第23話 奴の目的
王都レグナスは静まり返っていた。
先ほどまで暴れていた黒い魔物は跡形もなく消え去り、砕け散った城門だけが戦いの激しさを物語っている。
兵士たちは誰一人として、青銅色の剣を持つ男へ近付けなかった。
ただ一人を除いて。
「……あの。」
卑野劣呉だった。
男は振り向く。
「何だ。」
「聞きたいことがあります。」
男は黙って続きを促した。
「何が始まるんですか。」
「あなたは何者なんですか。」
「どうしてこんなことが起きているんですか。」
周囲の兵士たちも息を呑む。
男はしばらく黙っていた。
そして、静かに口を開いた。
「私は――」
「かつて、魔王や賢者と戦っていた。」
一瞬、空気が止まる。
「……勇者だ。」
その言葉に広場がざわついた。
「勇者……?」
「伝説の?」
「そんな馬鹿な……。」
男は誰の反応も気にしない。
「これから始まるもの。」
「それは厄災だ。」
劣呉は思わず聞き返した。
「ハゲカタストロフ……ですか。」
勇者はゆっくりとうなずく。
「ああ。」
「歴史書に残る災厄など、前座に過ぎない。」
その一言に、全員の表情が凍り付く。
「では……。」
劣呉は震える声で尋ねる。
「敵は魔王なんですか?」
勇者は首を横に振った。
「違う。」
「やつは。」
一拍置く。
「神になろうとしている。」
「……神?」
誰も意味を理解できなかった。
神とは信仰の対象であり、倒す相手ではない。
勇者の視線は、王都のはるか彼方を見つめていた。
「この世界を書き換えるために。」
「やつは準備を続けている。」
劣呉は息をのむ。
「やつって……誰なんですか。」
勇者は答えなかった。
その代わりに、ゆっくりと足元へ視線を向ける。
「……気付いたか。」
「え?」
劣呉も地面を見る。
砕けた城門。
その瓦礫の隙間から。
淡い青白い光が漏れていた。
「これは……。」
兵士の一人が瓦礫をどける。
すると。
地面いっぱいに描かれた巨大な魔法陣が姿を現した。
「転移魔法……!」
誰かが叫ぶ。
禁術。
数百年前に失われたはずの魔法。
その魔法陣が、城門の真下に最初から仕込まれていたのだ。
勇者は目を細める。
「もう始まっている。」
「奴は……。」
「すぐ近くまで来ている。」
その場にいた全員の背筋を、冷たいものが駆け抜けた。




