第8章 アニメ風
沖縄沖での劇的な海戦を経ても、海上自衛隊は歩みを止めなかった。
沖合の艦砲は一段落したが、陸上では米軍の上陸作戦が始まろうとしていた。
艦隊司令官・片倉大佐の決断は揺るがなかった。
「陸戦にも介入する。ただし兵を送るのではない。我々の強みは――情報と精密支援だ」
愚かに兵員を投入すれば、歴史は取り返しのつかない歪みを抱える。
片倉が選んだのは、この時代の誰も理解できない方法――“未来の目と未来の砲”による介入だった。
***
「いずも」の広大な飛行甲板に、最新鋭の無人機MQ-9Bシーガーディアンが待機していた。
ローターの音は驚くほど静か。夜陰に紛れるように滑走し、やがて闇の空へ溶け込む。
それは米軍のレーダー網をすり抜け、沖縄本島を縦横に偵察した。
暗闇に潜む陣地、補給路、兵員の移動――全てが高解像度カメラに刻まれ、瞬時に「いずも」の作戦室へ送られる。
モニターに展開されたのは、これまで誰も見たことのない戦場の全貌。
片倉は息を詰め、その三次元マップを見つめていた。
この情報は海自艦隊だけのものではない。
中継器を介し、大和の艦橋や日本軍の地下司令部にも簡略化された形で届けられた。
紙に印刷された「敵配置図」や「進軍予測」が、次々と司令官たちの手に渡る。
「……これが、偵察か」
陸軍司令官の一人は、震える声を漏らした。
これまでの航空偵察とは次元が違う鮮明さ、そしてリアルタイム性。
まるで未来を見通すかのような情報だった。
結果、史実で激戦となったシュガーローフや首里城の戦いでは、日本軍は事前に米軍の動きを察知し、迎撃態勢を整えることができた。
伏兵と地雷が正確に配置され、米軍の進軍は度々阻まれた。
予期せぬ抵抗に、米軍の死傷者は跳ね上がり、進攻速度は目に見えて鈍っていった。
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海自は情報だけでなく、精密な火力支援でも介入した。
「F35、目標確認。迫撃砲陣地を特定」
その報告を受け、護衛艦「むらさめ」の砲が火を噴く。
GPS座標に基づく射撃は、史実では不可能だった精度を実現し、米軍の隠れた陣地を次々に沈黙させた。
「敵補給路を叩け!」
艦砲が轟き、米兵の集結地が崩壊する。
日本軍兵士は息を吹き返し、士気は高まった。
一方で米兵たちは、姿なき砲撃に恐怖を覚え、動揺を深めていく。
大和の砲術長・江島中佐もまた、未来の情報を受け取っていた。
ドローンの観測とGPS座標に基づく照準――かつて経験や勘に頼ってきた砲撃が、精密な科学の計算へと変貌した。
その砲弾は水平線の向こうの艦艇を穿ち、沖縄本島の米軍陣地をも正確に叩いた。
***
海の底では、潜水艦「そうりゅう」が動いていた。
史実で大和を葬った米潜水艦を事前に捕捉し、遠距離から魚雷を放つ。
静寂の中で炸裂する衝撃。敵潜は沈黙し、大和の脅威はひとつ消えた。
さらにF35が洋上を哨戒し、米補給船団や増援の動きを探知する。
その情報を受けた「そうりゅう」と護衛艦群が、対潜攻撃で補給線を断った。
補給が滞り、増援が来ない。沖縄戦線での米軍の優位は、確実に崩れ始めていた。
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わずか六日間。
沖縄戦の様相は、史実とまったく異なる姿へと塗り替えられていた。