第10話 じっくり育てて
「う~ん、どうしようかな・・・?」
朝も早くから、わたしは悩んでいた。調理台においてある、茶色の塊。そう、パンである。ここエディブルリアでは、この硬くてぱさぱさのパンが主流というかこれしかない。日本の、ふわふわ、もっちりのパンを食べてきたわたしには、硬すぎるし、口の中の水分をとられて、飲み込むにも一苦労だった。このパンをどうにかしたい。どうしたものか・・・。あっそうだ、あれを作ろう。あれがあると、ふっくらもちもちのパンを作ることができる!わたし、一時期パン作りにハマって、酵母から手作りしたことあったんだった。よし、本当は時間がかかるけど、ここでは魔法で短縮できるもんね。早速果物屋さんに行ってみよう!レーズン、売ってるかな?
まさか、レーズンが存在しなかったとは・・・。でも、ブドウは売ってたから、それを乾燥させてレーズンにしよう。まずは買ってきたブドウを洗って、しっかりと水気をふき取る。房から実を外し(実際はしなくてもいいけど、今回は外します)、鉄板に外した実を並べて、100℃くらいに温めたオーブンへ。本来なら、じっくり2時間くらい火を入れて水分を飛ばすんだけど、今回は魔法でずるをする。5分に魔法で短縮し、またまた魔法を使って乾燥させる。しっかりと陰干しすることで旨味が凝縮するらしい。出来上がったレーズンを一粒ぱくり。うん、ばっちりできてる。これで第一段階はできた。
次は天然酵母を作っていく。これも魔法で短縮する。市場で買ってきた、25㎝くらいの大きさの蓋つきの瓶を煮沸殺菌とクリーンをかける。そこに、レーズン約150グラム、黒砂糖を7.5グラム、ぬるま湯(だいたい25℃)を入れて蓋を閉め、上下に軽く2~3回振る。そうしたら、時間短縮の魔法をかける、まずは一日分。蓋を開け、清潔なスプーンでかき混ぜ、空気に触れさせる。それを何度か繰り返し、レーズンがすべて浮いて、泡立ちが見られたら、天然酵母の完成。ここでやっと折り返し地点。
今度はパン種を作る。新しく瓶を取り出し、これも煮沸殺菌・クリーンをかける。瓶の中にできた酵母と小麦粉をそれぞれ60グラムずつ入れ、だまにならないよう混ぜる。だいたい30℃くらいに温めて、生地が2倍にふくらむように時間短縮の魔法をかける。ふくらんだら、冷まして、10時間ほど時間短縮の魔法をかける。この瓶の中に、酵母と小麦粉、それぞれ60グラムを加えて混ぜる。また、30℃くらいに温めて、2倍にふくらむように魔法をかける。冷まして、10時間ほどの時間短縮の魔法をかける。それをあと一回繰り返すことでパン種が完成する。これを使い、パンをふくらませる。これで前準備が終わった。
今回は2斤の山型食パンを作る。材料は次のとおり。(だいたいの量で作っています、正確な分量を知りたい方は調べてみてね。)
・小麦粉(強力粉だが、どうやらないようなので、あるもので。):560グラム
・パン種:200グラム
・塩:7グラム
・黒砂糖:40グラム
・ミルク(本来ならスキムミルク。ないのでミルクで代用。):17グラム
・水:340グラム
・無塩バター:34グラム
まず、冷たいお水にパン種を入れて混ぜる。混ざり切ったら、そこに小麦粉など残りの材料を入れて、粉っぽさがなくなるまで、生地の温度が上がらないようにこねる。まとまったら、力を込めてこねる。この時も生地の温度に気を付ける。丸くまとめて、ボウルに入れ、濡れたふきんをかける。27℃前後で温め、本来なら5時間ほど発酵させるが、魔法で短縮短縮。だいたい2倍くらいの大きさになったら、粉をふった台に平たく伸ばし、四角形にする。それを左右に三つ折りにして、さらに上下に三つ折りにする。そのあとだいたい20~30分休ませるがこれも魔法で短縮。休ませた生地を伸ばし、くるくると巻く。・・・パンの型がなかった、どうしよう。ん?そういえば、スキルに『なんでも生産』っていう謎のスキルがあったな、これでどうにかできないかな?よし、食パンの型をイメージして・・・。するとキラキラ光りながら、パンの型が現れた!ちゃんと金属製だ。なにこれ、チートスキルだぁ。・・・気を取り直して、丸めた生地の巻き終わりを下にして入れる。そこから型の8分目くらいにまで生地がふくらむまで待つ、けれどこれも魔法で短縮する(魔法って本当に便利!)。作業の合間にオーブンを200℃くらいに温めておく。オーブンの蓋を開け、少し温度を下げてから、生地をオーブンの中に入れる。25分くらい具合を見ながら焼く。う~ん、レーズン酵母の甘い、パンの香ばしい香りがする~。焼けたかな?うん、ばっちりだね。少し冷まして、型から取り出す。ほあぁ、天然酵母の山型食パンの完成だぁ~!!
「どれどれ・・・ふんわりもっちり、レーズンの甘い香りとパンの香ばしい香りがたまらないよ~。」
そうだ、今日の朝ごはんを注文しているお客さんに出してみようかな?普段よりもお客さんの数はずっと少ないし、自家製ベーコンと目玉焼きをつけたら、もうごちそうだよね!
