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第67話.邂逅

誤字・脱字はご容赦下さい。

●67.邂逅


「・・・・・生きていたのか・・エゴール・・・」


グレースはそう呟くように言うと握り込んでいた剣の柄からふっと力を抜いた。


「・・・・・はい・・・。アルバイラー家従士、エゴールで御座います。」

異形の騎士は剣を受け止めていた槌の柄からゆっくりと力を抜いた。


「・・・・・エゴール・・・」


カラン・・・・

グレースはバスターソードを力無く手放した。


「・・・・・・」


「・・ぐすっ・・えぐっ・・・・・わぁあああああんんん!!」


「エゴール!! エゴール!!・・・・」

グレースは気が付くとその異形の騎士の胸に抱き着いて崩れるように泣いていた。


「・・・・お懐かしゅうございます。お嬢様。」

異形の騎士はそういうと左手でそっと優しくグレースの背中を抱きしめた。


・・・・・

・・・・・


ラッセル領の南東、東にあるロズワルド領の南に位置する場所にナトスという地域がある。


その地域はかつてバルサム辺境伯爵という人物が治める王国領の領地であった。

その地域は牧羊や小麦等の農業が中心の田舎の農村地帯。その地域は他国との国境争いも無くかつてはとても穏やかな場所であった。


グレースはその旧バルサム領の生まれで、かつてバルサム辺境伯爵に仕えた騎士、アルバイラー辺境騎士爵の一人娘であった。


アルバイラー辺境騎士爵の家系は武勇に優れた名家で、かつてナトス地方をアステル王国が平定した際、武功のあった武人ヴォルス=アルバイラーを初代として王国より辺境騎士爵を封爵されている。


アルバイラー辺境騎士爵は領地としてバルサム辺境伯爵より領地の中心街より外れた辺境の100人程が住む小さな村を与えられており、それほど豊かではなかったが彼女の家は数人の従者と共にその村の治安を守っていた。


だが十数年前、その旧バルサム領で異変が起こった。


当時そこを治めていた領主、モーガン=バルサム辺境伯爵が巡業中の事故により急死した。

モーガンには前妻と後妻に一人ずつ、アドルフとロレンソという二人の息子がおり、領主の死後、その相続権を巡ってその二人の息子は互いに対立した。

そしてそれは領土内でお互いを殺し合うといった激しい内乱にまで発展したのだ。


バルサム辺境伯に仕えていたグレースの父、ベイル=アルバイラー辺境騎士爵はその内乱の勃発を食い止めるべく領内を奔走した。しかし激しく対立する二人を止めることが出来ず、結局二つに分かれた派閥のうち、前妻の息子であったアドルフの陣営に付く事となった。


その際、父ベイルは内乱の勃発直前、その戦火を一時的に避ける為、一人娘のグレースを数人の家内と共になけなしの数枚の金貨を持たせ、現在のコリンダークの街に移り住ませたのだった。その時グレースはまだ12歳の少女であった。


