹿亭へ戻った。
跳ねる小鹿亭へ戻った私は早速厨房へ。お昼前ではあったが、今日は比較的空いているらしく、厨房の一角を使わせてもらった。
「まずは、お肉の下処理。塩をすりこんでと・・・・。」
バラ肉に塩をすりこみ、本当は一日寝かせるが、今回は魔法で短縮短縮♪出た水分を洗い流し、清潔な布でふき取る。次はソミュール液を作る。小鍋に塩を80グラムくらい、あとはニンニク、フェンネラ、ローズマリーを入れ、だいたい塩分濃度が10%から20%くらいになるように水を入れる。それをひと煮立ちさせて、冷ます。そのソミュール液にお肉を浸し、本来なら4日ほど漬け込むが、今回は魔法でまた短縮する。しっかり漬け込まれたお肉をソミュール液から取り出し、塩抜きする。その間にオーブンの準備。今回はスモークチップは使わず、テラ様から頂いた、大量の紅茶の茶葉があるので、それを使う。てっばんの上に茶葉を敷いておく。塩抜きも一度水を変え、時間短縮の魔法をかける。よく水分をふき取り、軽く生活魔法のドライをかけ、金網の上に。茶葉を敷いた鉄板に陶器のお皿を乗せる。お皿にも茶葉を入れておいて、そのお皿にお肉を乗せた金網をセットする。そして、オーブンの中へGO!だいたい150度の低温で1時間くらいらしいが、またまた時間短縮の魔法で。・・・う~ん良い香りがしてる♪これは期待が高まる!
「鉄板を取り出して・・・端っこをちょこっと切って、軽く炙って・・・!!すごく美味し~い!!!」
私が出来上がった自家製ベーコンに感激していると、ダンさんが寄ってきて、
「何ができたんだ?肉か?」
「はい、ベーコンです、味見してみますか?」
そう言い、少し切って、それを炙って渡す。ダンさんは匂いを嗅ぎ、
「これはたまらん香りだな、どれ・・・!!!」
目を見開き、瞬く間に目がキラキラと輝きだした。
「なんだこれは!?旨味が凝縮されて、噛めば噛むほど美味い!」
二人で感激していると、
「二人して何しているんだい?こっちまで良い匂いがただよってきているよ。新しいメニューかい?」
と、アニエスさんが厨房を覗いてきた。ダンさんが興奮気味に、
「アニエス!このベーコンとやらを食べてみてくれ!」
「ん?干し肉かい?どれどれ・・・うん?!こいつはおいしいね、噛むほどに肉の旨味を感じるよ!」
アニエスさんにも好評だったので、早速お昼のメニューにできそうなものを作ることに。ベーコンときたら、あれだろう。ここ、跳ねる小鹿亭では私の掌より二回りほどの大きさの平たいパンを使っている。近所のパン屋さんのものだそう。
「この平たいパンを横に切って、それにたっぷりのバターを塗って、しゃきしゃきのレシュタ(レタスのような葉野菜)を2枚・・・3枚のせて、その上にトマ(トマトのような黄色い野菜)をスライスしたものを1枚のせて、それから、厚めに切ってこんがり焼いたベーコンをのせる。最後にパンで挟めば・・・完成!BLTサンドイッチ!!」
食べ応え抜群の自家製ベーコンを使った、最高の一品ができた!できたサンドイッチを三等分し、二人に手渡す。
「お昼にぴったりのメニューですよ!さぁ、味見しましょ!いただきまーす。」
三人そろって一口。・・・これは・・・!?
