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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン25

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第35章 大決戦!雷光 vs 天才マジシャン


雷鳴村の広場は、かつてない緊張感に包まれていた。

空を覆い尽くす漆黒の雲からは、まるで巨人が大地を叩くような轟音が絶え間なく鳴り響き、不気味な案山子たちの鉄棒は、放電の直前であることを示すかのように激しく「ジジジ」と鳴り続けている。

広場の中央には、村人たちの羨望と恐怖の視線を浴びる祭壇。そこには導師・雷光が、背後のバグダッド電池を模した巨大な黄金のオブジェと共に立っていた。

「さあ、不信心者の手品師よ。そして、自称・知性の権威よ。お前たちの最期の時間が来た。神の壺が、お前たちの罪を焼き尽くすだろう」

祭壇の上には、山田奈美子がいつものボロい手品師の衣装で立たされていた。隣には、恐怖で膝が**単振動(たんしんどう:ある点を中心に、一定の周期で往復する運動)**を繰り返し、ガチガチと歯を鳴らしている志村次郎がいる。

「志村さん、しっかりしてよ。私の完璧な計算と、あなたの『物理学者の意地』が合わされば、あんなインチキ野郎、一捻りなんだから」

「わ、わかっているとも、山田君。日科大の私の脳細胞は、すでにこの場の**ポテンシャルエネルギー(物体がある位置にあることで蓄えられているエネルギー)を完璧に解析済みだ。……ただ、少しばかり心臓の脈動(みゃくどう:心臓の拍動によって生じる血液の圧力の変化)**が加速しているだけだ。Why don't you do your best?」

雷光が、黄金の壺に手をかざした。

「いでよ、神の雷!」

その瞬間、広場全体が眩い光に包まれた。雷光の指先から、青白い電光が走り、祭壇の上の奈美子と志村に向かって一直線に伸びた。村人たちが悲鳴を上げ、目を背ける。


しかし――。

「……あれ? 痛くないわね」

奈美子は、平然と立っていた。雷光が放った電撃は、奈美子の体の数センチ手前で、まるで目に見えない壁に当たったかのように四散し、地面へと消えていたのだ。

「な、何だと……!? 私の雷を無効化したというのか!」

「残念だったわね、雷光。あんたのやってることは、全部まるっとお見通しだわ!」

奈美子は、祭壇の上に堂々と一歩踏み出した。

「あんたは、この村の地下に数万個の『バグダッド電池』の模造品を並べ、それを**直列接続(電池を縦につないで電圧を高める方法)にして、巨大な電圧を生み出していた。さらに、村の蔵に隠した最新型のインバータ(直流を交流に変換する装置)と、強力な変圧器(交流の電圧を変換する装置)**を使って、その電気を数万ボルトまで跳ね上げていたのよ。……違う?」

雷光の顔から余裕が消える。

「……貴様、どこまで調べた」

「さらに、あんたは村の地面に大量の酢と塩水を撒き、地面を**導体(電気をよく通す物質)**に変えていたわ。そして、あんたが持っている錫杖の中にあるリモコンで、特定の場所に立っている人間にだけ、蓄えられた電荷を一気に放出させていた。昨日の志村さんや桂刑事が感電したのは、あんたが彼らの足元の回路を『閉じた』からよ」

志村が、震える手を抑えながら得意げに付け加えた。

「左様! だが雷光君、君の失敗は、私のような本物の物理学者の前でその仕掛けを見せたことだ。私が今朝、気絶する直前に君の回路の**周波数(交流電気が一秒間に繰り返す波の数)**を読み取り、山田君の衣装にある『加工』を施したのだ!」

奈美子が、自分の衣装の裏地をチラリと見せた。そこには、大量の「アルミホイル」が細かく、しかし緻密な幾何学模様を描いて貼り付けられていた。


「これは、**ファラデーケージ(Faraday cage:金属の網や板で囲まれた内部には外部の電界が侵入できないという物理現象を利用した空間)の応用よ。あんたの雷は、私の体を流れる代わりに、このアルミホイルの表面を通って、私の靴の裏から地面へとアース(接地:電気回路を地球と接続し、余分な電気を逃がすこと)**されたってわけ」

