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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第199章 第4章 リベットとアーク


1. 騒音と静寂のコントラスト

1939年(昭和14年)。呉海軍工廠の船台は、二つの異なる「音」と「光」に支配されていた。

一つは、古来からの造船の音。

「ダダダダダダッ!」

圧縮空気で駆動するニューマチック・ハンマー(鋲打ち機)が、真っ赤に焼けたリベット(鋲)を叩き潰す轟音だ。熟練の鋲打ち職人が、数人がかりで灼熱の鉄鋲をカシメる。その音は数キロ先まで響き渡り、「呉の心臓の鼓動」とも呼ばれた。

もう一つは、新しい時代の光。

「ジジジ……」

不気味なほどの静寂の中で、強烈な青白い閃光だけが瞬く。

電気溶接(アーク溶接)だ。

溶接棒が母材とショートし、数千度のアークプラズマが発生する。その熱で鉄そのものを溶かし、一体化させる。

「うるさいのが旧館、眩しいのが新館か」

牧野茂造船中佐は、溶接用保護面シールド越しに、その青い火花を見つめていた。

大和は、この二つの技術が混在する、過渡期の怪物だった。


2. 重量を削り出せ

なぜ、海軍は信頼性の高いリベットを捨て、発展途上の技術である「溶接」を導入しようとしたのか。

理由は単純かつ切実だった。**「軽量化」**である。

福田啓二ら設計陣の試算は冷酷だった。

「リベット接合の場合、鉄板と鉄板を重ね合わせる『継ぎ手代しろ』が必要になる。さらにリベットの頭の重量も馬鹿にならない」

数百万本のリベットと、そのための重ね合わせ部分。これだけで船体重量は数千トンも増加する。

6万4000トンという排水量制限の中で、極厚の装甲と巨砲を積むためには、船体そのものをダイエットさせるしかなかった。

「溶接なら、鉄板同士を突き合わせて接合できる。継ぎ手代はゼロだ。リベットの頭もない。これで船体重量を徹底的に削る」

牧野の指示は明確だったが、現場の抵抗は凄まじかった。

「中佐、溶接なんて信用できんです!」

ベテランの工長が食って掛かる。

「リベットなら、一箇所が緩んでも他で止まる。だが溶接は、一箇所に亀裂クラックが入れば、それがガラスのように一気に走って船が真っ二つになるかもしれんのですぞ!」

当時の溶接技術はまだ未熟で、冷却時の収縮による「残留応力」や、脆性破壊のリスクが常に懸念されていた。第四艦隊事件(1935年)での船体切断事故も、溶接の不備が一因と疑われていたのだ。


3. ブロック工法の夜明け

牧野は現場を説得するため、そして工期を短縮するために、画期的な生産方式を導入した。

**「ブロック建造法」**である。

従来、船は竜骨キールの上に肋骨フレームを立て、そこに外板を一枚一枚貼っていく「現場合わせ」で作られていた。

しかし大和では、船体をいくつもの巨大なサイコロ(ブロック)に分割し、工場の屋根の下で、あらかじめ溶接で組み上げてしまう手法が採られた。

「下向きで溶接できる」

これが最大のメリットだった。

船台の上では、上を向いて(オーバーヘッドで)溶接しなければならない箇所が出てくる。重力で溶けた鉄が垂れ落ち、品質が悪化しやすい。

しかし、ブロックとして地上で作れば、常に溶接しやすい向きに回転させて作業ができる。

「いいか、溶接の順序を間違えるなよ! 端から順番に溶接すると、熱歪みで全体が反り返るぞ!」

牧野は技術指導員として現場を走り回った。

対称法、飛石法(スキップ法)。熱による収縮を計算に入れ、歪みを相殺するような順番で溶接していく。

それは、熱力学と幾何学を駆使したパズルだった。

こうして作られた巨大なブロック(数十トン〜数百トン)が、クレーンで吊り上げられ、船台の上で積み木のように組み合わされていく。

リベットの騒音は減り、代わりに青白いアークの光が、シュロの簾の中で明滅し続けた。


4. 隠されたバルバス・バウ

そして、大和の船体にはもう一つ、最重要機密とされる形状があった。

艦首(船の先頭)の海面下にある、巨大な球状の突起。

**「球状艦首バルバス・バウ」**である。

「大和は幅が広すぎる。そのままでは水の抵抗(造波抵抗)が大きすぎて、27ノットはおろか、20ノットも怪しい」

水槽実験を繰り返した結果、福田啓二が導き出した答えがこれだった。

原理は「波の干渉」だ。

* 艦首が水を切る時に発生する波。

* 水面下の「球根バルブ」が突き進む時に発生する波。

この二つの波の位相を逆にしてぶつけ、互いに打ち消し合わせる。

抵抗となるはずの波を、別の波で消す。流体力学の魔術だ。

「この突起一つで、3000馬力分のエンジン出力に相当する抵抗減になる」

福田は胸を張ったが、その形状はあまりにも奇抜だった。

長さ3メートル以上飛び出した、巨大な鉄のコブ。

「こんなものを付けたら、いかりを下ろした時にぶつかるんじゃないか?」

「投錨試験は模型で何度もやりました。大丈夫です」

「魚雷が当たったらどうする?」

「この部分は水密区画ではありません。潰れても浸水被害は限定的です」

この球状艦首の取り付けは、深夜、最も信頼できる熟練工だけで行われた。

シュロの簾のさらに内側で、巨大な球体が船体と結合される。

その姿を見た者は、工廠内でも数えるほどしかいなかった。


5. 融合する鉄

1940年(昭和15年)春。

船台の上には、異様な姿の巨艦が鎮座していた。

中央部の装甲ボックス(バイタル・パート)は、信頼性を重視して最新のリベット技術でガチガチに固められている。

その前後、艦首と艦尾の優美な曲面は、電気溶接によって継ぎ目のない滑らかな肌を持っていた。

「リベットの無骨さと、溶接のスマートさ。まるでフランケンシュタインだな」

西尾工廠長が笑ったが、牧野は首を振った。

「いいえ、ハイブリッドです。適材適所。これが今の日本の技術のベスト・ミックスです」

船体工事の進捗率は80%を超えていた。

リベットの「カシメ」による圧縮力と、溶接の「融合」による一体化。

数百万の打点と、数千メートルの溶接線。

それらが一つになり、世界最大、かつ最も複雑な構造を持つ「鉄の浮城」が形作られていた。

あとは、この巨体を海に滑り落とすだけだ。

しかし、6万トンを超える質量を陸から海へ移動させる「進水」こそ、造船工学における最大かつ最後のリスクだった。


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