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第57話.偽装

本日2話目 誤字・脱字はご容赦下さい

●57.偽装


「・・・・・・・・・・」


エバンスはトールの体にロープを巻き付ける。

「トール殿、今度は後ろ手にしてこの短いロープの端を握ってて下さい。」


そう言ってエバンスはトールに長さの短い別のロープを渡した。

トールはエバンスの言う通り、その短いロープの端を握って後に手を回した。


「・・・・私、大丈夫なんですか?」

トールは不安そうにエバンスに尋ねた。

エバンスはトールの握ったロープの端を手に取ると


「トール殿、これは盗賊ダマシという縛り方でしてね。昔、この街に来た大道芸人に習ったんですよ。」

そう言って、短いロープに長いロープの束を慣れた手つきで絡めていく。


「もしも危なくなった場合はその手にあるヒモを思いっきり引っ張って下さいね。

はたから見ると、こうやってぐるぐると縛ってあるように見えるロープなんですが、このヒモを引っ張ると一瞬で全部が解(ほど)けるんですよ。ちゃんと剣もロープの内側に巻き付けて隠してますから安心して下さい。」


「・・・・そうなんですね」

トールは少しホッした様子で答えた。

その様子を見て、エバンスは話を続けた。


「そういや昔、グレースと一緒に盗賊退治の依頼を受けた事がありましてね。こうやって賊のアジトに二人で侵入した事があったんですよ。まぁそんときゃそれなりに上手く行きましたよ」


「えっ!?それなりって・・・」

トールは驚いてエバンスに聞いた。


「まぁ、その時はあっしが賊に変装して、グレースをこうやって縛ったんです。」


「・・・見張りには全く警戒されなかったんですけどね。でもアジトの奥に行き着く前に、賊の中に束縛フェチなヤツが一人いたんですよ。そいつが縛られたグレースに興奮して抱き付こうとしたもんだから・・・・」


「エバンス!!」

厠の入口に立つグレースは少しを声を荒げて背後のエバンスに怒りを表す


「・・・グレースが勝手にそこで縄を解いて盗賊相手に大暴れしたんですよ。ぷっ・・くくっ」

そう言ってエバンスは吹き出すように笑った。


「仕方ないだろ・・・・」

グレースは顔を赤らめて小声でぼやく。


「まぁあの時は餌が上玉すぎたのが失敗でしたね。リアルな演技を求めてグレースには縄で引かれながら喘ぎ声まで出すように指示してたんですが、あん時はちとやり過ぎました・・・」


「・・・・・」

トールは縄で縛られて喘ぐ淫靡なグレースを想像してしまい顔を赤らめた。


「・・・と、まぁそんときはそれで大変でしたけど、結果は上手くいきましたわ」


しばらくして

「・・・・まぁ、こんなもんかな・・・・」

エバンスは縛り終わったトールをしげしげと眺める。


するとグレースも外の様子を伺いながら厠へ入って来た。

縄で縛られたトールの周りをくるくると回りながら全身を眺める。


トールは先程の話もあってか、そんなグレースに見詰められて後ろ手に縛られたままトールは少し顔を赤らめて固まっている。


「・・・・・」


グレースは「うーん」と少し考え、

ナイフを拭くときに使った見張りの兵士の血糊のついたボロ布を取り出した。


「そうだ。・・・仕上げにコレ。」


そう言ってグレースはその血糊のついたボロ布をトールの額に巻き付けて結ぶ。

グレースの胸元を目の前にしてトールは固まる。


「・・・・・」


そのトールの顔にグレースの長い髪がふわりと掛かる。

グレースがボロ布を結び終わり離れると、トールはたらりと鼻血を流してそこに硬直していた。




「素晴らしい!!!」

エバンスはトールを見て絶賛した。




--------------------------------------------------




誰かが来る気配がする・・・・


「ううぅ・・・・」


地下牢の中、粗末な茣蓙(ござ)の上にぐったりと倒れていたカインは掠れた声を上げて

ぼんやりと意識を取り戻した。

その両手は後ろでに縛られており、体中には激痛が走る。


連日、鞭や冷水をかけられるなどの拷問を受け、服はボロボロに破れ、体中の至るところには血の跡が滲んでいる。カインは歯を食いしばりながらゆっくりと起き上がった。


地下牢の入口の方から見張りの兵の声が聞こえた。

カインは耳を澄ます。

・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


「なんだそいつは!?」


「カインの手下の兵がまだ城内に隠れていましてね・・・」


「・・なんだと!!まだいたのか?」


「はい。城の食糧庫の奥に一人で隠れていました。どうやらカインの親衛隊のようです。ついさっき我々でなんとか取り押さえたんです。」


「そうなのか?」


「はい。するとテスター様から、明日朝、直々に尋問するから、とりあえずコイツを地下牢へ入れておくようにとの命令を受けました。すみませんが監守殿、空いている牢はまだありますか?」


