第14章 歴史の逆流:加速する悲劇
海自と大和を含む旧日本海軍艦艇が沖縄本島での米軍の抵抗を一時的に麻痺させた頃、東シナ海の海上自衛隊艦隊司令部「いずも」の作戦室では、別の種類の緊張が支配していた。
モニターには、これまで見たことのない数の赤点、すなわち日本本土へ向かう米軍の爆撃機編隊が表示されていた。それらは、沖縄での勝利の陰で進行する、歴史の逆流を示唆していた。
「艦長、異常な数のB-29がグアム、サイパン、テニアン各基地から発進しています。目標は日本の主要都市、特に九州、本州の沿岸部が集中攻撃を受けている模様です」
電子戦士官の三条律が、硬い声で報告した。彼女の指が示すモニターの日本列島には、無数の爆撃地点を示すアイコンが次々と点滅している。それは、史実よりも早く、そして大規模に開始された、日本本土への絨毯爆撃の兆候だった。
片倉大佐の表情は、報告を聞くにつれて次第に硬直していった。「ダウンフォール作戦の加速、か……」
彼は、自らの介入が、別の形で悲劇を加速させている可能性に気づき始めていた。
「これは、我々が沖縄で米軍に与えた損害が、早期の戦争終結を求める米軍に、より苛烈な手段を選ばせたということでしょうか」
情報幕僚の山名三尉が、沈痛な面持ちで言った。沖縄での勝利が、かえって本土の悲劇を呼び寄せたのではないかという疑念が、彼らの心を蝕む。
作戦室の奥から、本土からの通信記録が読み上げられた。「東京、大阪、名古屋。連日の大規模空襲により壊滅的被害。福岡、長崎、広島…九州各地への爆撃も激化。市民の死傷者、未曽有の数に上る模様」
炎の雨が夜空を焦がし、木造家屋の密集する都市は次々と廃墟と化していく光景が、海自の面々に冷厳な現実を突きつけた。
「我々が過去に介入したことで救われた命は確かにあったが、それは巨大な時代の流れの中の、小さな泡に過ぎないのかもしれない」
片倉は、モニターを見つめたまま、静かに呟いた。彼らの戦いは、単なる戦闘の勝利だけでなく、歴史の抵抗、そしてその先にある選択の重さを、改めて突きつけることになったのだ。
さらに、三条律が新たな報告を上げた。「艦長、米軍のレーダーが強化されています。低高度飛行の機体を探知する能力が向上しているようです。また、新型の偵察機が投入され、我々が発射するミサイルの軌道を解析し、対抗するための電磁波妨害(ECM)能力を強化している兆候が見られます」
これは、本来であればもっと後の時代に開発されるはずの、未熟ながらも萌芽的な電子戦機だった。米軍が、見えない敵への対抗策を、自らの技術力で生み出そうとしている事実が、海自に衝撃を与えた。彼らの介入が、米軍の技術進化を予期せぬ形で加速させているのだ。
「我々の行動が、米軍に新たな技術的対抗策を模索させている……」片倉は唇を噛んだ。