第58話.脱出
誤字・脱字はご容赦下さい。
●58.脱出
城の敷地内。西の淵塔にて。
エバンス、グレースの二人は監守の兵士に挨拶をして地下牢から出た。
「エバンス、後は脱出だな。」
グレースは隣を歩くエバンスに小さな声で言った。
エバンスは前を向いたまま、
「・・・ああ。外にはリード達が来る事になってる。
とりあえずはそうだな・・・。此処を上って城壁の上に出るぞ。」
エバンスは歩きながらグレースにそう言った。
「わかった。」
エバンスとグレースの二人はそのまま西の淵塔の階段を上る。
途中、二人は巡回する見張りの兵士ともさりげなく挨拶を交わしながら、警戒される事もなく西の城壁の上までたどり着いた。
二人はその淵塔の出入り口から城壁の通路を見渡す。
城壁の上の通路には所々にかがり火が焚かれ、その先には小さな哨戒用の櫓があった。
櫓の中には見張りの兵士がいるようで城外の警戒を行っている。
エバンスは櫓を見ながら言った。
「グレース・・・あそこに何人いる?俺は最近、近眼でなぁ・・。それに暗くてよく見えん。」
「うーん・・・。二人だ。」
グレースは目を細めながらエバンスに言った
「そうか・・・・。」
エバンスはそう言うと、背中のリュックを下して中を漁り始めた。
そしてリュックの中から手のひら程の小さな携帯用の酒瓶を取り出した。
それは分厚いガラスの容器で出来ており、その中には蒸留酒が入っている。
彼は防寒や消毒の為にいつもそれをリュックの中に常備していた。
「・・・二人か。今度はコイツを渡して奴らの不意を突く。グレース、一人頼むがいいか?」
「ああ。」
グレースはこくりと頷いた。
・・・・・・
・・・・・・
エバンスとグレースはさりげなく歩いて櫓へ近づいた。
「お疲れ様です。」
エバンスはにこにこして櫓の中にいる二人の兵士に声を掛けた。
「ん!? ああ、お疲れ様。」
櫓の兵士達はエバンス達に慌てて返事をした。
エバンスは何事も無いかのようにその兵士達に話しかける。
「哨戒ご苦労様です。流石にこの時期になってきますと夜は冷えますなぁ。異常は無いですか?」
「今の所無いな。ところでお前達、一体こんな所へ何の用だ?」
兵士の一人は訝しむ気配も無くエバンス達に尋ねた。
エバンスは笑顔で
「はい。俺達はただの巡回ですよ。城内をしっかり見張るよう言われてますので。」
そう言うと
「うー寒い。」
ここは大陸西部の都市コリンダーク。すぐ西方には荒地や砂漠が広がっている。
この都市の気候は年間を通して乾燥し、昼と夜の温度差が非常に激しい。
この世界の季節では短い夏はとっくに終わり、今は既に秋の収穫の時期を迎えていた。
今は年内でも比較的温和なこの時期なのにもかかわらず、夜になるともうすでに肌寒く、気温は10度以下にまで下がり、かなり冷え込む。
エバンスは櫓の中にあるかがり火の前で手を擦り、すこし暖をとる仕草をしながら、その見張りの兵士達ととるに足らないような世間話を始めた。
・・・・・・・
・・・・・・・
しばらくその兵士と話した後
エバンスは懐から手のひら程の小さな酒瓶を取り出した。
にやにやしながらその蓋を開けて、外を見ながらエバンスはその中身を少し飲む。
「あっお前・・・・」
見張りの兵士達はエバンスの行動に驚く
エバンスはバツの悪そうな笑顔をしながら肩を少し上げ、
「・・・あっ、コレ?黙ってて下さいよ。コイツはさっき食糧庫を見張っている奴らに頼んでコッソリと分けてもらったんです。隊長にはバレないとこで飲めって言われやしてね。
流石は城内とあって上等なウイスキーです。みなさんもどうです?
