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夜に名を与える  作者: ベリドット
黒の都

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15/20

資質とは行動によって計られる

結構長くなってしまいましたが読んでください!

アトラスが倒れてから、一夜が明けた。

その朝、ヴァスタスに届いたのは、最悪と呼ぶほかない一報だった。

 

王国政府名義による、公式な「制裁通達」。


《王国公示文》

王国中央政府は、伯爵アウローラ家の統治下にある

ヴァスタス領において、王国に属さず、かつ蛮行を繰り返すウルガ族を匿い、保護していると判断した。

これらの行為は王国の安全を著しく妨げるものである。よって、王国の秩序維持および安全保障の観点から、下記の制裁措置を即時発動する。

 

一、ヴァスタス領民の王都への立ち入りを全面的に禁止する。


二、王都および王国管理下地域からヴァスタスへの物資(食料・燃料・医薬品・魔石等)の輸出停止する


三、ヴァスタスから王都へのすべての輸出を禁ずる。


四、今後ヴァスタス領内で発生するいかなる災厄・被害についても、王国は一切関与しない。


五、ウルガ族討伐を目的とした武装勢力の侵攻を、王国はこれを妨げず、認可する。

本制裁は、状況改善が確認されるまで無期限とする。



その文面を読めば、誰にでも分かる。

ヴァスタスの産業も、経済も、そして人々の生活も、

確実に破壊される。

ただでさえ、昨夜の襲撃で家を失い、精神的に限界に達していた領民たちにとって、この制裁は“最後の一押し”だった。

不満は怒りへ。

怒りは憎悪へ。

そして、その矛先は――

自分達の家を壊し、自分たちを襲ってきたウルガ族と

そのウルガ族を軍事力にするために生かすことにしたアトラスへと向けられる。

彼らは怒りを抑えることなどできるはずもなかった。


「暮らす家を失って、恨みや怒りも晴らせない。

なのに、なぜ俺たちはまたあいつらのせいで苦しむんだ?」

「結局俺たちは失ってばっかりじゃないか!?」

「俺たちはアトラス様に信じてついてきたのになんで俺たちよりウルガ族のあいつらを優先するんだ!?」


そんな彼らに顔を布で隠した男が言う。


「あの男も結局は貴族ってことさ」

「俺たちは捨てられたんだよ」

 

その言葉を聞いた彼らはある結論にたどり着く。


「あぁ、あの人も先々代と同じで俺らより力なんだな」

「アトラス様も結局俺たちのことを他の貴族と同じで駒としか見てないんだな」


彼らは忘れてはいけないことを忘れていた。自分たちがアトラスのおかげで今動けるほどの体でいられることを。痛みを感じずいられることを。

そんな彼らは一時的に用意されたアトラスが眠る館の前へと怒りと不満を胸にデモを起こす。


「出てこい!」

「俺達のこと駒としてみてるなら面と向かって言えよ!!」

「貴族はそんなに偉いのかよ!」

「なんで、被害者の俺達がウルガ族のせいでまた苦しまねぇといけねぇんだよ!」

「あんたの判断のせいで王国から制裁をされるんぞ!ふざけんなよ!!」


彼らを上から見ている人影があった。



アレスはアトラスが倒れてからずっとアトラスの手を握りながら枕元にいた。

アトラスは夥しいほどの包帯を巻かれその包帯は赤く滲み、顔は死人のような青白くなっている。

そんな姿を見ている彼女は普通の精神状態でいられるわけがない。

彼女にとってアトラスは神にも等しい存在であり彼女の生きる理由の一つでもあるのだから。

そんな時、静かだった外が騒がしくなってきた。

その様子を見るために窓を開けて外を見るとそこには数十人の人影があった。

彼らは大きな声で怒鳴っていた。

そんな彼らを見た途端アレスの心は怒りに満ちた。

 

『なぜあいつらはアトラス様の判断に対して不満を漏らす。』

『アトラス様はお前たちの為にあの決断を下したんだ』

『なぜアトラス様の気持ちに気づけない!どれだけアトラス様がお前たちのことを大事にしているか分からずにそんなことが言える......!』


アレスは無意識に拳を握る。拳からは血が垂れる。

セラフィナも部屋に入ってきてデモ隊の声を聞いている。


「酷い、酷すぎるわ......」

 

