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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第205章 第13章 コリオリ力による偏差

【場所:北側諸国、とある広大な平原】

巨大な岩の上に座り、魔導書を読みふけるエルフの少女と、その横で杖を構える紫髪の少女。そして、遥か彼方に豆粒のように立たされている赤い髪の戦士。


フローレン

「ねえフィビアス。シュペルクまでの距離、どれくらいある?」


フィビアス

「……目測ですが、約40キロメートル(40,000m)です。フローレン様、いくら何でも彼を標的にするのは可哀想では? 彼は震えていますよ」


フローレン

「大丈夫だよ。あの子、頑丈だから。それに今日は『一般攻撃魔法ゾルトラーク』じゃなくて、私の趣味で集めた『鉄の塊を遥か彼方に飛ばす魔法アルティレリー』の実験だからね」


シュペルク(遠くからの叫び声)

「おーい! 全然声が届かないけど、なんか嫌な予感がするんだよなぁ! 帰っていい!?」


フローレン

「さて、フィビアス。ここからあの臆病者を狙撃するとして、普通に真っ直ぐ狙ったらどうなると思う?」


フィビアス

「……風の影響を除外すれば、重力を計算して仰角をつければ当たるはずです」


フローレン

「甘いね。それじゃあシュペルクの遥か右側に着弾して、彼は無傷で済んじゃうよ」


フィビアス

「(無傷ならその方が良いのでは……) 右側? 風もないのにですか?」


フローレン

「地球が回っているからだよ」


フィビアス

「……地球の、自転、ですか?」


フローレン

「そう。40,000mという距離はね、人間にとっては途方もない距離だけど、星にとってはほんの僅かな瞬きみたいなもの。でも、その間に地面は確実に動いている」


フローレン

「いいかい、フィビアス。この『鉄塊を飛ばす魔法』の初速を約780m/sとする。40km先に届くまでの飛翔時間は約98秒。およそ1分半だね」


フィビアス

「1分半……。カップ麺を作るより早いですけど、戦闘中にしては長い時間です」


フローレン

「その1分半の間、弾丸は空中に浮いていて、地球との摩擦から切り離されている。でも、地面に立っているシュペルクや私たちは、地球の自転に合わせて東へ猛スピードで移動しているんだ」


フィビアス

「慣性の法則ですね。でも、弾丸も私たちと同じ速度で東へ動いている慣性を持っているはずです」


フローレン

「そこがミソなんだよ。私たちは今、北半球の中緯度地域にいる。

地球はコマみたいに回っているから、赤道に近いほど回転の移動距離(周速度)が速くて、北極に近づくほど遅くなる。

ここから北、あるいは南に撃つ場合、発射地点と着弾地点では、地面が動くスピードが違うんだ」


フィビアス

「……なるほど。理解しました。

私たちがいる地点の回転速度と、40km先のシュペルクがいる地点の回転速度にズレが生じる。

そのズレの分だけ、空中の弾丸が置いていかれる、あるいは先行してしまうわけですね」


フローレン

「ご名答。これが『コリオリの力』だよ。北半球で長距離射撃をすると、弾道は進行方向に対して必ず『右』に逸れる。

計算式は単純化すると


フィビアス

「計算します。……射程40,000m、飛翔時間98秒、このあたりの緯度を考慮すると……。

コリオリ力による偏差ズレは、およそ100メートルから150メートルになります」


シュペルク(叫び声)

「なんかフィビアスがブツブツ言い出した! 絶対ろくでもない計算してるだろ!」


フローレン

「すごいね、100メートル以上もズレるんだよ。

ヒンメルなら『100メートルもズレたら、君の髪の香りが嗅げないじゃないか』とか言って笑って修正しただろうけど」


フィビアス

「ヒンメル様はそんな気持ち悪いこと言いません。……でも、100メートルもズレるなら、狙撃なんて不可能では?」


フローレン

「だから計算するんだよ。

さらに言うとね、東向きに撃つか西向きに撃つかで射程も変わる。『エトヴェシュ効果』っていうんだけど。

東に撃つと、地球の自転スピードに乗っかるから、遠心力が働いて弾が少し軽くなったように振る舞う。結果、計算より遠くへ飛ぶ(弾着が伸びる)。西だとその逆だね」


フィビアス

「……面倒くさいですね。魔法で自動追尾ホーミングさせればいいじゃないですか」


フローレン

「フィビアス、それは野暮だよ。星の回転を感じながら計算式を組む。これがロマンなんじゃないか」


フィビアス

「フローレン様、それはただの魔法オタクの理屈です。

……でも、分かりました。

シュペルクの方角、緯度、自転速度、全て補正して……あそこ(シュペルクの眉間)に当てればいいんですね?」


シュペルク

「えっ、杖こっち向いてない!? 殺気! すごい殺気を感じるんだけど!!」


フローレン

「あ、待ってフィビアス。その計算、私の魔導書コレクションの中に『コリオリ偏差を一瞬で補正する伝説の魔導書』があったはず……。確かこの辺の洞窟の宝箱に……」


フィビアス

「……フローレン様。あそこにある宝箱、どう見てもミミックです」


フローレン

「わからないよフィビアス! 中身が『超長距離射撃補正全集』である可能性はゼロじゃない!」


フィビアス

「(ため息)……シュペルク、伏せて!!」


シュペルク

「うわあああああ!!(全力で地面に伏せる)」

(ズドォォォォン!!)

40km先、シュペルクのすぐ右側150メートルの地点に、フィビアスの放った魔法が着弾し、巨大なクレーターを作った。


フィビアス

「……ちっ。外しました。やはりコリオリの計算を直感でやるのは難しいですね」


フローレン

「(ミミックに上半身を噛まれながら)


暗いよー! 狭いよー!

……でもフィビアス、今の着弾、右に逸れてたね。やっぱり地球は回っているんだよ」


シュペルク

「俺の命で地球の自転を確認するな!!!」


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