ヴァスタスの知能の帰還
ぜひ読んでください!
幹部会議から一夜が明けた。
朝日がヴァスタスの大地を照らす中、領民たちはすでに動き始めていた。
瓦礫の撤去、仮設住居の建設、物資の運搬──。
混乱の残る土地でありながら、その動きには確かな秩序があった。
その中心にいるのが、セラフィナ・ヴェスティアだった。
的確な指示。無駄のない判断。
貴族としての素養と、現場での適応力。
彼女の存在が、復興の歯車を滑らかに回していた。
そんな中──
領壁の方角から、鋭い怒号が響いた。
「何者だ! 馬車から降りてこい!」
空気が一瞬で張り詰める。
視線が集まる先、門の前には一台の馬車が止まっていた。
ゆっくりと扉が開く。
中から現れたのは、一人の青年。
金色の髪に、片眼鏡。
整った顔立ちに、どこか人を見下すような薄い笑み。
そして彼は、開口一番こう言った。
「やはり脳筋のアレスの部下は躾がなってないな」
その一言で、空気が凍りつく。
兵団員の男の顔が、みるみるうちに紅潮した。
「アレス団長をバカにするな!」
怒声とともに一歩踏み出す。
「アレス団長はアトラス様の右腕として、この地を守ってこられたんだ!」
その言葉を聞いた青年は、むしろ愉快そうに口角を上げた。
「へぇ……あの脳筋が右腕か」
肩をすくめる。
「そんなわけないだろ?」
兵団員の男の手が剣にかかる。
今にも抜かれようとしたその瞬間──
「やめろ」
低い声が空気を切り裂いた。
振り返れば、そこにはアトラスとアレスが立っていた。
少し遅れて、セラフィナも駆けつける。
その瞬間だった。
青年の態度が、まるで別人のように変わったのは。
すぐに歩み寄り、片膝をつく。
「科学国家テクノリアより帰還しました」
頭を垂れたまま続ける。
「テクノリアで得た知識と技術、そしてこの頭脳で──」
「兄さんの前に立ちはだかるあらゆる困難を、排除してみせます」
その声音は先ほどとは違い、明確な敬意を帯びていた。
その様子を見て、セラフィナは内心で首をかしげる。
『この人がフェデル……』
『マスターのことを“兄さん”って……?』
『でも、血縁ではないはず……』
違和感を抱きながらも、状況を見守る。
アトラスは静かにフェデルへ近づいた。
「よく帰ってきてくれた」
短く、それだけ言う。
だがその一言に、確かな信頼が込められていた。
「お前にしかできない頼みがある」
フェデルの肩が、わずかに震える。
表情こそ変わらないが、その内側にある感情は明らかだった。
しかしアトラスは続ける。
「……だがな、フェデル」
声が少し低くなる。
「先ほどの言葉は耳に余る」
空気が張り詰める。
「確かに言い方は荒かった」
「だが今のヴァスタスの状況を考えれば、責めるべきではない」
「皆、余裕がないんだ」
その言葉に、フェデルは明らかに落ち込んだ様子を見せた。
視線をわずかに下げる。
そこへ割って入るように、アレスが前に出る。
「フェデル!」
怒気を含んだ声。
「さっきの発言、聞き捨てならないわね」
フェデルは顔を上げ、軽く笑う。
「久しぶりだね、アレス」
そして淡々と言い放つ。
「分かりやすく教えてあげるけど」
「兄さんの右腕に相応しいのは、僕みたいな頭脳派なんだよ」
「君みたいな脳筋には無理」
空気が一気に張り詰める。
アレスの拳が震えた。
「ふざけないで!」
即座に反論する。
「右腕に必要なのは力よ!」
「主人を守れる力がなければ意味がない!」
「それに──」
一歩踏み込む。
「私は誰よりもアトラス様に忠誠を誓っている!」
フェデルの目が細くなる。
「忠誠、ね」
冷たい声音。
「一昨日、命令もないのに領民を殺そうとしたのは誰だったかな?」
その一言で、アレスの動きが止まる。
言葉が詰まる。
「それが忠誠?」
容赦なく続ける。
「結果はどうだった?」
「傷だらけの兄さんに止められて、迷惑かける。それでいてまたしても兄さんを傷を増やして終わり」
「ありえないんだけど。笑いも出てこないよ。」
アレスは反論する。
「でも、アトラス様が侮辱されるのが許せなくて、愛ゆえに……」
フェデルは冷たく言う
「愛?」
「迷惑かけてでもやるのが愛なの?」
静かな声なのに、鋭く刺さる。
「それ、愛じゃないよ」
「ただの依存だ」
アレスの瞳が揺れる。
「……違う」
かすれた声。
「そんなわけ、ない……」
フェデルはさらに踏み込む。
「愛なら迷惑はかけない」
「相手を傷つけない」
「でも君はそれをやった」
一拍置く。
「それでも愛って言い張るなら──」
「思考ごと捨てた方がいいんじゃない?」
その言葉は、刃のようにアレスの心を抉った。
次の瞬間。
「……っ、ぁ……!」
涙が溢れ出す。
アレスはアトラスに縋りついた。
「アトラス様……!」
「フェデルが、酷いこと言うんです……!私の愛が依存だとか捨てた方がいいとか!」
子供のように泣きじゃくる。
その様子に、フェデルが焦る。
「ちょっと待って、それはズルいだろ!」
「兄さんに泣きつくのは反則だ!」
アレスが泣きながら叫ぶ。
「うるさい!」
「アトラス様またフェデルが責めてきたー!」
騒がしくなる二人。
アトラスは小さく息をつき、アレスの頭を優しく撫でた。
「……フェデル」
静かに諭す。
「俺のためを思って言ってくれてるのは分かる」
「だが、言い方がある」
そしてアレスへ。
「もういい」
「お前は反省している」
「それで十分だ」
アレスは少しずつ落ち着いていく。
アトラスは二人を見て言う。
「このままだと何も進まない」
「いい加減にしろ」
その一言で、場が収まる。
フェデルが気を取り直すように言う。
「……で、兄さん」
「魔導列車開発するんでしょ??」
アトラスは頷く。
「任せてよ」
フェデルの目が光る。
「すぐに形にしてみせる」
「そして証明する」
ちらりとアレスを見る。
「僕の方が右腕に相応しいってね」
アレスは噛み付くように言う。
「言ったわね……!」
再び火花が散る。
アトラスは頭を押さえた。
その様子を見て、セラフィナは苦笑する。
『この人が一番大変そうね……』
そしてふと、疑問を口にした。
「マスター」
「一つ聞いていい?」
アトラスは了承する。
「なんだ」
「フェデルさんとどういう関係なの?」
アトラスは少しだけ考え、答える。
「十年前、アウローラ家で引き取った養子だ」
「だから──義理の弟だな」
セラフィナは納得する。
その横では、まだ言い合いを続ける二人。
その光景を眺めるアトラスとセラフィナ。
ヴァスタスに、新たな風が吹き始めていた。
フェデルとアレスはアトラスへの愛の強さゆえに犬猿の仲です!




