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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1

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17/8121

浅瀬の咆哮――座礁艦隊、初陣


昭和二十年四月十四日、午前十時。沖縄本島中西部、浦添および牧港の南方。

読谷および嘉手納の海岸から内陸へ進撃を開始した米第10軍の主軸――米陸軍第7歩兵師団および米第1海兵師団の前衛部隊は、緩やかな起伏が続く赤土の丘陵地帯を慎重に前進していた。

先頭を進むのは、長大な75mm戦車砲を備えたM4A3シャーマン中戦車八両と、完全武装の歩兵分隊を乗せたM3装甲ハーフトラックの車列である。


近代戦における機甲部隊の運用ドクトリンにおいて、敵陣地への攻撃は、事前の徹底的な航空爆撃と艦砲射撃による軟化パベリング、そして砲兵による煙幕・制圧射撃を連動させることが鉄則とされていた。米軍の戦術教範は極めて堅実であり、事前の圧倒的な火力で地表の障害物を叩き潰し、土煙が収まると同時に戦車を先頭に押し立てて残敵を掃討する手順を踏んでいた。日本の守備隊が洞窟陣地に潜んでいようと、随伴するM2火炎放射戦車と105mm自走榴弾砲の火力で一つずつ焼き払えば事足りるはずだった。


だが、その教範通りの組織的前進は、シュガーローフ(安沢高地)北西の稜線に差し掛かった瞬間、唐突に、そして暴力的に断ち切られた。


ズドォォン!

乾燥した赤土を揺るがす凄まじい地響きとともに、先頭を進んでいたM4A3シャーマンの重い車体が、不自然に宙へと跳ね上がった。

履帯キャタピラと転輪が文字通り引き千切られ、吹き飛んだ数十キロの鋼鉄の破片が周囲の米歩兵たちを容姿容赦なく薙ぎ倒す。日本陸軍が海自の技術的・戦術的助言に従い、戦車の想定進入路や谷道の要所へ、史実の数倍の密度で集中敷設した九三式対戦車地雷であった。


「地雷だ! 先頭車がやられた! 後続車は直ちに停止しろ! 工兵隊を最前線に出せ!」

車列の指揮官が跨るハーフトラックの無線機で絶叫し、車載のM2ブローニング重機関銃が、脅えと怒りに任せて周囲の藪や木々へ向けて乱射された。

しかし、停止した車列を待ち構えていたのは、かつての日本軍にありがちだった無謀な洞窟からの小銃射撃などではなかった。


シュガーローフの山頂近く、米軍の砲撃の死角となる岩陰に巧みに偽装された蛸壺陣地。

泥まみれの海上自衛隊迷彩服に身を包んだ情報幕僚・山名三尉と二名の観測員が、双眼鏡と携帯式レーザー測距儀を構え、冷静に戦場の推移を見つめていた。

「目標、浦添街道三〇一高地西側、地雷原で停止した敵戦車小隊。距離四千二百、方位二八五」

山名の傍らで、通信兵が背嚢型の防水型アナログFM無線機の送話器を固く握りしめる。

「首里第32軍司令部経由、海岸座礁艦隊へ打電! 目標座標、グリッド四二・八七! 十五・五センチ榴弾、効力射用意!」


数キロメートル後方、那覇港北方の浅瀬。

大潮の満潮時に突入し、干潮を迎えて砂州に深く艦底を埋め込んだ軽巡洋艦「矢矧」の甲板に、戦闘ラッパの甲高い音が響き渡った。

船体は陸側へわずかに傾斜し、陸上からの仮設パイプラインによって非常用の冷却水を供給されたディーゼル発電機が、重苦しい低音の唸りを響かせている。

矢矧の艦橋直下の主砲発令所では、砲術長が手書きの修正紙片を握りしめ、伝声管を通じて発令所へ怒号を飛ばした。

「山名三尉より諸元受領! 一番、二番主砲塔、目標右一二、仰角三八度! 零式通常弾、装填!」


旋回台が重々しく軋み、十五・五センチ三連装砲塔の長大な三本の砲身が、首里の険しい稜線の向こう、目視できない陸上の空へと大きく持ち上がった。

本来、軍艦の主砲は水平線の彼方の敵艦を直接、あるいは水上偵察機を用いて撃つものである。だが今、この艦は動かぬ「固定砲台」となり、前線の自衛官が測距した電子データを頼りに、山越えの間接曲射榴弾砲として機能しようとしていた。


