第184章 第6章:カオスの海 —— 暇つぶしサークルにて
場所: 大学のサークル棟、「暇つぶしサークル」部室。
野本:(絡まったイヤホンのコードを解きながら、ボソボソと語り始める)
「……警告音が鳴り響きます。ノティール号はこれ以上近づけません。そこは『鋭利な刃物の森』だからです」
橋本副部長:(知恵の輪をいじりながら)
「刃物の森って、また物騒だな。不燃ゴミの集積所かよ」
野本:
「いいえ、副部長。戦艦大和の中央破断エリアです。鉄骨や配管がスパゲッティのように絡み合い、有人潜水艇が近づけば絡まって動けなくなります。……まるで、カバンの中で勝手に絡まるイヤホンコードの巨大版です」
小宮部長:(粘土をこねながら)
「野本さん、その『スパゲッティ』という表現、もっと芸術的に言えない? 『カオス』よ。秩序の崩壊が生む、無作為の造形美。ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングね」
野本:
「部長、これは絵画ではありません。爆発で腹を割かれた船の内臓です。……そこで、ロボットの『ロビン』が投入されます。人間が行けない危険地帯へ、身代わりとして送り込まれるのです」
橋本副部長:
「パシリだな。焼きそばパン買ってこいって言われて、ヤンキーの溜まり場に行かされる一年生みたいなもんだ」
野本:
「……そうですね。ロビンは文句も言わずに、鉄のジャングルへ潜入しました。偉らいです。私なら時給が上がらないと行きません」
場所: 大学の芝生広場。
野本:
「……ロビンのカメラが捉えたのは、原形を留めないほどひしゃげた高角砲や、ボイラーの残骸でした。……山田さん、ここで重要なのは鉄板の『曲がり方』です」
山田:
「曲がり方? どっちに曲がってても一緒じゃね?」
野本:
「違います。装甲板が『外側に向かって(ベント・アウト)』めくれていました。これは、爆発が船の内側で起きた証拠です」
重子:
「内側からドカン? どういうこと?」
野本:
「重子さん、電子レンジで卵を爆発させたことはありますか?」
重子:
「ある! あれ掃除大変なんだよねー。殻が飛び散って」
野本:
「それです。外部からの攻撃ではなく、内部のエネルギーが限界を超えて弾け飛んだのです。……大和は、自分の火薬で腹を裂いたのです。いわば、巨大な電子レンジ爆発事故の現場です」
山田:
「野本、お前の例えを聞いてると、悲劇なんだかギャグなんだか分からなくなるな」
野本:
「……そこは『大和が死んだ場所』でした。熱で変質した床材。センサーを狂わせる磁気異常。……怨念が渦巻いています」
重子:
「やだ、心霊スポット? 怖い話やめてよー」
野本:
「いいえ、物理現象です。……でも、ロビンもノイズに襲われて逃げ帰りました。機械でさえ『やばい』と感じる場所だったのです」
場所: ファミレス「ジョリーズ」。
亀山:
(シンクの排水溝をブラシで掃除しながら)
「やだわぁ、このヌメリ。スパゲッティの麺が詰まってるじゃない。誰よ、ちゃんとゴミ受け捨てなかったの」
野本:
「亀山さん。その排水溝の惨状は、大和の中央破断エリアに通じるものがあります」
富山:
「野本さん、戦艦と排水溝を一緒にしないで。怒られるよ」
野本:
「……ロビンが見たボイラーの破裂跡。それは、圧力に耐えきれずに破綻したシステムの末路です。……まるで、ランチタイムのピーク時に、オーダーが集中しすぎてキッチンのチーフがキレて、フライパンを投げ出した時の空気感です」
亀山:
「あー、あるわねぇ。こないだの土曜日も凄かったわよ。チーフ、顔真っ赤にして『もう無理だ!』って叫んでたもん」
野本:
「はい。その時のキッチンは、まさに『カオスの海』でした。……外へ向かってめくれ上がる怒りのエネルギー。私たちは近づくこともできず、ただ遠くから見守るしかありませんでした」
富山:
「そう考えると、バイト先も戦場だね……」
野本:
「はい。私たちは生き残りました。……次は艦橋に向かいます。そこには、切断された日本の頭脳があります。……野本と申します。こちら、取り皿をお下げします」




