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第60話.鉄仮面の女

誤字・脱字はご容赦下さい。

●60.鉄仮面の女


暗闇の中、俺達の一軍はコリンダークの街に向け進軍を開始した。

ロベルトさんとティアナ姫、護衛のグレースの騎馬が先頭に立つ。その後に俺とメイベルを乗せた馬車と数台の馬車。その周りを護衛するように戟を持つ歩兵達が続く。


夜明け前の薄明りの中、一軍は街の入口の前へ集結し、隊列を整えた。

街の入口であるその街門は固く閉ざされ、ひっそりとしている。


俺は馬車の貨車から出て御者席に座り、御者の兵と共にその街門と兵士一同の様子を窺っていた。


しばらくすると街の入口から門番の兵士が数名駆けつけた。

その兵士達は大急ぎでティアナ姫の前に来ると一斉に跪(ひざまづ)く。


「姫。準備は整っております。進軍と共に一斉に街門を開きます。」


ティアナ姫の横にいたグレースはその門番の兵士に一人に向かって尋ねた。

「ハンス殿。街門の向こうはどうなってる?」


ハンスと呼ばれた男は答えた。

「はは!街門の向こうにはテスターの警備兵が街の中を所々巡回しておりますが、進軍を察し我々が事前に街門を閉じた事で、まだ一軍の到着には気付かれてはおりません。

そして街門を警備していた数名のテスターの兵士達はディック殿の指示を受け、ひそかに我等で捕らえ、街の外で拘束致しております。」


ティアナ姫は出会った時に被っていた鉄仮面を被ったまま、騎馬の上からその門番の兵士達の報告を静かに聞いていた。


やがて


「ご苦労でした・・・・」


彼女はそう言うと被っている鉄仮面を静かに脱いだ。


「・・・・・・・」

ふわりとした長い金の髪が鉄仮面からこぼれ落ちる。

その後、彼女は隊列の前で馬を反転させると腰に差してある剣をすらりと抜いた。


風が吹き、ティアナ姫の美しい髪はそよそよと風になびく。

その美しい姫の姿に兵士一同は皆、無言で見惚れていた。


「・・・・・・・聞け・・・・」


その覚悟を決めた顔。

凛としたその美しき姫の表情に一同は声も立てる事が出来ず、静かに息を飲んでいた。


やがてティアナはその剣を振り上げると隊列を組む兵士達、一軍に向かって叫び、鬨(とき)をあげた。


「皆の者!!我は領主カイン=ラッセルが娘、ティアナ=ラッセル。

我らが城コリンダークは、逆賊テスターと隣領の領主ロズワルドの奸計により落ちた。

よって我はこれよりこの剣を振るい、城を奪還し、囚われの領主、父カインを救い出す。

そして我は此処に集う勇者と共に逆賊テスターとこの地を乗っ取ろうとする非道なる敵、ロズワルドを討ち滅ぼす事をここに誓う!

ラッセルの勇者達よ!我に続け!戟を振るえ!そしてこの地の平和を取り戻し、己が武名をこの地に永遠に刻むのだ!!」


ぐすぐすと泣いていたあの時の姫の姿ではなかった。


「ウォオオオオオオーーー!!!!!!!」


凄まじい兵士達の雄たけびが門の前に木霊する。


「ウォオオオオオオーーー!!!!!!!」

「ウォオオオオオオーーー!!!!!!!」

「ウォオオオオオオーーー!!!!!!!」



(す・・・すげぇ・・・俺まで武者ぶるいがする。)