「おはよう、早いな。もう少し寝ててもよかったんだぞ?」
ダンさんがやってきた。
「おはようございます!ぐっすり眠れたので早く目が覚めちゃって。」
「そうか。何か作っていたのか?良い匂いがするが。」
わたしは食パンを取り出して、
「パンを焼いてました!すっごく美味しくできたんですよ!!食べてみてください。」
1センチほどに切って、ダンさんに渡す。
「どれどれ・・・!!!、ふわふわと柔らかいが、もっちりとしている。小麦粉の香りとあとなんだ、甘い匂いがする。これがパンだと・・・!?」
「はい、わたしの故郷でよく作られているパンなんです。いろんなおかずにぴったり合う、万能なパンなんですよ!」
ダンさんに、
「せっかく作ったので、今日の朝ごはんに出せませんか?厚めに切ったベーコンと目玉焼きをつけたら、すごく美味しいと思うんです!」
「うむ、あとで作り方を教えてくれよ。良い考えだな、今朝は朝食をとる客は少ないし、パンもベーコンも卵も足りるだろう。よし、作るか。」
今朝の朝食セットは、ベーコンエッグと焼き立て食パン!コーヒーをつけたいところだけど、今のところ発見できていないので、紅茶を添えて。召し上がれ!
朝食をとるお客さんが少なかったからか、昨日のような忙しさはなく、余裕もってお昼の営業の仕込みができそう。この食パン、アニエスさんにも好評で朝食の目玉になりそうだって!もう少し作っておこうかな?なんて思っていると、アニエスさんが厨房へやってきた。あれ、一緒にいる女性は誰だろう?見た目はアニエスさんと同じくらいの年頃に見える、中年の女性。エプロンには白い粉のようなものがついている。もしかして、
「パン屋さんですか?」
そう聞くと、女性が、
「そうさ、市場の通りにある、おひさまパン屋の店主さ。あんた、柔らかくてふかふかなパンを作っているんだってね。ここに泊まったやつから聞いてね。ちょっとお願いがあって来たんだ。」
わたしはドキドキして、
「(もしかして怒らせちゃった?!)・・・えぇっと、お願いってなんでしょうか?」
店主さんは笑いながら、
「教えてほしいのさ、パンがふかふかになる秘訣をね。あたしは長くパン屋をやっているが、作れるのは固いパンばかりでね。試作を重ねていた時にあんたの作ったパンの話を聞いてね、これだと思ったんだよ。あんたがもしよければ、あたしに教えちゃくれないかい?難しいお願いをしてるのはわかってる、断っても構わないよ。」
わたしはテラ様から食の改革をお願いされたことを思い出した。そうだ、わたしだけじゃなくて、いろんな人たちも美味しいものを作れるようになるのも、食の改革の一つだ。
「あの、わたし、美味しいものが大好きなんです。美味しいものを食べるのも、食べてもらうのも好きなんです。だから、店主さんが美味しいパンをたくさん作りたい気持ちがうれしいんです。わたしが作ったパンの素でよければ、お分けします。」
そう告げると、店主さんはとてもうれしそうに、
「ありがとう、ありがとう!」
とわたしの手を両手で握った。パンを毎日こねてきただろう、しっかりとした手だった。
「どういたしまして!早速、パンの素の説明と、基本的なパンの作り方を教えますね。」
この様子をダンさんとアニエスさんは優しい目で見守ってくれていた。それから、店主さんとダンさんに、パンの素・天然酵母の作り方、パン種、基本的なパンの作り方をレクチャーした。これでもっと多くの人たちにふかふかのパンを食べてもらえるようになるとうれしくなった。
一通りのレクチャーが終わり、店主さんはお礼をたくさん言って、帰っていった。
「レクチャーでたくさん食パンを作りすぎちゃいましたね。どうしましょうか?」
ダンさんは、
「腐らせるのももったいない、昼の営業で出すか。」
「そうですね、そうしましょ。あ、これでサンドイッチを作りませんか?具材は、シンプルにハムとレシュタで。」
二人で食パンを切ったり、具材を用意して、昼の営業に備えた。
慌ただしいお昼の営業も、最後のお客さんが帰ったことでひと段落。
「今日も多かったですね・・・なんか、昨日よりも多かったような?」
わたしがつぶやくと、アニエスさんは、
「気のせいじゃないよ、昨日よりも多かったね。」
タフなアニエスさんもお疲れの様子。ダンさんは、
「今日は難しい工程がない、手早くできるものだったからな、昨日よりはましではあった。」
とのこと。
「また、うちに名物ができたし、いよいよ人手が欲しいね。明日にでも面接をしようかね。」
アニエスさんはそう言うと、商業ギルドへ向かった。
「どんな方が来るんでしょうか?優しい方だといいなぁ。」
「そうだな。そこはアニエスの人を見る目を信じよう。さて、片づけて、いったん休憩だな。」
手早く片付けをして、夜の仕込みに備えた。・・・今日はランスロットさん、来なかったなぁ。忙しいのかな?
~テラ様視点~
あらあらあら~!無自覚だけど、惹かれてるのね。いいわぁ、キュンキュンしちゃう!大丈夫、彼もあなたを気にしてるわ、だってねぇ・・・。ぜーんぜん仕事に集中できてないみたいだもの。カエデ、応援してるわよ~。