少ししかないですが体が温まりますよ。どうぞ。」
そう言ってエバンスは兵士達の返事を聞く素振りもなく、飲みかけの瓶をその兵士の前にひょいと突き出した。
瓶を突き出された兵士は仲間の兵士を少し見た後、
「・・そ、そうか・・・・お前達、なかなか気が利くな。じゃあ俺達も少しだけ頂こう。」
そう言ってその兵士は差し出された酒瓶を少し笑って受け取り、酒瓶の飲み口を口に運んだ。
近くにいるもう一人の兵士の注意も完全にその酒瓶へ向けられている。
その瞬間・・・。
グレースはその注意を反らしたその仲間の兵士に背後に近づいた。
そして逆手に持ったナイフでその兵士の首を一気に掻き切った。
その兵士の首から鮮血が飛び散る。
・・・・ドタッ。
「!!!!」
酒瓶を口にした兵士は仲間の鮮血を浴び、驚愕して酒瓶から手を放す。
エバンスはその瞬間を逃さず腰から短剣を抜き、その兵士を腹に突き立てた。
「ぐあっ!!!・・・・」
・・・・・ドタッ!
カラン、カラカラ・・・・・
急に静かになった櫓の中には小さな酒瓶がカラカラと転がる音だけが響いた。
・・・・
・・・・
「・・・上手く行ったな。」
グレースはエバンスに言った。
「ああ。上出来だ。それじゃあグレース、俺は今から外のリード達に合図を送る。お前は此処から敵の警戒を頼む。」
「ああ。」グレースは頷いた。
エバンスはその後、櫓を出ると城壁のかがり火の中から火の付いた木材を1本抜き取った。
しばらくそれを振り回した後、その木材を城外へ放り投げた。
しばらくすると角材が落ちた辺りに幾つかの人影らしきものが現れた。
その人影の一つがその角材を拾って何度か振り回す。
その影はその後すばやく角材の炎を消し、数人の人影らしきものを引き連れて二人のいる城壁の下までやって来た。
その人影は、城壁の下、数人で円陣を組むようにしながら毛布のような物を広げた。
「リードが来ているぞ。」
エバンスは櫓に戻りグレースに言った。
「まずは死体だ。グレース手伝え。」
エバンスとグレースは二人で先程の見張りの兵士の亡骸を運び、城外へ放り投げた。
・・・バサッ!
下にいるリード達は広げた毛布でその死体を受け止める。
同じようにして次の死体も受け止めた。
エバンスは下の様子を確認した後、にっこりと笑ってグレースに言った。
「・・・・それじゃあな。グレース。お前はもう行け。俺はもう一働きしてくる。」
グレースは驚いた顔をして
「何だと? エバンス、お前はここから逃げないのか?」
エバンスはリュックを担ぐと
「ああ。俺は残る。まだやり残した仕事があるのを思い出してな。」
「仕事?」
エバンスはふふっと笑って
「・・・・まぁ、お前達が城門を攻める時に合わせて、俺は城門の裏でひと騒ぎ起こす。
上手くいくかはわからんがな・・・・。」
「待てエバンス。それは危険だ。それだったら私も・・・・。」
「馬鹿言うなよ・・・。おめぇは今から戻って皆に伝えなきゃならねぇ事があるだろうが。こういう時はな、素直に黙って先輩に手柄を譲るもんだぜ。」
そう言ってエバンスはにっこりと笑った。
「・・・・すまない。恩にきる。」
「まぁ、いいって事よ。今回の件は俺にだって関わる事だ。それに領主様には昔から色々と借りもあったからな。それより今回、無事に片付いたらうまい酒でも奢ってもらうぞ。」
「・・・・・・・・・」
グレースは暫く黙って俯く。
やがて彼女は顔を上げ、悲しそうな笑顔をしながらでエバンスを見詰めた。
「ああ、わかった。・・・・・・エバンス・・・死ぬなよ。」
彼女はそう言うと城壁から静かに飛び降りたのだった。
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