弾道学的に見て、艦砲を陸上の曲射砲として運用する場合、砲身の寿命や装薬の調整に特殊な技術が求められる。しかし、海自の弾道予測プログラムと手動計算の結合は、その不確実性を極限まで削ぎ落としていた。


「……撃ち方、始めッ!」

轟音。

二基六門の十五・五センチ砲が一斉に火炎を吹き上げた。

砲煙が浅瀬の白砂を激しく包み、膨大な衝撃波が周囲の海面を激しく叩き割る。

放たれた五十キログラムを超える榴弾の群れは、首里の稜線を大きく飛び越え、完璧な放物線を描いて米軍車列の頭上へと落下していった。


シュガーローフの斜面。

地雷原の前で立ち往生し、混乱していた米軍の頭上を、甲高い不気味な飛翔音が切り裂いた。

「インカミング(砲撃接近)! 伏せろ、全員退避しろ!」

ドォォォォンッ!

耳を聾する連続炸裂音とともに、赤土の大地が豪快に爆ぜた。

初弾の二発は車列の百メートル手前に着弾した。だが、前方の山頂から山名が無線機へ迅速に修正を叩き込む。

「初弾、遠へ一〇〇、左へ二〇! 第二斉射、急げ!」


修正は秒単位で完了した。

二度目の斉射。完璧に修正された砲弾の束が、密集していたM4シャーマンと装甲兵員輸送車のど真ん中に突き刺さった。

十五・五センチ榴弾の分厚い弾殻が炸裂し、凄まじい爆圧と無数の鋼鉄破片が装甲車の薄い側面を蜂の巣のように引き裂いた。ガソリンタンクが誘爆して猛烈な炎を上げ、黒煙が天を衝く。

さらに、隣接して浅瀬に座礁していた護衛艦「むらさめ」の艦首76mm速射砲が、高精度射撃指揮装置(FCS-2)の演算に従って毎分八十発の猛烈な連続射撃を叩き込み始めた。

パパパパパンッ!と乾いた連射音が山野に反響し、米歩兵が退避しようとした窪地一帯が、正確無比な弾雨によって徹底的に掃討されていく。


「敵の砲兵はどこだ!? 首里の洞窟陣地じゃない、西の海岸だ!」

「馬鹿な、海岸には座礁して打ち捨てられた日本の難破船しかないはずだぞ!」

米軍の無線網は完全にパニックに陥った。

動かないはずの鉄屑、沈黙したはずの軍艦が、まるで要塞のように息を吹き返し、恐るべき正確さで友軍を粉砕しているのだ。

煙を上げる戦車の陰で、米海兵隊員たちは赤土の泥水の中に顔を埋め、見えない海岸線からの猛撃に震え上がった。


戦闘開始から三十分後。

前進を完全に阻まれた米軍の残余部隊は、炎上する戦車と多数の死傷者を残し、這うようにして後方へと退却していった。

シュガーローフの稜線に、束の間の静寂が戻る。


山名は双眼鏡を下ろし、深く息を吐いた。

座礁艦隊による陸上支援は、確かに圧倒的な戦果を挙げた。

しかし、山名の表情に晴れやかさはなかった。

手元のタフブックには、矢矧の主砲弾薬庫の残数が冷厳に表示されていた。

「十五・五センチ通常弾、残数七十八発……」

敵を一度撃退するだけで、貴重な備蓄の二割を消費した。米軍が一度退却したということは、次は空軍と戦艦による、より壊滅的な事前砲爆撃がこの海岸線を襲うことを意味している。


山名は首里の司令部、そして遠く沖合に浮かぶ「いずも」と「大和」の方向を見つめた。

時間は、確実に、そして残酷に削り取られていた。



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