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夜に名を与える  作者: ベリドット
黒の振興

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18/20

ヴァスタスの知能の帰還

ぜひ読んでください!

幹部会議から一夜が明けた。


朝日がヴァスタスの大地を照らす中、領民たちはすでに動き始めていた。

瓦礫の撤去、仮設住居の建設、物資の運搬──。


混乱の残る土地でありながら、その動きには確かな秩序があった。


その中心にいるのが、セラフィナ・ヴェスティアだった。


的確な指示。無駄のない判断。

貴族としての素養と、現場での適応力。

彼女の存在が、復興の歯車を滑らかに回していた。

そんな中──


領壁の方角から、鋭い怒号が響いた。


「何者だ! 馬車から降りてこい!」


空気が一瞬で張り詰める。

視線が集まる先、門の前には一台の馬車が止まっていた。


ゆっくりと扉が開く。


中から現れたのは、一人の青年。

金色の髪に、片眼鏡。

整った顔立ちに、どこか人を見下すような薄い笑み。

そして彼は、開口一番こう言った。


「やはり脳筋のアレスの部下は躾がなってないな」


その一言で、空気が凍りつく。

兵団員の男の顔が、みるみるうちに紅潮した。


「アレス団長をバカにするな!」


怒声とともに一歩踏み出す。


「アレス団長はアトラス様の右腕として、この地を守ってこられたんだ!」


その言葉を聞いた青年は、むしろ愉快そうに口角を上げた。


「へぇ……あの脳筋が右腕か」


肩をすくめる。


「そんなわけないだろ?」


兵団員の男の手が剣にかかる。

今にも抜かれようとしたその瞬間──


「やめろ」


低い声が空気を切り裂いた。

振り返れば、そこにはアトラスとアレスが立っていた。

少し遅れて、セラフィナも駆けつける。

その瞬間だった。

青年の態度が、まるで別人のように変わったのは。

すぐに歩み寄り、片膝をつく。


「科学国家テクノリアより帰還しました」


頭を垂れたまま続ける。


「テクノリアで得た知識と技術、そしてこの頭脳で──」

「兄さんの前に立ちはだかるあらゆる困難を、排除してみせます」


その声音は先ほどとは違い、明確な敬意を帯びていた。

その様子を見て、セラフィナは内心で首をかしげる。


『この人がフェデル……』

『マスターのことを“兄さん”って……?』

『でも、血縁ではないはず……』


違和感を抱きながらも、状況を見守る。

アトラスは静かにフェデルへ近づいた。


「よく帰ってきてくれた」


短く、それだけ言う。

だがその一言に、確かな信頼が込められていた。


「お前にしかできない頼みがある」


フェデルの肩が、わずかに震える。

表情こそ変わらないが、その内側にある感情は明らかだった。


しかしアトラスは続ける。


「……だがな、フェデル」


声が少し低くなる。


「先ほどの言葉は耳に余る」


空気が張り詰める。


「確かに言い方は荒かった」

「だが今のヴァスタスの状況を考えれば、責めるべきではない」

「皆、余裕がないんだ」


その言葉に、フェデルは明らかに落ち込んだ様子を見せた。

視線をわずかに下げる。

そこへ割って入るように、アレスが前に出る。


「フェデル!」


怒気を含んだ声。


「さっきの発言、聞き捨てならないわね」


フェデルは顔を上げ、軽く笑う。


「久しぶりだね、アレス」


そして淡々と言い放つ。


「分かりやすく教えてあげるけど」

「兄さんの右腕に相応しいのは、僕みたいな頭脳派なんだよ」

「君みたいな脳筋には無理」


空気が一気に張り詰める。

アレスの拳が震えた。


「ふざけないで!」


即座に反論する。


「右腕に必要なのは力よ!」

「主人を守れる力がなければ意味がない!」

「それに──」


一歩踏み込む。


「私は誰よりもアトラス様に忠誠を誓っている!」


フェデルの目が細くなる。


「忠誠、ね」


冷たい声音。


「一昨日、命令もないのに領民を殺そうとしたのは誰だったかな?」


その一言で、アレスの動きが止まる。


言葉が詰まる。


「それが忠誠?」


容赦なく続ける。


「結果はどうだった?」

「傷だらけの兄さんに止められて、迷惑かける。それでいてまたしても兄さんを傷を増やして終わり」

「ありえないんだけど。笑いも出てこないよ。」


アレスは反論する。


「でも、アトラス様が侮辱されるのが許せなくて、愛ゆえに……」


フェデルは冷たく言う

「愛?」

「迷惑かけてでもやるのが愛なの?」


静かな声なのに、鋭く刺さる。


「それ、愛じゃないよ」


「ただの依存だ」


アレスの瞳が揺れる。


「……違う」


かすれた声。


「そんなわけ、ない……」


フェデルはさらに踏み込む。


「愛なら迷惑はかけない」


「相手を傷つけない」

 

「でも君はそれをやった」


一拍置く。


「それでも愛って言い張るなら──」

「思考ごと捨てた方がいいんじゃない?」


その言葉は、刃のようにアレスの心を抉った。

次の瞬間。


「……っ、ぁ……!」


涙が溢れ出す。


アレスはアトラスに縋りついた。


「アトラス様……!」

「フェデルが、酷いこと言うんです……!私の愛が依存だとか捨てた方がいいとか!」


子供のように泣きじゃくる。


その様子に、フェデルが焦る。


「ちょっと待って、それはズルいだろ!」

「兄さんに泣きつくのは反則だ!」


アレスが泣きながら叫ぶ。


「うるさい!」

「アトラス様またフェデルが責めてきたー!」


騒がしくなる二人。

アトラスは小さく息をつき、アレスの頭を優しく撫でた。


「……フェデル」


静かに諭す。


「俺のためを思って言ってくれてるのは分かる」

「だが、言い方がある」


そしてアレスへ。


「もういい」

「お前は反省している」

「それで十分だ」


アレスは少しずつ落ち着いていく。

アトラスは二人を見て言う。


「このままだと何も進まない」

「いい加減にしろ」


その一言で、場が収まる。

フェデルが気を取り直すように言う。


「……で、兄さん」

「魔導列車開発するんでしょ??」


アトラスは頷く。


「任せてよ」


フェデルの目が光る。


「すぐに形にしてみせる」

「そして証明する」


ちらりとアレスを見る。


「僕の方が右腕に相応しいってね」


アレスは噛み付くように言う。

  

「言ったわね……!」


再び火花が散る。

アトラスは頭を押さえた。

その様子を見て、セラフィナは苦笑する。


『この人が一番大変そうね……』


そしてふと、疑問を口にした。


「マスター」

「一つ聞いていい?」

 

アトラスは了承する。

 

「なんだ」

「フェデルさんとどういう関係なの?」


アトラスは少しだけ考え、答える。


「十年前、アウローラ家で引き取った養子だ」

「だから──義理の弟だな」


セラフィナは納得する。

その横では、まだ言い合いを続ける二人。

その光景を眺めるアトラスとセラフィナ。


 

ヴァスタスに、新たな風が吹き始めていた。


フェデルとアレスはアトラスへの愛の強さゆえに犬猿の仲です!

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