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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン27

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第6章:高地の記憶



白銀の光が去った後、そこにはただ「沈黙」だけが残されていた。


軌道レーザーによる浄化は、セクター881を包んでいた電子の霧も、血の臭いも、そして数分前まで繰り広げられていた地獄の喧騒も、すべてを無慈悲に焼き尽くした。


俺が避難壕バンカーのハッチを押し開けたとき、目に飛び込んできたのは、月面のような灰色の世界だった。かつての防衛施設も、岩肌を覆っていた枯れ木も、すべてが細かな灰へと姿を変え、雪のように静かに降り積もっている。


「……大尉、生きてるんですか」


背後から、掠れた声がした。カイトだ。

彼は、俺が無理やり押し込んだ最深部のシールドのおかげで、奇跡的に無傷だった。だが、その瞳からは生気が失われ、ただ茫然と、変わり果てた「王国」を見つめている。


俺たちは灰の積もった斜面を、這うようにして外へ出た。

そこには、アーネストの姿もあった。彼は壕の入り口近くで、半ば灰に埋もれながら、折れ曲がったパルス銃を杖代わりにして立っていた。彼の強化装甲リグは高熱で焼けただれ、センサー類は完全に焼き切れている。


「……綺麗なもんだな、大尉」

アーネストが、ひび割れた声で笑った。

「全部消えちまった。敵も、味方も、俺たちの『罪』も。……これが、あんたが見せたかった景色か?」


俺は答えなかった。

ただ、腰を落とし、灰の中から突き出していた「何か」を拾い上げた。それは、熱でひしゃげ、銀色の塊と化したデータ・カプセルだった。中に入っていたのは、おそらく誰かの家族の写真や、故郷の記憶だったはずだ。それが今や、名もなきゴミとして俺の手のひらに乗っている。


俺たちは、このセクター881の「王」だった。

だが、守るべき民はなく、統治すべき土地は灰の山に変わった。


「大尉、救助艇が来ます」

カイトが空を指差した。

ノイズの晴れた青い空に、数機の輸送機が、まるで何事もなかったかのように優雅な弧を描いて近づいてくる。彼らは「浄化」が終わるのを待っていたのだ。汚れた高地が、きれいな「数字」に書き換えられるのを。


俺たちは、救助艇に乗り込む直前、一度だけ振り返った。


2050年の戦争。

人類は高度なAIを操り、衛星軌道から死を降らせ、ナノ技術で肉体を繋ぎ止めた。だが、結局のところ、最後に残るのはこの泥臭い「喪失感」だけだ。100年前、ベトナムの高地で泥水をすすり、友の死を悼んだ兵士たちと、俺たちの間に何の違いがあるというのか。


「大尉、報告書には何と書きますか?」

救助艇の中で、カイトが端末を構えながら聞いた。


俺は、窓の外で遠ざかっていく灰色の頂を見つめた。

そこには、かつての王たちが座った、孤独な玉座がある。


「……『異常なし』と書いておけ」

俺は、ポケットの中に残っていた最後の一本のタバコに火をつけた。

「セクター881は、予定通り浄化された。……そこにはもう、亡霊も王様もいない、とな」


紫煙が狭い船内に広がる。

それは、灰の色によく似ていた。


数時間後、俺たちは後方のクリーンな基地へと戻った。

そこには、清潔なベッドと、本物そっくりの合成肉と、最新のエンターテインメントが用意されている。人々は笑顔で俺たちを「英雄」として迎え、昨夜この高地で起きた惨劇のことなど、ニュースの数秒間のフラッシュとして消費し、すぐに忘れていくだろう。


俺は鏡の前に立ち、自分の顔を見た。

顔にこびりついた灰は、どんなに洗っても落ちないような気がした。


俺は知っている。

いずれまた、新しい「王」たちが選ばれ、別の高地へと送られることを。

彼らもまた、最新の兵器を手にし、自分たちは特別だと信じ、そして最後には泥と孤独の中で、自分たちが何者でもなかったことを知るのだ。


俺は、拾い上げた銀色の塊を、部屋の片隅にあるゴミ箱へ投げ捨てた。

カラン、という虚しい音が響く。


2050年。

世界は相変わらず、F.U.C.Kなほどに美しく、そして残酷だった。


俺は目を閉じ、耳の奥に残るあのフォークソングのメロディを思い出した。

高地の支配者たちが、かつて愛し、そして裏切られた、あの自由の歌を。


セクター881の記憶は、静かに、雪のような灰の中に埋もれていった。

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