第4話 ここで働かせてください!!!
無事おすすめの宿を聞いた、私カエデは通りを歩いている。
「わー、すごい、いろんな食材とか素材、道具とか売ってる!」
地球でも見かけたものや、異世界ならではのどうやって食べるのかわからないものがたくさんの屋台や露店で売られていた。
「おなかすいているし、なにか買って食べてからにしようかな?」
良い匂いはするんだけど・・・何が残念なんだろう?あ、異世界もの定番の串焼き肉だ!
「こんにちは、これは何のお肉を焼いているんですか?」
と屋台のおじさんに話しかけた。
「いらっしゃい!これは、角うさぎの肉を使っているぞ。一本どうだい?」
「わぁ、美味しそう!おひとつください、いくらですか?」
「一本10トラ(100円程度)だ、ほら。」
と、角うさぎの串焼きを渡され、私は代金を支払った。少し歩いて、噴水広場があり、ベンチがあったのでそこに腰かけ、串焼きをほおばった。
「ん?ちょっとお肉かたい・・・塩味きいてるんだけど、獣臭い・・・。なるほど、こんな感じなのかな、この世界の料理って。でもまだ串焼きだけだし、今日のお宿は美味しい料理が出るといいなぁ。」
と思いをはせつつ串焼きを食べた。
「さてと、おすすめされたお宿は港の近くだったよね。」
私は噴水広場を出て、歩き始めた。港は商業ギルドのある通りを進み、右に曲がった先にある。たしか、宿の名前は『跳ねる小鹿亭』だっけ。・・・あ、あそこかな?オープンテラスに小鹿のエンブレム。
「こんにちは、ここって、『跳ねる小鹿亭』ですよね?」
お店の女将さんらしきドワーフらしい女性がいたので、そう声をかけた。
「いらっしゃい!そうだよ、うちが『跳ねる小鹿亭』。あたしは女将のアニエスさ。夫のダンと一緒にやってるよ。宿泊かい?」
「はい、とりあえず7泊お願いしたいです。あ、私はカエデといいます。」
そう言うと、
「はいよ、7泊だと700トラだね、うちは食事も自慢だから食べていってちょうだい。一食30トラだよ。」
「ぜひ食べたいです!今日の夕食、楽しみです。」
「730トラ、ちょうどだね。楽しみにしててな。今日は良い魚を仕入れられたって、いつになくダンがうれしそうだったからねぇ。」
これは期待がふくらむ!部屋の鍵を受け取り、早速部屋に。3階の左から二番目の部屋が私が泊まる部屋みたい。鍵を開けて中に入ると、窓から夕陽がさして、部屋の中がオレンジ色に染まっていた。部屋の広さはだいたい6畳くらい。ベッドとデスクと椅子が備え付けられていた。
「さて、お風呂に入りたいところだけど、それは贅沢よね・・・あ、そうだ。ラノベ定番の生活魔法があったんだった。えっと、『クリーン』!」
そう唱えると、シャランと淡い光を放ち、汗をかいていた肌がすべすべすっきり、髪の毛はとぅるんとサラサラに!おまけに口の中もさっぱりして、この世界の人たちはこれのおかげで虫歯にならないのかな?なんて思いながら過ごしていると、鐘の音が聞こえてきた。
「たしか6の鐘の音よね、さてと下に降りますか。」
部屋を出て1階へ降り食堂へ。中に入ると夕食の時間が始まったばかりにもかかわらず、多くの人でにぎわっていた。空いていた席につき、女将さんを呼ぶ。
「すみませーん!おすすめをお願いしまーす!」
「はいはい、ちょいとお待ちをー!」
ワクワクしながら待っていると、
「ハイお待ち!今日のおすすめの真剣タチウオのハーブスープだよ!」
「あり、がとう、ございま、す?」
そこにはタチウオが大きくぶつ切りされた切り身がどーんと浮かんでいる、ハーブの香りのするものだった。一口食べてみると、塩味の、切り身はぱさぱさ・・・なるほど、料理はこんな感じなのねと慄いていると、あることを思い出した。
「そういえば、調味料セットがあったんだった。・・・せっかく良い食材を使っているのにもったいない。まずはこのお店から、改革していきたい。女将さんも素敵な感じだし。よし、女は度胸だよ!」
意を決して女将さんに、
「あの、厨房って旦那さんが仕切っているんですか?」
と問いかけると、
「そうだよ、ダンが一人で切り盛りしてるよ。なんだい、気になるのかい?」
「はい、ぜひ厨房を見てみたくて。」
女将さんは少し考えた後、
「いいよ、今は注文は落ち着いてきたし、ダンもお客の声が聴けるだろうし。」
と奥の厨房まで連れてきてくれた。・・・うん、年季の入った道具がいっぱいだ。道具は問題なさそうだけど、レシピに問題がありそう。
「ダン、厨房を見せてほしい娘がいてね。案内したんだけど、構わないかい?」
厨房の奥から出てきたのは、身長が190㎝はある、ムキムキの熊の獣人さんだった!
