↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/8113

電波の向こうの未来――第二の時空艦隊


## エピソード40 接触のプロトコル――電波の向こうの未来


昭和二十年四月十八日、午後二時。

東シナ海。


ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」。


司令部作戦室――FICでは、照明が落とされ、コンソールだけが青白く光っていた。


主機出力は抑えられている。


航空燃料。


誘導弾。


交換部品。


どれも減る一方だった。


だが今、片倉一佐が見ているのは残弾表示ではなかった。


大型画面いっぱいに、細い線と時刻、周波数帯、推定送信方位が並んでいる。


電子戦士官・三条律二尉が口を開いた。


「今朝から、米軍側の通信量が明らかに変化しています」


片倉が画面を見る。


「どの系統だ」


「グアム、テニアン、太平洋艦隊方面。加えて沖縄周辺の航空・艦隊管制通信です」


戦術幕僚の神谷一佐が尋ねた。


「暗号は読めたのか」


「いいえ」


三条は即答した。


「本文の完全解読はできていません」


その言葉に、誰も落胆しなかった。


むしろ当然だった。


暗号鍵も換字体系も不明。


しかも一部の通信は、1945年の米軍が使っているはずの方式と明らかに違っている。


「分かるのは交通量です」


三条が表示を切り替えた。


「誰が、いつ、どこへ、どの程度の優先度で通信しているか」


赤い棒グラフが一気に伸びる。


「午前六時以降、テニアン方面と太平洋艦隊系統の送信回数が急増。さらに通常の音声・モールスだけでは説明できない、短時間・高頻度の広帯域通信が断続的に観測されています」


片倉の眉が動いた。


「周波数ホッピングか」


「断定できません」


三条は慎重だった。


「ただし1945年の一般的な艦隊通信とは違います」


神谷が腕を組む。


「新型無線機?」


「それなら説明できます」


三条は別の波形を示した。


「問題はこちらです」


細いパルス列。


複数周波数帯へ瞬間的に広がる信号。


一定周期ではない。


「現代の軍用データ通信に似ています」


室内が静まった。


片倉が尋ねる。


「似ている、というだけか」


「はい」


「Link 16か?」


「そこまで言えません」


三条は首を振る。


「波形を見ただけでシステムを断定するのは危険です。ですが少なくとも、1945年の真空管式無線通信の挙動とは考えにくい」


山名三尉が海図を開いた。


「送信源の方位は?」


「複数観測から、おおむね喜界島東方」


鉛筆が海図へ落ちる。


そこには午前中から断続的に拾われた方位線が重なっていた。


片倉の顔が硬くなる。


「喜界島東方……」


Ep39で現地部隊が巨大水上艦を観測した海域と一致している。


もちろん「いずも」側は、まだその詳細な報告をすべて受け取っているわけではない。


それでも、断片は揃いつつあった。


巨大な不明艦。


異常な通信。


通常の米軍とは異なる電波。


そして、米軍側の通信量急増。


神谷が低く呟いた。


「我々と同じことが、向こうにも起きた可能性は?」


誰もすぐには答えなかった。


三条が静かに言う。


「可能性としては排除できません」


「確率は」


「数字にできる段階ではありません」


片倉は頷いた。


その答えでよかった。


未来の装備を持っているからといって、未知の情報を未来人らしく即答できるわけではない。


分からないものは、分からない。


それが情報判断の基本だった。


「仮に」


片倉が言った。


「米側にも我々と同時代の戦力が現れたとする」


神谷が海図を見る。


「そうなれば、こちらの技術的優位は消えます」


「全部ではない」


山名が言う。


「問題は補給です」


未来の艦艇であっても、


燃料。


航空弾薬。


ミサイル。


予備部品。


乗員。


そのすべては有限である。


片倉は画面に並ぶ電波記録を見つめた。


「向こうも孤立している可能性がある」


三条が頷く。


「もし本当に現代艦なら」


「ならば」


片倉は言った。


「最初から敵と決めるな」


神谷が振り向いた。


「司令?」


「我々と同じ時代から来た米軍なら、1945年の戦争そのものをどう認識しているか分からない」


「しかし、米海軍です」


「だからこそだ」


片倉は静かに答えた。


「八十年後の日本とアメリカは、少なくとも我々の知る歴史では敵ではない」


室内に沈黙が落ちる。


それは、この戦場で初めて生まれた新しい問題だった。


1945年の米軍は敵。


だが未来から来た米軍まで、同じ敵なのか。


誰にも答えはない。


「通信班」


片倉が命じた。


「現代米軍が受信できる可能性のある周波数帯を洗い出せ」


「接触を試みますか」


「まだだ」


即答。


「まず識別する」


片倉は指を折った。


「レーダー放射」


「通信波形」


「航空管制」


「艦載機の運用」


「目視情報」


「一つずつ積み上げろ」


三条が復唱する。


「推定と事実を分離します」


「そうだ」


午後二時二十七分。


FICの大型画面に、新しい表示が追加された。


――喜界島東方海域。


――未確認大型水上目標。


――現代軍用通信類似波形、断続捕捉。


――所属・意図、不明。


最後の文字だけが、他より大きく見えた。


**UNKNOWN**


片倉はその表示を見つめた。


「未来から来たのが、我々だけとは限らない」


誰も答えなかった。


だがその瞬間、


沖縄戦の盤面に、


まだ名前のない第二の未来が置かれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。