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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第201章 第5章 リベット接合の構造的弱点


【シーン1:ファミレス「ジョリーズ」・バックヤード】

休憩中。野本、制服のエプロンの紐をじっと見つめている。亀山がタバコ休憩から戻ってくる。


亀山

「ちょっと野本さん、さっきから何その紐見つめてんのよ。休憩終わるわよ」


野本

「亀山さん。……このエプロンのボタン、限界だと思いませんか」


亀山

「はあ? 何言ってんの。また訳わかんないこと言い出して」


野本

「いえ、まさに今、このボタンの根元には『せん断応力』がかかっているなと思いまして。亀山さんのウエストの膨張圧により、生地と生地が互いに逆方向へズレようとする力……これがせん断力です」


亀山

「あんたねえ! 誰の腹が膨張圧よ! 喧嘩売ってんの?」


富山

「あ、おつかれっすー。なんすか? 野本さんまたなんか難しい話?」


野本

「富山さん。リベット接合って知っていますか? 昔の戦艦とかに使われていた技術なんですけど」


富山

「リベット? あー、ジーンズについてる金具みたいなやつっすか?」


野本

「そうです。あれは鉄板と鉄板を重ねて、熱したびょうを打ち込んで繋いでいるんです。溶接技術が発達する前は、あれが主流でした。……でも、あれには致命的な弱点があるんです」


亀山

「へえ、弱点ねえ。私のシフトの穴埋めもしないあんたに弱点とか語られたくないけどね」


野本

「魚雷です」


富山

「え、魚雷? 急に話デカくないっすか?」


野本

「魚雷が船体に命中すると、爆発そのものの破壊力もすごいですが、衝撃波が船体を伝わります。その時、リベットはどうなると思いますか? ……頭が飛ぶんです」


亀山

「頭が飛ぶって、あんた……縁起でもない」


野本

「いえ、比喩ではなく。衝撃波で鉄板同士が激しくズレようとした瞬間、リベットの首に強烈なせん断力がかかって、頭の部分……つまり留め具の役割をしている傘の部分が、プチーン!と弾け飛ぶんです。まるで、きつすぎるシャツのボタンが弾け飛ぶように」


亀山

「……(自分の制服のボタンをそっと隠す)」


【シーン2:大学・暇つぶしサークル部室】

放課後。小宮部長がホワイトボードに無数の点を描いている。橋本副部長が漫画を読んでいる。野本が入ってくる。重子と山田はスマホをいじっている。


野本

「野本ともうします。……部長、それは点描画ですか?」


小宮部長

「ああ、野本。違うのよ。これはリベットよ。戦艦大和の装甲におけるリベットの配置を芸術的観点から模写していたの」


野本

「奇遇ですね。私も今、リベットの『死』について考えていたところです」


橋本副部長

「リベットの死? お前、またニッチなところ攻めるな」


野本

「ええ。リベット接合の最大の悲劇は、『水密性の喪失』が連鎖することにあるんです」


山田

「水密性? 水漏れしないってこと?」


野本

「そうです。山田君、想像してみてください。溶接なら、鉄板は一枚の板として繋がっています。でもリベットはあくまで『点で留めている』に過ぎません。そこに魚雷の衝撃波が走ると……」


重子

「走ると?」


野本

「被雷した箇所の周囲のリベットの頭が、衝撃で一斉に破断します。するとどうなるか。鉄板の継ぎ目が口を開けるんです」


小宮部長

「なるほど……。キャンバスの枠が外れて、布がダルダルになる感じね」


野本

「部長、それは少し違いますが、まあ近いです。問題はここからです。一箇所のリベットが飛ぶと、その隣のリベットにかかる負担が急増します。そうやって、パチ、パチ、パチ……と、ファスナーが開くように次々とリベットが壊れていく」


橋本副部長

「うわ、なんか想像したら怖いなそれ。連鎖崩壊じゃん」


野本

「そうなんです。爆発で空いた穴だけならまだしも、衝撃波で緩んだ継ぎ目から、本来なら無事だったはずの区画まで浸水が拡大してしまう。これがリベット接合艦の沈没を早めた要因の一つと言われています」


重子

「へぇー。なんか地味だけど致命的だね」


野本

「はい。不沈艦と呼ばれた船たちが、たった数本の魚雷で沈んでしまった背景には、この『せん断応力によるリベット破断』という物理現象が潜んでいたりするんです。……切ないですよね」


山田

「切ないか? 俺にはただの構造的欠陥に聞こえるけど」


野本

「欠陥ではありません。その時代の技術の精一杯が、巨大なエネルギーの前で無力化される瞬間の儚さです」


小宮部長

「わかるわ野本。それはあれね、一生懸命メイクしたのに、夕立で全部流れ落ちてスッピンになる時の絶望感に似ているわね」


野本

「部長。それは表面張力とか親水性の話になるので、また別の機会に」


橋本副部長

「そこは否定するんだ……」


【シーン3:帰り道・公園のベンチ】

野本、一人で本を読んでいる。


ナレーション(野本):

「リベットは消え、時代は溶接へと移り変わりました。しかし、私たちの日常もまた、見えないリベットで繋ぎ止められているのかもしれません。それが飛んでしまわないよう、私は今日も無理をせず、バイトへ行くのです」


野本

「……あ、シフトの時間間違えた。亀山さんに殺される」

(野本、小走りでフレームアウト)

【終】


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