俺は静かにグローブを握りしめた。

足元を見ると俺の足はすでにガクガクと震えている。

俺は誤魔化すようにズボンを叩き顔を上げると

ティアナ姫は凛とした表情のままでこっちを見詰めていた。


俺はフフっと笑った。

俺はティアナ姫に武者震いしてるの見られたし、なんか恥ずかしい。

何の意味はなく、俺はそれを誤魔化すようにしながら人差し指と親指で銃の形を作り、城の方へ向けて撃つフリをしてやった。


するとティアナはそれを見てクスリと笑ったように見えた。


街の入口の門がゆっくりと開きはじめた。


ティアナ姫は叫んだ。

「我等に武神メルシオールの加護があらん事を!! 我に続け!!!」


「ウォオオオオオオーーー!!!!!!!」


そうしてティアナ姫は鉄仮面を被り、馬を蹴り上げると剣を振り上げたまま門の中へ突入していった。続いてロベルト達の騎馬、そして俺達の乗った馬車が続く。

そして兵士達も雄叫びを上げて激流の如く門の中へ次々と雪崩込んでいった。


--------------------------------


――ティアナ目線――


今の私の心に何も迷いは無い。

今、私の心の中はとても澄んでいて、迷いようの無い一本の道を進むかのよう。

今から起こる出来事もこれは当然の運命だったのかと思えてしまう程・・・。


ラサンの英雄、ケンスケ=マルボル様。

そして私をここまで導いてくれた人。

今まで会った事のないような不思議な人。


今まで私の心の中をずっと支配していた真っ暗な恐怖心。すべてあの方が消し去って下さった。

私一人では決して立ち上がる事なんか出来なかったと思う。



数日前、私は運良く敵の手から落ち延びた。


その時の私は無力で何も出来ないただの泣き虫な女だった。

世間知らずで甘えん坊、今まで自分で考える事すらせずに全部他人に頼って生きてきた。

そんな女。

そしてあの時はただ自分の無力を呪って泣いてばかりいた。



私は落ち延びた後、夕暮れの中で泣きながらそんな彼にすがった。

彼は大事な旅の途中だというのに黙って私の話を真摯に聞いてくれた。

しがみついた彼の横顔にはやさしいお父様のような面影があった。


私は話を聞いてくれるだけでも嬉しかった。


でもきっと彼は助けてはくれないだろう・・・そう思っていた。

だって私達は彼に与える物なんて何一つとして持っていなかったから。


でも彼はそんな私達をにっこりと笑顔で迎えてくれた。

あの時に囲った小さな焚火の炎の暖かさを私は今も忘れられない。


そして彼は何も見返りのないそんな私達に救いの手を差し伸べた。

なんて凄いお方なのだろうか・・・・・。

私達が追っ手に追われて狙われていることも、城から逃げ出した事も十分に伝えたはずなのに・・・・。

それはまさに私が噂に聞いていた通りのラサンの街の英雄の姿だった。

そして私の憧れの人・・・。


その後、私達は北の砦へ逃げ延びた。

逃げの延びた所でどうしようもない事だっていう事は世間知らずな私だって知っていた。

追手が来る。・・・・怖い。

その時必死に逃げた理由はただそれだけの理由だったと思う。


でも砦に着いて逃げ延びた後、私はもっと怖くなった。

私は完全に自分を見失ってしまっていた。

自分がこれから何をしたらいいのか、どうすればいいのか、そんな事すら分からなくなってしまっていた。


きっとすぐに追っ手がやって来るのだろう。

私は怖くて眠ることも出来ずにただ震える事しか出来なかった。


そして周りの誰もが悲壮な顔をし、今後の方針も一行に決まらなかった。

誰もが諦めていた。

私も死のうかとも考えた。

私を庇って逃がしてくれたお父様には申し訳なく思う・・・・。


そんな時、騎士達の中の誰かから断固戦うベきだと意見が出たのだけど、心の弱い私はその中で何も言えなかった・・・。

・・・・もう終わりにしたい。ただそれだけの事を。

私は長年付き従ってくれるロベルト達にもそんな事すら言い出せずにいた。


それから会議は敵と戦う事に決まった。

・・・悲しかった。私はその時にはすでに諦めていたのだと思う。

砦を敵に囲まれ、皆が砦に籠城し玉砕を覚悟した時、私はそこで死ぬつもりでいた。


でもそんな中、彼だけは希望を捨てていなかった。

彼はただ一人勝ちに行くと言っていた。


誰もが彼の言ったその言葉を信じられなかった。


でも彼は再び私達は勝てるとそう言った。


彼はそう言って静かに立ち上がって我々に作戦を伝えた。

私たちは彼の言う事に黙って従った。なぜだかは分からない。


ひょっとしたら彼の背中には神の翼でもあるのだろうか。

彼の作戦は具体的で分かりやすく、そのうえ説明も上手だった。

敵がどういう風に攻めてくるかという事も全部分かっているかのような自信のある雰囲気。

少しも自分が戦いに負けて死んでしまうとは思っていないかのよう。

そんな彼の淡々と話すその仕草と口調は、私達みんなに「もしかしたら」という気分へとさせてくれた。


その数日後、彼の言った通り敵の大軍が攻めてきた。

2000の騎馬の大軍。

私達は見張りの報告を聞いて再び絶望した。


そんな中、彼はにっこり笑い上手くやるさと言っておどけて見せた。

それは決して強がりなんかではなく、まぎれもない自信だった。


そして彼はその大軍と一人で戦い、そして勝った。

彼は勝ちに行くと言った事・・・まさに奇跡。

それを彼は一人で当然のようにやってのけたのだ。

何も誇らず、当たり前の事でもやっているかのように・・・。


そして今、私達は城を目指す。

次の作戦も彼が立ててくれた。

いつものゆるぎない自信を持って。


私達は既に彼の起こした奇跡を信じている。


そして今度は私の番。


私はもう泣かない。強くなれ。


私は鉄の仮面を脱ぐ。

その時、私は彼が言った最後の言葉を思い出した。


決してあきらめるなと。


目を静かに閉じると、瞼(まぶた)には自信を持ってにっこり笑う彼の姿が浮かんできた。

まるで私の心の闇を照らす光の様。

するとさっきまで私の中で一杯だった心のモヤはすっと何も無かったかのように消えていく。


私は剣を抜き、全兵士に鬨(とき)を上げる。


もう私に迷いは無い。

もうすぐ私の最後の戦いが始まる。


私は自分を信じる。英雄に導かれるがままに。


彼を見る。

彼はあの時のように兵士達の側でおどけて微笑む。


私はその時、この戦いに必ず勝つとそう確信した。



読んで頂き、誠に有難うございます。

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