第3章 アニメ風
1945年4月9日、南西諸島海域。
戦艦大和の艦橋に、かつて想像すらできなかった光景が広がっていた。昭和の旧帝国海軍と、令和の海上自衛隊――二つの時代の軍人たちが一堂に会し、作戦会議を迎えようとしていたのだ。
海上は穏やかだった。B-29の影もなく、ただ波の音と潮風が甲板を渡るばかり。その静けさが、逆に場の緊張を際立たせていた。
「皆、本日は、時を超えた意味での“合同作戦”となる」
制服の胸に階級章を光らせた男が一歩前に出た。海上自衛隊第2護衛艦隊司令官、横瀬一佐である。
彼の背後には、「いずも」艦長の渡会、潜水艦「そうりゅう」艦長の長谷、そして戦術AIオペレーターを務める山名三尉が並ぶ。
旧海軍の将校たちは言葉もなく、その姿を凝視した。
「歴史上、この地点で日本は敗れ、沖縄を奪われた。しかし――我々の持ち込んだ戦力と知識があれば、歴史を変えられる」
山名が端末を操作すると、会議室の中央に立体映像が浮かび上がった。
沖縄本島、米軍の上陸計画、航空写真、敵艦艇の動き。昭和の将校たちは息を呑む。初めて目にする三次元戦場図に、ただ圧倒されるばかりだった。
「米軍は慶良間から那覇へ大規模な上陸を開始する見込みです。主力は揚陸艦、上陸用舟艇。それを守る空母からF6F、B-25が発艦します。迎撃は我々のイージス艦群とF35Bで対応可能です」
古賀少将が口を開いた。
「だが、大和の火力も健在だ。副砲も高角砲も整備済み。……問題は航空機との連携だ」
「可能です」渡会艦長がきっぱりと答える。
「F35Bが敵空母を牽制します。大和は艦隊中央に据え、米上陸艦を叩く。周囲は我々の護衛艦が防空と対潜を担う」
短い沈黙。次の瞬間、誰かが小さく拍手した。やがてそれは広がり、異なる時代の兵士たちが一つの決意へと収束していった。
***
潜水艦「そうりゅう」。水深130メートル。
静かな闇の中を、影のように滑っていた。
「敵潜水艦のノイズなし。ただし駆逐艦三隻、東方より接近中」ソナー員の声が響く。
「よし、デコイ展開。静音モード最大。機関停止」
長谷艦長の指示に、艦が一瞬で静寂に沈む。金属の軋みさえも消え、水圧の重みだけが艦内に伝わる。
長谷は思う――21世紀の兵器が、昭和の戦場に身を投じている。戦争の歴史の継ぎ目に、自分は立っているのだ、と。
***
その夜。太平洋上。
護衛艦「いずも」の飛行甲板に、次々とヘリとドローンが着艦していく。艦橋では、大和との戦術通信が確立されつつあった。
「艦砲射撃支援に入る。大和は15分後に北西へ転進。主砲斉射のタイミングに合わせ、我が艦隊が電子妨害を実施する」
山名が叫ぶ。
「電子戦機、離艦確認! ECM起動まで、あと30秒!」
その様子を、大和の甲板から見上げる整備兵たちがいた。ゼロ戦を磨いていた手を止め、口を開けたまま。
「あれが……未来の戦いか……」
***
大和艦内。主砲室。
砲術長・江島中佐は計器を前に、全神経を研ぎ澄ませていた。砲雷長、機関士らも持ち場で息を殺す。
「照準計算完了。目標艦影確認まで、あと十分」
通信が飛び込む。
「こちら護衛艦たかなみ。敵上陸艦、第一陣、三十五分後に那覇接触の見込み」
「了解。第一射撃線、照準範囲拡大」
その刹那。
艦尾から放たれたドローンが米軍のレーダーを狂わせ、衛星回線を遮断する。
夜の帳が下りる中、巨砲の砲身が、静かに、しかし確実に敵へと向きを変えていった。