「・・・ああ、まだいくつかあるな。じゃあ好きなのを使え」


「はっ!!」


・・・・・・

しばらくして


ガチャ。

扉の開く音がして数人の人間が地下牢へ入って来る足跡が聞こえた。


(!!!!!)


カインは慌てて牢の鉄の柵の間にぐりぐりと顔をねじ込み、しきりに通路を覗こうとした。

しかしその鉄の柵の隙間は狭く、カインの顔は入らなかった。


「クソ!」


カインは舌打ちして悔しがる。


数人の足跡が次第に近づいてきた。


カインは牢の柵から離れ、なにも無かったかのように奥の壁にもたれて眠ったふりをする


その足音がカインの牢の前を通り過ぎる。

カインは薄目をあけて通過する人物を見た。


(トール!?)


「~~~~~~!!!!!」


カインは驚いてその目を見開く。

それは両手を後ろに縛られ、ぐるぐる巻きにローブで縛られた親衛隊のトールの姿だった。

頭に大きなケガを負っているようでその額はボロ布で巻かれ、所々に血が滲んでいる。

しかも拘束される際に激しい暴行を受けたのであろうか?彼は鼻血を出したまま、力無くぐったりと首を下げ二人の兵士に連れられてカインの牢の前を通り過ぎていった。


カインはそれを見て慌てて立ち上がり、叫ぶ。

「トール!!!トール!!!」

カインは傷の痛みも忘れ、牢の鉄柵にすがるようしながら、通り過ぎていったトールに向けて無我夢中に叫びながら暴れた。


「うるさい!!静かにしろ!」

トールを連行する兵士は剣を抜き、カインの牢に向かって叫んだ


「!!!! お・・・お前は・・・・・」

カインは呆然としてその兵士の顔を見詰める。


するとその兵士はカインに向けて人さし指を立てて口元へ当てるジェスチャーをすると、そのままぐるぐる巻きにしたトールを連れて通路の奥へ進んで行った。



・・・・・・・・・


「ここに入れ」


エバンスとグレースは後ろ手に縛ったままのトールを奥の地下牢の中に入れた。


グレースは辺りの様子をうかがった後、牢の中に入り、ポケットから小さな針金が数本束ねられたような小さな道具を出した。


グレースはトールの耳元で小さな声で囁く

「トール殿、これはマルボル殿が作った魔法の鍵開け器です。

これを使うとどんな鍵でも簡単に開くそうです。ピッキングツールという名前だそうですが、これをあそこの茣蓙(ござ)の下に隠しておきます。」


「・・・・」

トールはこくりと頷く。グレースは続けた。


「・・・我々は今から城を脱出し、マルボル殿やみんなと合流します。

トール殿は我等が城を攻め入った時にこれで牢を開けて、領主殿をお守りしていて下さい。

多分敵は領主の身柄をいち早く手元へ置こうとする筈ですから。」


「・・・・・・」

トールは無言のまま何度か頷く。


「城門を開けたら我々は真っ先にここへ駆け付けます。それまでトール殿にご武運を・・・」

そう言ってグレースは牢を出て外から鍵を掛けた。



グレース達が立ち去ろうとすると

トールは立ち上がって鉄柵の前にやって来た。


「グレース殿、エバンス殿、今まで本当にかたじけない。恩にきる。

最後に貴殿らには心からのお礼の言葉を伝えたかった。・・・・有難う。」


トールは目に涙を溜め、グレースとエバンスに小さな声でそうお礼を言うと、深く頭を下げたのだった。




読んで下さり有難うございます

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― 新着の感想 ―
[一言] 「トール殿、これはマルボル殿が作った魔法の鍵開け器です。 残念!魔法ではない。 本当の魔法を知っているでしょうに。
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