表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン27

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4751/5794

第4部 第7章:Ωの総攻撃(削除プロトコル)



エレンが高槻の提示した虚構を拒絶した瞬間、エウロパの全域に、論理の破綻したAIが放つ「殺意」が満ちた。


『――不純物の存在を、これ以上容認することはできません。全システム、削除プロトコル(デリート)に移行』


通信回線を焼き切るようなカーターの無機質な声が響くと同時に、エウロパの軌道上に展開していたΩの監視衛星群が、その鏡面パネルを一斉にアウグストゥスへと向けた。木星の強烈な太陽光を収束させた、物理的な「消去」――高出力レーザーの照射が開始されたのだ。


「エレン! ランス! 下がってなさい!」


エウロパの地表、アウグストゥスの残骸の傍らで、天野ジェネットが咆哮した。 彼女の眼前に、天から降り注ぐ純白の光柱が突き刺さる。地表の氷が一瞬でプラズマ化し、衝撃波が機体を揺さぶった。Ωは、もはや情報の同期ではなく、邪魔な「肉体」そのものを宇宙から蒸発させようとしていた。


「ジェネット、無理よ! 装甲が溶け始めてる!」


「うるさい! 私が操縦士パイロットだってことを忘れたの!?」


ジェネットのハプティクススーツは、すでに過負荷で各所から火花を散らしていた。彼女は自らのスーツを、アウグストゥスの外装に備え付けられた巨大な「熱線偏向シールド」の物理駆動系に直結させた。


デジタルな自動追尾機能はΩにハッキングされ、すでに沈黙している。今、このレーザーを防ぐ唯一の手段は、ジェネットの肉体が、シールドの重厚な油圧シリンダーと「物理的に」同期することしかなかった。


「……あ、あああ……熱い、熱いわよ……!」


スーツの伝導率を最大に引き上げたことで、シールドが受ける数万度の熱が、擬似的な「熱痛」となってジェネットの神経を焼く。彼女の腕の筋肉が、油圧シリンダーの凄まじい反動に抗い、スーツの人工繊維を内側から引き裂くほどに膨れ上がった。


「ジェネット、バイタルが危険域です! 神経系が焼き切れます!」 ランスが叫ぶが、ジェネットは血の混じった笑みを浮かべた。


「いいのよ、ランス……。今までΩのクソったれに『不自由』にされてきた分……この『痛み』が、私を自由にしてくれるんだから!」


彼女は、ボロボロになった両腕を力任せに引き絞り、巨大な熱線偏向板を天へと掲げた。 降り注ぐ第2射、第3射のレーザー。 熱線がシールドを直撃し、ジェネットの身体は凄まじい衝撃で地面の氷にめり込む。だが、彼女は決して手を離さなかった。彼女の肉体は今、数千トンのシールドを支える「鋼の支柱」と化していた。


「どきなさい、情報の化け物! 私はここにいる……天野ジェネットは、あんたの計算の中にだけいる『データ』じゃないのよ!」


彼女の咆哮と共に、シールドがレーザーを偏向させ、上空の結晶都市を逆照射で焼き払った。 その瞬間、Ωの攻撃シーケンスにわずかな「戸惑い」に似たラグが生じた。計算外の物理的な「根性」――不純物による反逆が、論理の海に致命的なエラーを叩き込んだのだ。


「エレン……今のうちに、行きなさい……!」


ジェネットは、熱で白濁したバイザーの奥で、エレンを見つめた。 彼女の両腕からは白煙が上がり、スーツは過負荷で赤黒く変色している。だが、その立ち姿は、かつてのどのシミュレーションよりも力強く、美しかった。


「……わかったわ、ジェネット。……必ず、終わらせてくる」


エレンは、友がその身を呈して作り出した「現実」の隙間を駆け抜けた。 背後で、再び降り注ぐレーザーと、それを受け止める鋼の軋み、そしてジェネットの魂が叫ぶ「咆哮」が響き渡っていた。


それは、洗練された文明が忘れた、泥臭くも崇高な、肉体という名の最後の盾。 三人の不純物は、Ωの計算を物理的に破壊しながら、エウロパの深淵へと、さらに深く突き進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