第16章 大和の再臨:海の防壁
シュガーローフの米軍再攻撃を退けた数日後、沖縄戦線は新たな局面を迎えていた。米軍は陸上での消耗戦を避けるべく、海上からの大規模な艦砲射撃と、さらなる追加上陸部隊の投入による強行突破を計画していたのだ。その動きを、海上自衛隊の「いずも」艦隊は、その卓越した情報収集能力によっていち早く察知していた。
「艦長、新たな敵増援部隊が南東方向より接近中。輸送艦艇約20隻、護衛艦艇多数。艦砲射撃開始まで、およそ30分と推定されます」
「いずも」作戦室、三条律の声に緊張が走る。モニターには、沖縄本島へと向かう巨大な米軍の増援部隊の影が、いくつも浮かび上がっていた。
片倉大佐は即座に指示を出した。「F35B、最大警戒態勢。敵艦隊の全情報をリアルタイムで大和にデータリンクせよ。特に、砲撃開始位置と上陸地点の正確な座標を」
続けて、彼は沈痛な面持ちで加えた。「弾薬の節約を最優先とする。我々のミサイルは戦略的な目標に温存し、今回の海上防衛は、大和の砲撃能力に全てを託す。大和の射程外の目標には、必要最低限の対艦ミサイルを使用する」
それは、未来の艦隊が、その先進兵器の温存を選び、過去の巨艦に全幅の信頼を置くという、異例の決断だった。
時を同じくして、沖縄沖に展開する海自の輪形陣の中央に位置する戦艦大和の艦橋にも、緊迫した情報が刻一刻と送られていた。海自の護衛艦群からは、米軍艦隊の詳細な配置、艦種、そして砲撃開始予定地点の正確なGPS座標が、簡易なプロトコルと中継機を介して、大和の砲術長・江島中佐のもとへリアルタイムで伝達される。
「砲術長、新たな敵艦隊のデータが入りました。高速輸送船10隻、駆逐艦8隻。主砲の射程圏内に入り次第、即時攻撃に移る模様です」
大和の通信士官が、興奮気味に報告する。
江島は、その情報に目を通し、深く頷いた。彼の砲術は、未来の技術と融合し、すでに新たな次元へと昇華されていた。もはや経験と勘に頼る射撃ではない。データと、上空のF35Bからのリアルタイム着弾観測情報が、彼の砲術の精度を極限まで高めていた。
「よし。主砲、対艦戦闘用意!目標、敵輸送艦群中央、第一弾着観測砲撃を以て、斉射に移行する。副砲は、護衛の駆逐艦群に備えよ。弾着修正は、海自からの情報を頼む!」
江島の声が、艦橋と砲術室に響き渡る。大和の巨砲は、唸りを上げて目標へとゆっくりと指向され始めた。
数分後、水平線の彼方から、米軍艦隊の艦砲射撃が始まった。しかし、その砲弾は、海自の電子妨害と大和への精密な情報提供により、ほとんどが日本の防衛線を逸れて着弾する。
「敵輸送艦隊、射程圏内に入りました!」
「撃てッ!」
江島の号令が轟いた。
戦艦大和の46cm主砲が、再び火炎と轟音を伴って咆哮した。一発の観測弾が放たれ、その着弾情報が即座に海自からフィードバックされる。
「誤差修正!目標中央より右へ200、前方へ50!」
その修正情報を受け、江島は即座に斉射を命じた。
次の瞬間、雷鳴のような轟音が空を裂き、46センチ砲弾が那覇湾上空を横切り、米軍の輸送艦群へと吸い込まれていく。一隻の大型輸送艦に直撃した砲弾は、船体を真っ二つに引き裂き、轟音と共に巨大な水柱と黒煙が上がった。さらに、別の輸送艦にも命中弾が相次ぎ、次々と炎上する。
「主砲、命中弾多数!輸送艦三隻、炎上確認!さらに二隻、航行不能!」
大和の通信室に歓声が上がる。
同時に、大和の副砲も火を噴いた。海自から送られてくる精密な情報に基づき、狙い澄まされた砲弾が米軍の護衛駆逐艦群を襲う。次々と吹き飛ぶ艦橋、機関部に命中し、航行不能となる駆逐艦。米軍は、予期せぬ正確さと破壊力を持つ大和の砲撃に、完全に意表を突かれた。
「敵駆逐艦、一隻沈没!二隻大破!」
副砲からの戦果報告が続く。
「大和の砲撃により、敵増援部隊は壊滅状態です!」
沖縄本島の牛島満大将の司令部にも、その戦果が伝えられた。
海上自衛隊の艦艇群は、必要最低限の対空・対潜警戒を維持しつつ、大和の圧倒的な砲撃を見守っていた。弾薬を温存しつつ、歴史の巨艦が現代の目を得て、その真価を存分に発揮する様は、彼らにとって、ある種の感動を伴う光景だった。