第39章 アニメ風
沖縄本島北部のビーチ。
巨大な船体を砂浜に深く沈めた護衛艦「いずも」は、波に揺られながらも微動だにしなかった。航行能力を失ったその姿は、一見すれば敗北の残骸。しかし、艦内で進む作業は、まさに逆境を跳ね返す「変貌」の営みであった。
片倉大佐、渡会艦長、山名三尉、三条らの指揮の下、艦内の隅々まで緊急改修が施されていた。時間は限られ、資材は乏しく、人員は疲弊している――それでも彼らは手を止めなかった。
改修はまず、艦体の固定から始まった。
海側には鉄板や廃材、土嚢が幾重にも積み上げられ、即席ながら耐弾隔壁として機能する。浮力喪失を防ぐ補強も施され、「いずも」は航行艦から「洋上砲台」へとその役割を変えていった。
飛行甲板には土嚢とサンドバッグが山のように積まれ、鉄板が溶接され遮蔽壁となる。艦橋や通信設備といった「艦の頭脳」部分は厚い装甲板で覆われ、機銃掃射やロケット弾から守られる。完全な防御にはならなくとも、最後まで「指揮を止めない」ための執念だった。
火力の増設も急ピッチで進んだ。
陸自から持ち込まれた火器、牛島守備隊の九四式山砲、九〇式野砲、旧海軍の九六式25mm機銃――それらが艦上や舷側に据え付けられた。即席の架台に載せられた火砲は、LCACや上陸艇を狙う「牙」として並んでいった。
艦の神経系にあたる電源も再編され、冷却システムが増設される。
「レーダーの目は曇らせない」――その一点に全力が注がれた。F-35Bの運用に必要な熱管理も確保され、最低限の航空支援能力は維持された。
「艦長、AESAレーダー拡張作業完了しました」
三条の声は疲労をにじませながらも、はっきりと響いた。
「F-35BとP-1から外した部品を組み合わせ、仮設アンテナを設置。これで監視精度が向上しました」
山名がモニターを確認し、鋭く頷く。
「敵は、我々がどこまで“見ている”かを知らない。それこそ最大の武器になる」
格納庫の一部は、応急の「戦闘出撃セル」へと変貌していた。
武装ラック、燃料パイプ、点検台――すべてが最小限ながら効率的に並べられ、出撃準備は30分以内で行える。F-35Bは1日1 sortie、それが限界。しかし、その一撃を最大の効果に変えるための整備環境が整えられた。
「情報中継ノードの構築完了。地上守備隊、旧海軍砲台、F-35Bすべてと即時リンク可能です」
渡会艦長の報告に、艦橋内の空気がわずかに引き締まった。
「いずも」はもはや艦ではない。戦域全体の指揮・情報の中枢。固定式の司令塔として、沖縄戦線を統括する存在へと変貌したのだ。
さらに、欺瞞工作も施された。
偽装ネット、モックアップ砲塔、カモフラージュ塗装。熱源分散装置までも設置され、偵察機や衛星からの探知を妨げた。
「これらは無力ではない。命中率を下げ、一秒でも長く生き延びるための抵抗だ」
片倉大佐が低く言い放つ。
いずもは、もはや単なる空母ではなかった。
それは「洋上指揮所」「砲撃基地」「F-35Bの発進拠点」――沖縄防衛の中核として、新たな姿を纏いつつあった。