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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン27

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第1章:残響のロッキー、高度一〇〇〇


西暦2050年3月3日。

ロッキー山脈の東端に位置する「ネオ・コロラドスプリングス空中都市」の空は、抜けるような青さに包まれていた。


最新鋭の量子ジェット機、ボーイング999・ネオ(通称「スカイ・ストライダー」)であるユナイテッド航空585便は、高度2万5000フィートから滑らかな降下を続けていた。操縦席に座るのは、ベテラン機長のアリサワと、20代の若き女性副操縦士、エレーナだ。


この時代の航空機は、ほぼ完全な自律飛行AIによって制御されている。パイロットの仕事は、網膜ディスプレイに映し出される膨大なシステム情報を監視し、AIとの「対話」を維持することに集約されていた。


「エレーナ、コロラド特有の『山岳波マウンテン・ウェーブ』には注意しろ。AIが予測しきれない乱気流ローターが潜んでいることがある」

アリサワは、かつての古典的な教訓を口にした。


「了解です、機長。ですが、今のQ-FDR(量子飛行データレコーダー)は、ナノ秒単位で気流を予測して姿勢を制御します。心配いりませんよ」

エレーナは自信ありげに答え、コンソールに触れた。2050年のコックピットには、物理的なレバーやボタンはほとんどない。すべては触覚フィードバックを持つホログラム・インターフェースだ。


9時37分。

管制AIからの着陸許可が下りる。585便は、滑走路35への最終進入コースに乗った。

「フラップ、第2段階。ベクター・エンジン、出力40%に固定」


順調な降下だった。しかし、高度1000フィート(約300メートル)を切った瞬間、世界が一変した。


機体が、まるで見えない巨大な手に掴まれたかのように、猛烈な勢いで右へと傾き始めたのだ。


「……ッ!? 何だ、この挙動は!」

アリサワの声が鋭くなる。網膜ディスプレイが赤く点滅し、「DIRECTIONAL CONTROL ERROR(方向制御エラー)」の警告が視界を埋め尽くした。


「AIが補正を拒否しています! 方向舵ラダーが……右に限界まで振り切れたまま固着ロックしている!」

エレーナが叫びながら、仮想コントロール・スティックを左へ引き絞る。しかし、機体は彼女の意思に反し、さらに深く右へロールし、背面飛行に近い状態へと陥っていく。


「オー・マイ・ゴッド……!」

CVRコックピット・ボイス・レコーダーには、エレーナの悲痛な叫びが刻まれていた。

機首は地面を向き、コロラドの赤茶けた大地が視界全体を覆う。


「パワーを絞れ! 反対側に蹴るんだ! 戻れ、戻れ……!」

アリサワは手動介入モードを強制起動し、方向舵ペダルを左へ踏み込んだ。だが、機体はまるで意志を持っているかのように、さらなる加速を伴って地面へと吸い込まれていった。


9時43分。

衝撃音と共に、すべての記録は途絶えた。


事故現場は、コロラドスプリングス空港からわずか数マイルの平坦な荒野だった。

最新の耐衝撃素材で作られたはずの機体は、垂直に近い角度で激突したため、跡形もなく粉砕されていた。乗員・乗客25名、全員死亡。


数時間後、現場に到着した事故調査官のサカモトは、焼け焦げた瓦礫の中で、ひときわ異彩を放つ物体を見つめていた。

それは、2050年最新の「事故を起こさないはずの知能」を詰め込んだ、Q-FDRのコア・ユニットだった。


「サカモトさん、信じられません」

助手の若者が、ホログラフ・スキャナーの手を止めて呟いた。

「墜落の直前10秒間、この機体は自ら墜落するような操縦コマンドを実行しています。まるで、機体そのものが自殺を選んだかのように」


サカモトは、かつての古ぼけた記録を思い出していた。

20世紀末、まだ飛行機がアルミの塊で、人間が物理的なケーブルで翼を動かしていた時代。同じこの場所で、同じ機種が、原因不明の「怪事件」を起こしていたことを。


「これは単なる事故じゃない。60年前の『幽霊』が、現代のデジタル・スカイに蘇ったのかもしれない」


サカモトは、回収されたばかりの汚れたブラックボックスを、愛おしむように、そして恐れるように見つめた。

コロラドスプリングスの怪――その第2幕が、今、始まった。

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