第20話 卑野式交渉術
予言の壁画を発見した劣呉は、急いでベースキャンプへ向かっていた。
「早く報告しないと……!」
その時だった。
ガシャッ!!
物陰から一体のスケルトンが飛び出してきた。
「カタカタカタ!」
「うわっ!」
劣呉は反射的に足払いをかける。
スケルトンは派手に転んだ。
「今だ!」
ロープでぐるぐる巻き。
「カターーーッ!?」
ものの数秒で拘束完了。
「情報源ゲット。」
劣呉はスケルトンを肩へ担ぐ。
「お前、ちょっと来い。」
「カターーーッ!!」
ベースキャンプ。
「調査お願いします。」
研究員たちがスケルトンを囲む。
「ふむ……。」
「普通のダンジョン産スケルトンですね。」
「特に変異はありません。」
「そうですか。」
劣呉が肩を落とした、その瞬間。
ドドドドドド!!
見張りが叫ぶ。
「敵襲ーーー!!」
キャンプの外を見ると。
数百体を超えるスケルトンが押し寄せていた。
「カターーーー!!」
「カタカタカターーー!!」
「仲間を返せぇぇぇ!!」
キャンプは大混乱。
「多すぎる!」
「迎撃しろ!」
「間に合わない!」
誰もが負けを覚悟した。
その時。
「……任せてください。」
劣呉が静かに前へ出た。
「え?」
「何する気ですか?」
十分後。
キャンプの中央。
巨大な鍋。
大量の水。
薪。
野菜。
にんじん。
玉ねぎ。
長ねぎ。
そして、
ぐるぐる巻きのスケルトン。
「カタッ!?」
スケルトンが嫌な予感しかしない顔をする。
「点火。」
ボッ。
薪に火が付いた。
「カタァァァ!?」
劣呉は木べらで鍋をかき混ぜる。
「うん。」
「まだぬるいな。」
「カターーーー!!」
キャンプの外のスケルトンたちが騒ぎ始める。
「隊長ーーー!!」
「煮られるぞーーー!!」
「助けろーーー!!」
劣呉は真顔だった。
「聞こえるか。」
「カタ?」
「三十秒以内に全員武器を捨てて帰れ。」
「さもないと。」
木べらを持ち上げる。
「今日の献立は……。」
一拍置いて。
「骨スープだ。」
「カタァァァァァァ!!!」
鍋の中のスケルトンが大絶叫する。
「まだお湯じゃない!まだ水だろ!」
「でも怖いんだよォ!!」
外のスケルトンたちも大混乱。
「隊長が煮込まれる!」
「やめろォォォ!」
「人質だ!」
「いや骨質だ!!」
劣呉は静かに鍋へ手を添えた。
「……そろそろ温まってきたかな。」
「カターーーーーッ!!」
その一言で。
スケルトン軍団は一斉に武器を放り投げた。
「降参!!」
「帰る!帰ります!」
「隊長だけは勘弁してください!!」
数百体のスケルトンは、来た時以上の速さでダンジョンの奥へ逃げていった。
キャンプは静まり返る。
「…………。」
誰も何も言えない。
一人の隊員が震えながら呟く。
「勝った……。」
別の隊員が劣呉を見る。
「魔法じゃなくて交渉で?」
「いや。」
もう一人が首を振る。
「交渉じゃない。」
「脅迫だ。」
劣呉は鍋の火を消しながら、小さく呟いた。
「戦わずに勝つ。」
「これが、卑野式交渉術だ。」




