第27話 最恐と最強
王都を包む静寂。
その中心で。
勇者と斎藤だけが向かい合っていた。
誰も近寄れない。
近寄るだけで、本能が叫ぶ。
「逃げろ」と。
斎藤は口元を歪ませる。
「ふぉっふぉっふぉ。」
「随分と怒っておるようじゃのう。」
勇者は何も答えない。
ただ静かに草薙神剣を抜いた。
その瞬間。
世界が止まったように感じた。
「……。」
劣呉は思わず息を飲む。
「何だ……あの圧。」
勇者が一歩踏み出す。
「斎藤。」
「372人」
「お前は人生を実験道具にした。」
「許す理由が見当たらない。」
斎藤は肩をすくめた。
「失敗は成功のマザーじゃ。」
その一言だった。
勇者の中で何かが切れた。
「……そうか。」
「なら。」
「ここで終わらせる。」
勇者の周囲に無数の魔法陣が展開される。
空間そのものがねじ曲がった。
見えない扉が開き始める。
「武器庫、接続。」
何百。
何千。
何万という武器が虚空から姿を現した。
剣。
槍。
弓。
斧。
見たこともない兵器。
そして生物の気配。
世界の裏側が開いたようだった。
「解析開始。」
勇者の瞳が淡く輝く。
「対象。」
「斎藤雅之。」
「能力解析。」
「テカリエネルギー確認。」
「黒染確認。」
「未知因子確認。」
「上書き開始。」
勇者が静かに告げる。
「《オーバーライド》」
瞬間。
斎藤の周囲に浮かんでいた黒い魔法陣が一斉に砕け散った。
「ほう。」
斎藤は少し驚いたように笑う。
「やはり厄介じゃ。」
勇者は地面を蹴った。
姿が消える。
次の瞬間には。
斎藤の目の前だった。
「遅い。」
神剣が振り下ろされる。
ギィィィィン!!
斬られたのは空間だった。
斎藤は異様な動きで身を捻る。
ゴキブリのように。
常識ではあり得ない軌道。
「エレガントダッシュ。」
「略してGステップじゃ。」
「気持ち悪っ!」
劣呉が思わず叫ぶ。
勇者は追撃する。
「創造。」
何もない空間から巨大な光の槍が生まれる。
「貫け。」
数百本。
数千本。
空を埋め尽くす槍。
それが一斉に降り注いだ。
だが。
斎藤は両腕を広げる。
「《禿光》」
頭頂部が太陽のように輝く。
黄金色の閃光。
その光には質量があった。
轟音とともに光が押し寄せる。
槍が砕ける。
地面が抉れる。
王都の石畳が何百メートルも吹き飛んだ。
兵士たちは衝撃だけで吹き飛ばされる。
「うわぁぁぁ!」
「離れろ!」
劣呉は必死に伏せる。
「光なのに……重い……!」
勇者は正面から受け止めた。
「解析完了。」
「禿光。」
「光属性と精神干渉の複合現象。」
「ならば。」
「書き換える。」
オーバーライドが発動する。
禿光の一部が揺らぐ。
しかし。
完全には消えない。
「……?」
勇者の眉がわずかに動く。
「上書きできない?」
斎藤は初めて大声で笑った。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ!」
「まだ完成しておらんからのう!」
「未完成だからこそ!」
「定義が曖昧なんじゃ!」
勇者は静かに剣を構え直す。
斎藤も白衣を翻した。
今度は斎藤の表情から笑みが消える。
「勇者。」
「少し本気を出そうかの。」
王都の上空。
二人の放つ魔力だけで雲が消えた。
世界最強の勇者。
世界最恐の科学者。
人類史上最大の戦いが、ここから始まろうとしていた。