「今は落ち着いているから、構わんぞ。そっちは?」
「はい、私はカエデといいます。おすすめのスープをいただいて、少し気になることがあって。」
と切り出す。
「おう、どうだったか?美味かっただろう?」
「はっきり言います、改善の余地ありです。ちょっと小鍋にスープを入れてもらえますか?」
ダンさんは、驚きながら小鍋にスープを用意してくれた。
「ありがとうございます。このスープに私の故郷でよく使われている、スープの素、コンソメの粒状を小さじ2くらいをまず加えます。」
マジックバッグの中から調味料セットにある、粒状のコンソメの容器を取り出して、ふたを開け、小さじで2杯すくって小鍋に投入。マジックバッグからお玉を取り出し、それでスープを混ぜ、コンソメを溶かしきる。コンソメが溶けきったのを確認し、味見。
「・・・うん、コンソメ入れただけだけどスープに旨味が出てる。あとはタチウオね。」
一度タチウオを取り出し、調味料セットからニンニクチュープとショウガチューブを取り出し、タチウオの切り身にすりこむ。マジックバッグからフライパンを取り出し、火にかける。フライパンが温まったところでバターを溶かす。バターが溶けてきたらタチウオの切り身をフライパンへ。軽く焦げ目がついたら裏返し、両面こんがりと焼く。その焼いた切り身を小鍋の中へ。ひと煮立ちさせたら、
「ミルクってありますか?」
「あるけど、何に使うんだい?」
「仕上げに使うんです。」
そうニッコリと答えると、おずおずとミルクを用意してくれた。そのミルクを小鍋にひと回し。味見をして、もうひと回し。・・・よし、ばっちり!小鍋を火からおろし、二人に味見をしてもらった。
「どうぞ、タチウオのミルクスープです!せっかくのタチウオの旨味を余すことなく楽しめると思います!」
二人は恐る恐るスープを口に運ぶ。そうすると、目を見開き、
「なんだいなんだい、これ、全く違うじゃないか!こんなにおいしいスープ、初めてだよ!!」
と女将さん。
「難しい工程はない、材料もだ。なのにこんなに違うのか・・・」
とダンさんは呆然としていた。私は意を決して、
「あの・・・ここで働かせてください!」
二人は顔を見合わせた。ダンさんは大きな手でまだ温かい小鍋を握りしめ、女将さんは驚きで口を開けたままスプーンがカランと落ちた。
「働きたいだって!? あんた、こんな『魔法の粉』や『謎の調味料』を平気で使うような凄腕の料理人なんだろ? うちみたいな安宿でいいのかい?」
女将さんが身を乗り出して聞く。私はぶんぶんと首を縦に振った。
「はい! ここの食材、とっても良いものばかりなんです。でも、もっと美味しくなれる。そんな魅力が力が秘められているんです!私、美味しいものを広める・・・じゃなかった、美味しいものが大好きなんです!!」
本音が漏れた私を、ダンさんがじっと見下ろす。その鋭い眼光に、つい「精霊だとバレたか!?」と身構えたが――。
「……頼む。その、こんそめ? というやつと、ミルクの加減。俺に教えてくれ! 礼なら三食……いや、五食昼寝付きでどうだ!」
「五食も!?よろしくお願いします!!!」
ダンさんと私はがっちりと握手をした。
「帳簿を預かるあたしの身にもなっておくれよ・・・まぁ、食堂のメニューが美味しくなれば、お客も今以上に来てくれるだろうしね。あたしも賛成だよ。」
「ありがとうございます、これからよろしくお願いします!!」
そんなこんなで私は『跳ねる小鹿亭』でお世話になることになった。
よーっし、美味しいものを広めるぞ!!