「おのれえええ! 姑息な真似を!」

雷光が激昂し、祭壇の裏にあるスイッチを力任せに押し込んだ。

「ならば、出力を最大にしてやる! 村中のバグダッド電池のエネルギーを、お前たちのその汚いアルミホイルごと溶かしてくれるわ!」

「ブォォォォォン!」という、巨大な機械音が村中に響き渡った。森の奥にある蔵から煙が上がり、案山子たちの鉄棒が真っ赤に熱を帯び始める。

「山田君! 逃げたまえ! 出力が強すぎて、アルミホイルの**熱容量(ねつようりょう:物質の温度を1度上げるのに必要な熱量)**を超えてしまう!」

「逃げないわよ! ……志村さん、例のやつ、お願い!」

「わかっている! いけえええ、猿渡君!」

その時、広場の端にある古びた鐘楼から、金髪の男――猿渡が飛び出した。

「アニキの仇! これでも食らえっす!」

猿渡が投げつけたのは、大量の「一斗缶」に入った液体だった。それが、森へと続く導線の上にぶちまけられる。

「な、何だ、それは! 水か!?」

雷光が嘲笑う。

「バカめ、水など撒けば、ますます導電性が高まるだけだ!」

「いいえ、それは水じゃないわ」

奈美子がニヤリと笑った。

「それは、志村さんの研究室から送ってもらった、超高純度の**絶縁油(ぜんえんゆ:電気を一切通さない、特殊な精製を施した油)**よ!」

ぶちまけられた絶縁油が、雷光の回路の重要な接合部に浸透していく。

その瞬間、巨大な回路のあちこちで、強烈な火花が散った。


「し、しまった! 回路が**短絡(たんらく:ショート。本来の道ではない、抵抗の極めて低い経路で電気が流れてしまうこと)**し、過負荷がかかっている!」

志村が、計算機を弾きながら叫んだ。

「雷光君! 君が無理やり電圧を上げたせいで、絶縁が破壊された場所に全エネルギーが集中したのだ! 今、君の『バグダッド・メガ・クラスター』は、自らのエネルギーで自壊しているぞ!」

ドォォォォォン!!

森の奥で、蔵が激しい爆発を起こした。インバータ装置が、**ジュール熱(電流が抵抗を流れる際に発生する熱)**によって溶け、巨大な火柱が上がる。

「わ、わしの神の雷が……わしの村がぁぁぁ!」

雷光は祭壇から転げ落ち、地面をのたうち回った。

そこへ、ボロボロになりながらも、一人の男が立ちはだかった。

桂健一刑事である。その手には、なぜか村の巨大な「漬物石」が握られている。

「雷光……。わしの特殊捜査官としての『執念』が、お前の正体を暴いたわい。……見ろ、この漬物石を!」

「アニキ! それ、ただの石っすよ!」

「バカを言え! この石の裏には、この村の資産家たちの遺言書が隠されていたんじゃ。雷光、お前は電池の電気で人を殺したのではない。恐怖で人を縛り付け、その財産を**横領(おうりょう:他人の物を自分の物として勝手に処分すること)**していただけなんじゃ!」

桂はそう叫ぶと、再び風に吹かれた自分のカツラを空中に見事にキャッチし、そのまま雷光の頭に叩きつけた。

「これでも食らえ! わしの怒りの『静電気攻撃』じゃ!」

雷光は、桂のカツラを被ったまま(しかも前後逆で)、ショックのあまり白目を剥いて気絶した。

回路は完全に焼き切れ、村を覆っていた重い雲が、嘘のように晴れていった。

「……終わったわね、志村さん」

「ああ。物理学と……君の、その、何と言ったか……そう、『貧乏根性』の勝利だ、山田君」

二人は、夕焼けに染まり始めた雷鳴村を眺めながら、安堵の溜息をついた。

だが、奈美子は思い出した。

「……ねえ、志村さん。私のギャラ、里子さんに全部回収されたって手紙に書いてあったんだけど、どういうこと?」

「ああ、それかね……。実は、今回の依頼料、里子さんから『娘を一人前の手品師にしてくれたお礼に、私の新しい書道教室の看板代に充てます』という領収書が届いていてな……」

「……お母さぁぁぁぁぁぁん!!」

奈美子の絶叫が、静かになった村の空に響き渡った。

その横で、志村は「これも**因果律(いんがりつ:原因があって結果が生じるという法則)**というものだ」と呟きながら、こっそりと懐のかりんとうを最後の一つまで口に放り込むのであった。


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