その後、父ベイルはアドルフ側の軍に従軍した。


そして旧バルサム領での内乱は数か月にも及び

その間、二人の息子は互いに二つの街の城へ籠り徹底交戦を続けた。

結局、その内乱は後妻の息子ロレンソ側の勝利に終わり、前妻と前妻の息子アドルフは内乱の後自決させられ、グレースの父、ベイルもその戦いの中で戦死したのだった。


そしてその後、アドルフ側についた騎士爵の家はすべて爵位を剥奪され、生き残ったアドルフの配下は皆、ロレンソによって粛清されたという。


だが、その数か月にも及ぶ領内の内乱は瞬く間に領土を疲弊させ、領地内の農村では多くの餓死者や餓民を発生させる事となった。

そしてそれと同時に貧困に飢えた領民達は次々と領内のいたる所で暴動を起こし、街や村で蜂起した。


内乱で既に混乱し、治安を守る騎士もいないバルサム領ではもはやその領民達の暴動を抑える事は到底出来なかった。

結局その数年後、その暴動は王国政府によって武力によって鎮圧され、旧バルサム領は政府によって改易(領地を取り上げられる事)させられる事となってしまった。


これは後に「バルサム家の騒乱」と呼ばれるようになる。


・・・・・

・・・・・



「・・・・・私あの後、今のロズワルド領にある小さな村に落ち延びました。」

異形の騎士はグレースに囁くように言った。


「・・・・・そうか。・・・・・・そうか・・・。」

グレースはそう言いながら涙でぐしゃぐしゃになりながら異形の騎士にしがみついて泣いていた。


「・・・・戻る事が出来なかった事をお許し下さい・・・」

異形の騎士はグレースを優しく背を抱きながら呟いた。

その声は涙声であった。


「・・・いや・・・いいんだ。私の家はもはや騎士爵ではないんだ。あの騒乱の後、私は家内全員に暇を出し、私は一人家を出たのだ。」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・ぐすっ・・・それはそうとエゴール・・・・名前を変えたのか?」

グレースは異形の騎士の兜を見詰めながら呟いた。


「・・・・いいえ。・・・変えていません。

私が落ち延びた村では皆、言葉の訛りが酷くて私がいくらエゴールと名乗っても、私の事を皆は “イゴールさん” と呼ぶんですよ・・・。」

異形の騎士はグレースに優しい口調でそう言った。


「・・・・・そして私はそこの村の兵役員としてロズワルドの騎士団の雑兵として軍に召し上げられました。

私は従士になる前は元々しがない農夫でしたから文字もろくに書けません。」

仮面の下から聞こえるその声は既に涙で掠れていた。


「・・・・そうだったのか・・」

グレースも涙声でうんうんと異形の騎士の言葉に頷いていた。


しばらくして味方の兵士達が遠巻きにグレース達二人を取り囲んだ。


味方の兵士達は二人には武器は構えず、無言で二人のやり取りを見詰めていた。



「・・・・・・・・」


「グレース殿・・・・・・」

しばらくして一人の兵士に肩を借りてロベルトがヨロヨロとやって来た。


ロベルトは異形の騎士に言った。

「そこの御人、見事な一撃であった。私の完敗です・・・。

そして亡き主家への忠義、同じ騎士として感服いたしました。」


「・・・・・・・・・・」

異形の騎士は無言のまま俯いていた。


「どうだろうか、御人。先程まで敵という間柄ではあったが、是非とも我等の仲間としてご助力頂く事は出来ないだろうか。」

ロベルトはそう言うと異形の騎士に向かってそっと右手を差し出した。


「・・・・ロベルト殿・・・」グレースは呟いた。


しばらくするとティアナ姫も沢山の兵士と一緒に駆け付けて来た。


「・・・・・・・・」

異形の騎士は無言のまま槌を下したまま動かない。


ティアナ姫は異形の騎士に言った。

「そこの御人。私はここの領主カイン=ラッセルの娘、ティアナと申します。

ロベルトを助けて頂いた事、感謝致します。

何卒我々にそのお力をお貸し下さい。お願い申し上げます」

そういって異形の騎士に真摯に頭を下げた。


異形の騎士は無言のまま右手の戦槌の柄をゆっくりと手放した。


「エゴール!!!!」

するとグレースは涙と埃まみれの顔のまま異形の騎士にしがみ付いた。


「ぐす・・・・ぐす・・・・・師匠・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・お嬢様にはかないません。」

そう言うと異形の騎士はゆっくりと差し出したロベルトの手を取った。


その後、異形に騎士は立ち上がるとゆっくりと兜を脱いだ。

茶髪で掘りの深い顔立ちをした壮年の偉丈夫で、仮面の下の素顔はとても優しそうな顔をしていた。


そしてティアナ姫の前に跪いて言った

「私は、旧バルサム領、元アルバイラー家従士、エゴール=ノルサードと申します。

今は訳有ってロスワルド騎士団親衛隊、副隊長しておりました。

これより私はラッセル騎士団に降り、この身、アルバイラー家ご子息、グレース様に誓って貴殿らをお守りする事をお約束致します。」


そう言ってティアナ姫とロベルトに真摯に頭を下げたのだった。




読んで頂き、誠に有難うございます。

コメントも有難う御座いました。

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