「美味しーい!!!マヨネーズとかなかったからどうかな?とは思っていたけど、ベーコンの旨味としゃきしゃき・ジューシーなお野菜がマッチしてすごく美味しい!」
私がそうはしゃいでいると、ダンさんは、
「うますぎる・・・こりゃお客が押し寄せるぞ・・・」
「そうだね、ダン。あたしもそう思う。それくらい美味しいからね。」
と神妙な顔。
「え、だめですか?美味しくできたんですが・・・」
少し不安になり、そう尋ねると、
「だめじゃない、すごくうまいぞ。だから、お客が殺到しそうでな。」
とダンさんは苦笑い。アニエスさんも、
「うちに名物メニューができそうでうれしいんだけどね。あたしだってもう少し食べたいって思うくらいだからね。こりゃベーコンもたくさん仕込まないとね。」
「じゃあ、採用ですか?!やったー!」
「うむ、早速だがベーコンの作り方を教えてくれるか?」
「はい!今回は魔法で短縮したんですが、本来は1週間くらいかかるんです。なので、しばらくは私が魔法で時間短縮しますね。」
「それは助かるが・・・そいつは高度な魔法じゃないか?」
「あ・・・あの、上司から使えるようにと言われて練習たくさんしたんです(バレないかな・・・?)。」
ちょっと苦しい理由だが、実際そうなので嘘ではない。
「そうなのか、それじゃあしばらくは手伝ってもらおうか。」
「(ほっ・・・)はい!お願いします!」
そんな会話をしていると、
「お客から、あの良い匂いは何だって。早速だけどサンドイッチ、お願いできるかい?」
とアニエスさん。私とダンさんは慌てて、
「よし、作り方はさっき見て、だいたい分かったから、サンドイッチを作っていくぞ。カエデは・・・」
「私は昨日の残りのスープをクリームスープにアレンジしますね!」
「頼んだぞ、さぁ、始めるぞ!」
私とダンさんは調理を始めた。
「できたぞ!」
「こっちもできました!」
そう言うと、アニエスさんが来て、
「はいよ、持っていくね。」
と配膳しに行った。どうだろう・・・?ドキドキするなぁ。ん?なんか騒がしくなってきてる?アニエスさんが慌てて厨房へきて、
「サンドイッチとスープ、好評だよ!しかし、それを聞いてお客が殺到して・・・行列ができ始めたんだよ!」
「えぇ~!!?」
と私が驚いていると、
「やっぱりな。カエデどんどん作るぞ。ベーコンの残りはあとどれくらいだ?」
「は、はい、あと10人分くらいしかないんです。今日はお試しのつもりだったので・・・。」
「スープは作り置けばいいな、カエデ、ベーコンを作ってくれ。俺はサンドイッチを作る。」
「わかりました、先にお肉屋さんに行ってもいいですか?お肉が無いので。」
「行ってこい、代金はあとで立て替えるから、とりあえず10キロくらい買ってきてくれ。」
「行ってきます!」
とお肉屋さんに行って、バラ肉を買い足し、ベーコンを作っていく。・・・うぅ、腕が痛くなってきた・・・。ベーコンを作り終え、次はダンさんの手伝いだ。パンを切って、トマを切って、ベーコンを焼いて・・・。
「アニエス、もう、今日は完売だ!お客に伝えてくれ。」
厨房からダンさんがアニエスさんに向けて大きな声で言うと、アニエスさんが厨房に顔をのぞかせて、
「了解!」
そう言うとお客さんに説明に行った。
ふぅ~疲れた・・・。私、どれくらいパン切ったんだろう・・・?とぼんやりしていると、
「カエデ、お疲れさまだったな。多くなるとは思っていたが、ここまでとは・・・。」
とダンさんも驚いている様子。最後のお客さんが帰り、アニエスさんが厨房に。
「お疲れ様だね、二人とも。あたしも疲れたよ。こりゃ人手が足りないかもしれないねぇ。」
しみじみとアニエスさんが言うと、
「そうだな、一人従業員を増やしてもいいかもしれんな。」
「そうですね、厨房は私とダンさんでどうにかできると思うので、アニエスさんと一緒に配膳できる方が必要だと思います。」
と私が言うと、アニエスさんは、
「じゃあ明日にでも商業ギルドに求人を出さないとね。ダン、給金のこととがあるから、あとで話し合おう。カエデの給金についてもね。」
「わかった、カエデ、今日は厨房の方は俺にまかせて、休んでくれ。」
「はい。あ、厨房の隅っことか使ってもいいですか?仕込みの邪魔はしません。ちょっと作りたいものがあって。」
ダンさんにそう言うと、
「いいぞ、ただ無理はするなよ。」
「はい、ありがとうございます!」
ダンさんからの許可ももらえたし、あれを作ろうっと♪
そんな忙しいお昼となってしまった跳ねる小鹿亭。これから、どんどん美味しいメニューを作っていくぞ!




