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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第144章 第3章:BBQのロジスティクス 〜師団か旅団か〜


野本ともうします。

秋といえば、読書の秋、食欲の秋、そして「観閲式」の秋です。

整然と並ぶ戦車や装甲車を見ると、心が洗われるような気がします。

しかし、一般の大学生にとっての秋の行軍イベントといえば、河川敷でのバーベキュー(BBQ)が相場と決まっています。

大学の中庭にあるベンチで、私はクラスメイトの重子さんと山田くんと向き合っていました。

議題は「ロシア語科・秋の親睦BBQ大会」の作戦計画について。

しかし、会議は冒頭から暗礁に乗り上げていました。

「だからさ、俺んちにあるダッチオーブンと、4人用のテントと、あと親父が持ってる業務用発電機も持っていこうぜ。音楽とか流したいし」

山田くんは、典型的な「形から入るタイプ」の男子学生です。


彼が広げたノートには、持ち物リストがびっしりと書き込まれていました。

クーラーボックス(大)×2、折りたたみ椅子×10、タープ、焚き火台、DJブース、etc...。

重子さんが呆れたように言います。

「山田、あんた馬鹿なの? 誰がそんな荷物運ぶのよ。現地集合よ? 電車とバスよ?」

「えー、でもBBQって言ったらこのくらいの装備ギアがないと盛り上がんないじゃん」

「重いし邪魔! 手ぶらで行って、現地で全部レンタルすればいいのよ。食材も現地のスーパーで買えばいいし」

二人の睨み合いを見ながら、私は眼鏡の位置を直し、静かに口を開きました。

「……お二人の議論は、まさに現代陸軍が抱えるジレンマそのものです」

二人が一斉に私を見ました。

「また始まった」と重子さんが呟く。

「山田くんの提案するプランは、冷戦時代の**『師団(Division)』**モデルです」

私は山田くんのノートのリストを指差しました。

「師団とは、1万人から2万人規模の兵士に加え、戦車、砲兵、工兵、そして強大な兵站(補給)部隊を抱え込んだ、自己完結型の巨大組織です。一つの街が移動するようなもので、破壊力も持久力も最強です」

「おお、最強か。いいじゃん」山田くんが鼻を鳴らす。


「しかし!」私は声を強めました。

「その欠点は、**『重厚長大すぎて動けない』**ことです。これだけの装備を展開するには、鉄道や大型トレーラーによる輸送が不可欠。バスと徒歩で移動する我々歩兵部隊にとって、発電機などという重量物は、行軍の足を止める『鉄の棺桶』になりかねません」

「鉄の棺桶……」山田くんが少し怯む。

「対して、重子さんが求めているのは、冷戦後のアメリカ軍が推進してきた**『旅団(Brigade)』モデル、あるいは『モジュラー部隊』**の考え方です」

私は自分の手帳に四角い箱の絵を描きました。

「旅団は、師団をコンパクトに分割し、必要な機能だけをパッケージ化したものです。3,000人から5,000人規模。装備は軽量化され、輸送機(C-17)で世界中どこへでも即座に展開できます」

私は重子さんを見ました。

「つまり、機材は現地レンタル(現地調達)。食材も河川敷のそばのスーパーで調達。我々は身一つで現地へ急行エアボーンする。これが現代のトレンドです」

「そうそう! 野本さん分かってる!」重子さんが手を叩く。「スマートにいこうよ、スマートに」

しかし、私はそこで腕を組み、難しい顔をしました。

「ですが重子さん。旅団化にも重大なリスクがあります」

「え、何?」


「**『消耗戦への弱さ』**です。ウクライナ戦争の教訓を思い出してください」

「思い出すも何も、知らないけど……」

「ロシア軍は当初、旅団よりもさらに小さい『大隊戦術群(BTG)』という単位で侵攻しましたが、補給や予備兵力が不足し、激しい消耗戦に耐えられずに壊滅する部隊が相次ぎました。もし、現地のスーパーで肉が売り切れていたら? レンタル機材が全て貸し出されていたら? その時点で我々の作戦は失敗(Fails)します」

