第11話 「凄まじい嫌悪感」
劣呉が目を覚ますと、木造の天井が視界に映った。
「……ここは?」
身体を起こそうとした瞬間、全身に激痛が走る。
「まだ動かないでください」
治療班の女性が慌てて制止した。
「ここはダンジョン上層ベースキャンプです」
「ベースキャンプ……?」
劣呉は辺りを見渡した。
担架が並び、負傷した生徒や探索者が次々と運び込まれている。
腕を骨折した者。
全身包帯だらけの者。
泣き崩れる者。
誰もが疲弊していた。
「大型魔物は……?」
女性は首を横に振る。
「分かりません」
「先生は?」
「……それも」
言葉が詰まる。
「現在も捜索中です」
その一言で、空気が重くなった。
あの場に残った先生だけが、まだ戻ってきていない。
劣呉は黙って拳を握った。
「そういえば……」
近くの探索者が口を開く。
「助かった生徒全員、不思議なことを言ってるんだ。」
「何ですか?」
「気が付いたら、もうベースキャンプにいたらしい。」
「……え?」
「誰に運ばれたのかも分からない。」
周囲にいた生徒たちも頷く。
「俺も覚えてない。」
「目を閉じた次の瞬間にはここだった。」
「運んでくれた人を見た奴はいない。」
治療班も困惑した表情を浮かべる。
「搬送記録にも『発見時には全員並べられていた』としか書かれていません。」
「誰が運んだんだ……?」
答えられる者はいなかった。
その時、入口付近が少し騒がしくなった。
「おい、見ろ!」
一人の女性が治療を受けていた。
長い耳。
整った顔立ち。
エルフだった。
しかし、その美しい白髪は――
真っ黒に染まっていた。
「えっ……?」
「昨日までは真っ白だったよな?」
「何があった?」
本人も髪を触りながら首を傾げている。
「……戻らない。」
魔法で洗っても。
浄化魔法をかけても。
黒く染まった髪は元に戻らなかった。
探索者たちは顔を見合わせる。
「現場では、とてつもない嫌悪感を感じたって話だ。」
「嫌悪感?」
「ああ。本能が拒絶するような気配だったらしい。」
「俺は別の話を聞いた。」
「何だ?」
「ダンジョンの奥が異様にテカってたそうだ。」
「テカってた?」
「意味は分からん。」
さらに別の探索者が口を開く。
「誰かが叫んでたんだ。」
「何て?」
「『実験は成功じゃ!』って。」
一同は沈黙した。
「研究者か?」
「知らん。」
「いや、それより臭いだ。」
回収班の男が鼻を押さえる。
「現場一帯、白髪染めみたいな臭いがしてた。」
「白髪染め……?」
「あと。」
男は真顔で続けた。
「床にスパゲッティが落ちてた。」
「…………」
「茹でたやつ。」
「何でだよ!!」
誰一人、その理由を説明できなかった。
先生は行方不明。
大型魔物も消息不明。
助かった生徒は、気が付けば全員ベースキャンプにいた。
誰が運んだのかも分からない。
現場に残されていたのは、
凄まじい嫌悪感。
謎のテカリ。
「実験は成功じゃ」という謎の声。
白髪染めのような臭い。
黒く染まったエルフの髪。
そして、
なぜか落ちていたスパゲッティだけだった。
劣呉は青ざめた顔で呟く。
「……もう、あのダンジョンには行きたくない。」
この形なら、**「先生はどうなったのか」「誰が助けたのか」「黒髪になったエルフはなぜ?」**という謎が増えるので、次の話への引きも強くなるよ。




