↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/31

第7話「喧嘩上等」

 冒険者になって初めての依頼。

 内容、草刈り。

「……」

 卑野劣呉は依頼書を見つめていた。

「魔王討伐は?」

 ない。

「巨大な魔物との戦闘は?」

 ない。

「伝説の剣を探す冒険は?」

 ない。

 あるのは。

『薬草採取用の草原整備』

 という、非常に平和な依頼だった。

「まあ……」

 劣呉は鎌を握る。

「死なないだけマシか」

 隣では筋肉三人組が元気に草を刈っていた。

「うおおおお!」

 ガルドが叫びながら草を抜く。

「これが冒険だ!」

 ボルグも叫ぶ。

「自然との戦いだ!」

 ドランも叫ぶ。

「草に負けるな!」

 劣呉は思った。

(こいつら、草刈りを戦場だと思ってないか?)

 しかし。

 結果だけ見れば優秀だった。

 三人の筋力によって、予定より遥かに早く作業終了。

 依頼主も驚いた。

「こんな短時間で終わるとは……」

 報酬を受け取る。

 銀貨数枚。

 劣呉は笑った。

「初めて自分で稼いだ金だ」

 異世界生活。

 最初の収入。

 たとえ草刈りでも、劣呉には少し嬉しかった。

 その夜。

 冒険者ギルド併設の酒場。

 木製のテーブル。

 賑やかな話し声。

 ジョッキがぶつかる音。

 冒険者たちが今日の戦果を語る、異世界らしい場所だった。

 劣呉たちも席についていた。

「乾杯!」

「初依頼達成!」

 筋肉三人組は豪快に酒を飲む。

 劣呉はその様子を見ながら思った。

(……意外と悪くないな)

 その時だった。

 ガタン。

 近くのテーブルが揺れる。

 数人の冒険者が立ち上がった。

「おい」

 見るからに荒っぽい男が近づいてくる。

「新人だろ?」

 劣呉を見る。

「稼いだ金、少し分けろよ」

 酒場の空気が変わる。

 周囲の冒険者たちは「ああ、またか」という顔をしていた。

 新人狙い。

 よくあるトラブルらしい。

「断る」

 劣呉は即答した。

「これは俺たちが働いて得た金だ」

 男は笑う。

「生意気だな」

 一歩近づく。

 筋肉三人組が立ち上がる。

「おい」

「うちの仲間に何か用か?」

 空気が張り詰める。

 しかし。

 劣呉は手で制した。

「待て」

 そして考える。

(相手は複数)

(普通に戦えば面倒)

(なら……)

《生存術》

 発動。

 状況分析。

 相手の人数。

 武器。

 周囲の配置。

 そして。

 一番安全な突破方法。

 劣呉の頭に答えが出る。

「……よし」

 次の瞬間。

 劣呉は床に置かれていた草刈り用の鎌を拾った。

「え?」

 周囲が固まる。

「いや、なんで酒場に草刈り鎌を持ち込んでるんだ?」

 誰かが呟いた。

 もっともな疑問だった。

 劣呉は依頼帰りだった。

 つまり。

 まだ持っていた。

「動くな」

 劣呉は相手を見る。

 相手の仲間にいた女性冒険者の近くへ移動する。

「ちょっと待て!」

 酒場中がざわつく。

「人質!?」

「新人、初日からやばいぞ!」

 しかし。

 女性冒険者本人は冷静だった。

「……あなた、たぶん頭いいけど」

「はい」

「やってること最低に見えるよ」

「自覚はあります」

 劣呉は即答した。

 その潔さに全員が困惑した。

「そこ認めるの!?」

 そして。

 劣呉は相手の隙を突く。

 投げたのは。

 酒場に置いてあった練習用のダーツ。

 狙いは完璧。

 ただし。

 相手の戦意を失わせるための、完全な奇襲だった。

「うわあああ!?」

 男はその場で動きを止める。

 周囲は静まり返る。

 数秒後。

「……」

「……」

「……」

 酒場の全員が思った。

(この新人、戦い方が汚い)

 筋肉三人組も呆然としていた。

「劣呉……」

「なんだ?」

「お前、勇者じゃなくて軍師向きじゃないか?」

 劣呉は首を傾げる。

「勝てばいいだろ」

 その言葉に。

 酒場の全員が納得してしまった。

 正しい。

 でも。

 何かがおかしい。

 翌日。

 冒険者ギルドには新しい噂が広がった。

『森から来た裸の男』

 に続き。

『草刈り鎌を持った危険な新人』

 という新たな称号が追加された。

 卑野劣呉。

 本人は普通に生きたいだけ。

 しかし、

 なぜか毎回、伝説だけが増えていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。