「うっ……それは困る」重子さんが唸る。「肉がないBBQなんて、ただの野焼きだもんね」

「そう。大規模な戦闘(大食いの男子学生)を支えるには、やはり山田くんの言うような『師団』レベルの分厚い兵站が必要であるという、**『師団回帰』**の動きも世界的なトレンドなのです」

山田くんが勝ち誇った顔をする。

「ほら見ろ! やっぱり発電機は必要なんだよ!」

「発電機で肉は焼けませんけどね」と私。

三人は沈黙しました。


重すぎて動けない「師団(山田案)」か。

軽すぎて飢えるリスクのある「旅団(重子案)」か。

ロシア語科の命運は、この兵站戦略にかかっていました。

「……あ、そうだ」

私は一つの折衷案を思いつきました。

「我が国の自衛隊が採用した、新しいコンセプトを導入しましょう」

「自衛隊?」

「**『即応機動連隊(Rapid Deployment Regiment)』**です」

私はノートの新しいページに書き込みました。

「これは、従来の連隊に、戦車に匹敵する攻撃力を持つ『16式機動戦闘車(MCV)』を配備し、タイヤで高速道路を自走して現場に駆けつける、ハイブリッドな部隊です。火力と機動力を両立させた、島国防衛の切り札です」

「よく分かんないけど、どうすんの?」

「つまり、基本は現地調達の『旅団』スタイルを取りつつ、最も重要かつ重量のある『高級肉とビール(火力)』だけは、事前に確保して高速輸送手段で搬入するのです」

「なるほど! 重い機材は捨てて、肉だけは確実に持っていくわけね」

重子さんが乗り気になった。


「それならバランスがいいわ。で、その『高速輸送手段』って何?」

私は眼鏡をキラリと光らせた。

「即応機動連隊の要は、タイヤで走る装甲車です。つまり、**『レンタカー』**です」

二人が私を見た。

「野本さん、車持ってるの?」

「免許はあります(AT限定)。しかし、車両アセットは保有していません」

二人がズッコケた。

「ダメじゃん!」

「山田、あんたは?」

「俺、原付しかねーよ」

「重子は?」

「免許合宿で教官に『君はハンドルを握らないでくれ』って言われて帰されたわよ」

再び沈黙が訪れました。

どれだけ優れたドクトリン(教義)があっても、それを実行するプラットフォーム(車)がなければ絵に描いた餅です。


「……野本さん」

山田くんが力なく言いました。

「結局、どうする?」

私は空を見上げました。秋の空は高く、トンビが輪を描いています。

「……伝統的な歩兵戦術に戻りましょう」

「歩兵戦術?」

「**『背嚢リュックサック』**による徒徒歩行軍です。各自、肉とビールを均等に分担し、バス停から河川敷までの2キロを歩いて輸送します」

「えー! 重いよー!」重子さんが悲鳴を上げる。

「文句を言わない。歩兵の本分は歩くことです。米軍のレンジャー部隊だと思って耐えてください」

週末。

私たちはパンパンに膨らんだリュックを背負い、河川敷の砂利道を歩いていました。

重子さんは「肩が千切れる」と文句を言い、山田くんは「発電機持ってこなくてよかった」と呟いています。

私の背中には、4リットルの焼酎ボトル(燃料)が重くのしかかっていました。

川原に着くと、そこには他のサークルや家族連れが、車で横付けして優雅にBBQを楽しんでいました。

彼らはまさに機械化部隊。

対して我々は、前時代的な軽歩兵。


「……野本さん」

重子さんが汗を拭いながら言いました。

「次やる時はさ、せめて『レンタカー部隊』を編成しようよ」

「賛成です。輸送力なき部隊に勝利はありません」

炭火を起こしながら、私は誓いました。

いつか必ず、マイカーという名の「装甲車」を手に入れ、この河川敷を制圧してみせると。

焼けた肉の匂いと共に、私たちのささやかな「演習」が幕を開けました。

野本ともうします。

焼き肉のタレを忘れたことに気づきましたが、これは「補給線の途絶」として、塩のみで戦い抜くことを決意しました。

(第4章へ続く)


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