群衆のひとりが一線を超えてしまう。


「今回の制裁の原因の張本人は呑気に寝てるのかよ」

「いいなぁ貴族って。俺たちは家もなくて寝れねぇのに」


その言葉を聞いたアレスは怒りで腸が煮えくり返る感覚を覚えるのと同時に涙が出てきた。その涙は悲しみではなく、怒りとアトラスの報われなさへの悔し涙だった。


『アトラス様はお前たちの負った傷を恐怖を痛みを全て背負って倒れられたんだぞ......!』 

『救われた側のお前たちが眠っている彼を羨むなどおかしいじゃないか......!』

『羨むならお前が代われ』

『アトラス様がどれだけの苦痛を感じられてるかも分からないクズが......!』

『こんなのあんまりだろう』


彼女の中でドス黒い感情が渦巻く

そんな時、彼らに1人の小さな少女が異議を唱える。


「みんなやめてよ。アトラス様はいっぱいの傷で倒れちゃったばっかりなんだよ?」

「なのに、そんな大きな声で怒ってたらアトラス様が寝れないでしょ!」

「それにアトラス様は、私たちのために頑張ってくれたんだよ?」


そんな彼女の声など怒りに囚われたものたちには届かない。彼らは彼女をはね飛ばした。

それを見たアレスの中で見えない何かが音を立てて切れた。

アレスは扉へと向かうそんな彼女からは膨大な魔力が漏れ出ている。

そんな彼女をセラフィナは止める。


「何しに行くの!アレスさん」


アレスから温度の感じない声で返答が帰ってくる。


「何をしに行くって分かりきっているでしょう?」

「あの害虫たちを駆除しに行くのですよ」


アレスの発言にセラフィナは


「害虫って、、、」


アレスは即答する。


「傷や感情を背負い救ってくれたんですよ?」

「それに加えて元より黒髪で差別されていた我々に居場所を与えてくれた大恩人のアトラス様に不平不満を抱き、アトラス様に怒りや恨みを向けるなど言語道断の極みですよ」

「そんなアイツらが害虫ではないのならなんなのでしょうか?」


その問いにセラフィナは答えられない。

アレスは続ける。


「だから駆除するのです」

「アトラス様が目覚める頃には害虫などがいて欲しくないので」


セラフィナは動けなかった。

アレスは群衆の元に向かう。彼女が通る道は重力により歪みひび割れていく。

そんな彼女を見た群衆の中の男が言う。


「なんだよ」

「来るな!」


アレスは歩き続ける。秒針が刻む事に重力が強まり道がひび割れ瓦礫が宙に舞う。その状況まさに地獄。

デモ隊の男が恐怖を感じながらも言い放つ。


「アトラスを出せよ!」

「アトラスの犬が!」


アレスは淡々と話していく。


「お前たちのような害虫にアトラス様を合わせるわけが無いだろ?」


デモ隊の男が恐怖で腰を抜かしながら言う。


「俺たちを殺すのか?」


アレスは冷淡に答える。


「殺す?違うな駆除するんだよ」

「アトラス様にされた施しもアトラス様の思いも分からない害虫なんてこの世にいらない。アトラス様ために消えてもらう」


男は言う。


「そもそもあいつが悪いんだろ!俺らより蛮族なんかを優先するから!あいつは言われて当然のやつだ!」


アレスは怒る。


「黙れ。アトラス様を侮辱するな!」

「やはりお前らはアトラス様の優しさを貪る害虫だな死ね!」


剣を振りかざす。その刃が男の首を捉え飛ぶはずだったがその刃はある人の声により途中で止まる。


「アレス。そこまでだ。」


その声は小さくひび割れた声だったがアレスには聞こえた。その声は彼女が愛して、愛して止まない主のアトラスの声だったからだ。


「アトラス様!?目が覚めたのですね!

今から害虫を始末しますから待っててください!」


彼女にアトラスは絶対零度のような声で言う。


「そこまでだと言ったはずだアレス。」


アトラスは彼女に向けることがなかった冷たく失望した目をしていた。そんな目を向けられた彼女は必死に言葉を紡ぐ。


「彼らは駆除しないと行けないのです!彼らはアトラス様が救ってくれたのにも関わらず不平不満を漏らしてはアトラス様の優しさを無下にするのですから!」


アトラスは冷たく言う。


「お前は俺の許可も命令もなく俺の領民を殺そうとしているのだぞ?それは重い罪だということが分からないのか?」

「俺はお前に領民を殺せなどという命令をした覚えがない。俺が言ったのはあとは頼むの一言だ」

「俺は言ったはずだ。一時的な感情で殺すなと。」


一拍おいてアトラスは言う。

 

「アレスお前に俺は初めて失望した」

「これ以上俺を失望させてくれるな」


アトラスの言葉はアレスの心を剣よりも鋭く切り裂いた。

嫌われる。捨てられる。その文字が彼女の脳裏に浮かんだ。その瞬間、彼女の心は恐怖で染まった。


「アトラス様申し訳ありません!申し訳ありません!」

「アトラス様!お願いします!捨てないでください......!何でもしますから!嫌いにならないで、嫌わないでください....!」

「失望しないで......!。アトラス様に嫌われるくらいなら、捨てられるくらいなら殺してください!」

「お願いします!アトラス様がいないと私、どうしたらいいか分からないんです......!」


彼女はアトラスの足元に泣すがる。その姿は母を求める子のようだった。

そんな彼女をアトラスは数秒眺めてから溜息を吐き彼女の目線に合わせるようにしゃがむ。


「バカな奴だ」


アトラスは泣きじゃくる彼女を全てを受け止めるように抱きしめる。


「あ、あ、あぁ......アトラス様......!」


アレスは過呼吸に近い息遣いのままアトラスの胸に顔を埋める。体温を求めるように。

アトラスは彼女を抱きしめながら


「俺のために怒ってくれたんだろ?その気持ちは嬉しい」

「だがな、俺のために人を殺そうとするな。そんなことで手を汚すな。お前の手は守るためにあるんだから」

「お前の怒り、憎しみ全部俺が背負う」


アレスの顔を両手で上げさせて額を合わせる。

彼女の怒りや憎しみがアトラスの身体に傷となり移る。少し顔を歪めるがすぐにデモ隊達の悪の感情も全て吸い取る。


「お前たちの恐怖も、この身勝手な従者の罪も、すべて俺が引き受ける。だから、これ以上俺のヴァスタスを汚すな」


痛みが彼をおそうが彼は気にしない。彼はアレスを眠りに誘うように撫でる。


「今は眠れ。また起きた時に話を聞かせてくれ。

俺はお前を嫌いにならないし捨てない。安心して眠れ」


領民達もセラフィナもアレスも確かに見た。アトラスの王としての資質を。

資質は行動によって計られるのだ。

 

いつも呼んでくれてる人ありがとうございます!

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