第14話 地獄の卒業試験前日
あれから一年。
卑野劣呉は、四十歳になっていた。
「……早かったな。」
異世界へ来てから、毎日のように魔法を学び、魔物に追われ、意味不明な授業を受け続けた一年だった。
そして、ついに明日。
全国共通魔法学試験。
魔法学院を卒業できるかどうかを決める、一年で最も重要な試験である。
劣呉は机へ向かい、教科書を開いていた。
「カルプス・ペストン回路……。」
「MTP合成酵素……。」
「MPRNA……。」
「ハゲカタストロフ……。」
「白髪染めは禁止……。」
「ラーメンは極刑……。」
「何だこの教科書。」
思わず頭を抱える。
それでも勉強は続けた。
なぜなら。
「今回はカンニングできない。」
これまでの人生。
卑野劣呉は、ありとあらゆる卑怯な手段を考えてきた。
「前の世界なら……。」
消しゴムに答えを書く。
袖へメモを隠す。
机へ小さく書く。
友達を見る。
スマホを使う。
そんな方法はいくらでもあった。
しかし。
この世界は違う。
試験会場には。
対カンニング魔法。
読心阻害魔法。
視線追跡結界。
透明化解除魔法。
通信遮断結界。
さらには。
不正検知魔法。
「……誰だこんなの作った奴。」
魔法文明の本気を感じた。
しかも筆記だけでは終わらない。
実技試験まである。
嫌がらせ魔法だけでは卒業できない。
「終わった……。」
そう思った。
だから。
勉強するしかなかった。
「……覚える。」
「覚えるしかない。」
劣呉は参考書を開き直した。
外では夜風が吹いている。
時計を見る。
午前二時。
「まだ三時間は勉強できる。」
異世界へ来る前なら。
絶対にあり得なかった。
部屋へ引きこもり。
匿名でアンチコメントを書き込み。
一日を終えていた男。
それが今では。
眠気と戦いながら机へ向かっている。
「人って……変われるもんなんだな。」
本人よりも。
この物語の製作者の方が驚いていた。
「まさか勉強する主人公になるとは。」
劣呉はその言葉を知らない。
ただ静かに。
教科書をめくった。
明日は。
人生で一番長い一日になる。




