第9話「嫌な魔法開発」
魔法ゼミナールに通い始めて数日。
卑野劣呉は、とある重大な問題に直面していた。
「……魔力が少ない」
魔法の授業、実技訓練、魔力測定。
結果は散々だった。
「魔力量、平均以下ですね」
先生は少し困った顔をする。
「無詠唱ができるほど魔法制御能力は高いのですが……」
「使える回数が少ないです」
劣呉は黙った。
普通の魔法使いなら、魔力を増やす修行をする。強力な魔法を覚える、高位魔法を目指す。
しかし、卑野劣呉は違った。
「魔力が少ないなら」
「一回の魔法で相手を嫌がらせすればいい」
考え方が完全に間違っていた。
その日から。
劣呉の研究が始まった。
普通の魔法研究室。
火炎魔法。
回復魔法。
防御魔法。
そんな中。
劣呉のノートだけ異常だった。
『効率的に勝つ魔法』
『相手が嫌がる魔法』
『戦闘継続能力を奪う魔法』
先生はそのノートを見て絶句した。
「……これは?」
「魔法開発です」
「いや、方向性が怖いです」
しかし、効果を見ると馬鹿にできない。
劣呉が最初に開発した魔法。
『唾液を針状にして飛ばす魔法』
魔法名そのまま。
見た目は最悪。
威力も低い。
だが、相手からすると精神的ダメージが大きい。
「なんで最初にそれを作ったんですか?」
先生が聞く。
「敵は嫌がると思ったので」
「発想が悪役なんですよ」
劣呉は真顔だった。
次
『相手の髪の毛を毟る魔法』
もちろん、本当に危険な攻撃ではない。
ただ、戦闘中に突然髪型を崩される。
相手の集中力は大きく乱れる。
「戦闘能力ではなく精神を攻撃している……」
先生は頭を抱えた。
さらに。
『一瞬で物を奪う魔法』
相手の武器を遠くへ飛ばす。
装備を外す。
持ち物を移動させる。
使い方次第では、普通の魔法使いより遥かに厄介だった。
「これ、犯罪に使えませんよね?」
先生が確認する。
「戦闘用です」
「本当に?」
「……」
劣呉は目を逸らした。
そして、極めつけ。
『相手の服が弾け飛ぶ魔法』
劣呉曰く。
「防具を無効化するための魔法」
しかし、周囲の反応は、
「変態」
「最低」
「発想がおかしい」
完全一致だった。
「いや、俺は大魔族との戦闘を想定してるだけなんだけど」
誰も信じなかった。
この世界では。
魔法よりスキルの方が優先される。
強力なスキルを持つ者は、魔法使いより上位に立つこともある。
しかし、
最終的に一番強いもの。
それは、
物理攻撃だった。
剣、拳、巨大な武器、単純な力。
それが最も信頼される世界。
だからこそ、劣呉の戦い方は異端だった。
強い魔法を撃たない、派手な必殺技もない。
ただ、
「相手が嫌がることをする」
それだけ。
ある日の実戦訓練。
相手は魔法を得意とする上級生。
「君みたいな初心者が、僕に勝てると思う?」
相手は大量の魔力を放出する。
周囲の生徒が驚く。
圧倒的な魔力差、普通なら勝負にならない。
しかし、
「じゃあ、始めます」
劣呉は構える。
相手が魔法を発動する。
その瞬間
『一瞬で物を奪う魔法』
杖が消える。
「え?」
続けて。
『唾液を針状にして飛ばす魔法』
「うわっ!?」
さらに、
『相手の髪の毛を毟る魔法』
「ちょっと待て!」
最後に、劣呉は普通に近づいた。
そして、拳。
相手は倒れる。
教室が静まり返る。
「……」
「……」
「結局、最後は物理?」
先生が呟いた、劣呉は頷く。
「魔法は補助です」
「勝てばいいので」
その瞬間、全員が理解した。
卑野劣呉。
この男、魔法使いではない。
魔法を使う、戦闘狂だった。
こうして、異世界史上類を見ない。
性格の悪い魔法体系が誕生した。
後に人々は呼ぶ。
『卑野式嫌がらせ魔法』と。




