第52話.迎撃
誤字・脱字はご容赦下さい
●52.迎撃
本陣へ見張りの兵が息を切らしながら駈け込んで来た。
「報告致します!コリンダークより敵軍、騎兵2000!!こちらへ向かって進軍中。まもなく罠付近を通過致します。」
その兵士は片膝をついてティアナ姫に敵状の報告した
「にっ2000!! しかも騎兵でだと!?」
姫の傍らでロベルトさんは驚愕した様子で叫ぶ。
「はっ!その騎兵はいずれもロズワルド軍の軍旗を掲げており、殆どがロズワルド領からの増援部隊と思われます!」
見張りの兵はそう言って頭を下げた。
「・・・・・・・・・」
ティアナ姫は項垂れて真っ青になっている。
俺は予想した通りの数と思っていたのだが、どうやらロベルトさんやティアナ姫達にとっては大きく予想と違っていたみたいだ。
表情はみんな険しく、重い雰囲気みたいなものが漂っていた。
「・・・・?」(え!? みんな、どしたの?)
俺は首を傾げた。
まぁそんな疑問はさておき・・・
取り急ぎ、俺はその兵士に尋ねる事にした。
「今、敵の軍列はどうなっている?その長さも知りたい。」
「はっ!敵軍の先頭には1500程の騎馬の隊列が約700m程、そしてその後続にはおよそ30台の馬車と護衛の騎兵500が続いています。密集しており軍列は全長で1.5㎞程のようです。」
・・・よかった。軍列は思ったよりかなり短い。
どうやら進軍速度を合わせて密集しているようだし。
しかも騎兵のみ。うん有難いわ、なんとか上手く行きそうだ。
俺は今回、敵がいろんな兵種の混成や長い軍列になっていないかという心配ばかりしていたんだがな・・・。
(そろそろ出番か・・・)
俺はにっこり笑ってみんなに話す。
「分かった。俺はそろそろ谷の入口へ向かうとしよう。まぁ皆はここで待機しててくれ。俺が敵軍を谷に退却させるから、敵が谷間へ完全に逃げ込んだのを確認した後に主力を突撃させてくれ。まぁ上手くやるさ・・・」
俺は本陣に背をむけて一人、谷の入口に向かって歩いていった。
「ケンスケ様!!」
後ろからティアナ姫の呼ぶ声が聞こえる。
だがその声はほとんど涙声の様だった。
「あ・・・貴方に神メルシオール様のご加護が御座いますように!」
「・・・・汗」
(あ・・・もしや姫様、俺に死亡フラグなんか立てちゃってるのかも・・・?)
・・・・まぁいいや。
俺はそのまま振り返らず軽く右手を上げて返事をした。
あくまでこれは前哨戦に過ぎないんだし、この先長い。気楽に行かねば。
それに後ろは何かよく分からない雰囲気だしな。
気まずいからさっさと行こう。
のんびりと谷の入口の手前まで来る。
そこには昨日大急ぎで土を盛って作った簡素な防塁がある。
俺はその上でガドリング砲を構え銃口を谷へ向けた。
俺はそこまで悲観することはないと思っている。
最初は正直、敵の増援が五千とか一万とか来たらどうしようかと思っていた位だったのだから。
とりあえずこの初戦で大事なのは沢山の敵に退却されない事だな。
しくじるとメインである城の奪還が面倒になるからね。
まぁ今回の敵は火力重視の近代戦というものを全く知らない。
俺の武器が連射式だって事も当然相手は全く知らない筈だ。
そして敵は高い確率で騎馬で密集し突撃して来る。一応これ位の数なら問題ないはず。
俺はただ敵を後ろへ追い返せばいいだけ。
俺にとって戦争は初めての仕事だからちょっと怖いんだけど・・・まぁ死んでしまったら後で頑張って反省文でも書こう。
成り行き上、こうなってしまったんだからそこは悔やんでも仕方ない。
しかし問題は後ろで馬車の護衛をしている騎兵の500だな。
罠のところにいるグレースがやつらの退路をうまく塞いでくれる事を祈るのみだ。
遠くの崖の上から兵士が手を振っている。そして横の崖の壁にはメイベルも顔を出してこちらを見ていた。俺は手を挙げて二人に準備完了の合図を出す事にした。
「撃てぇぇーーーー―!!」
その直後、崖の上から斉射の号令が出された。
崖の上からロズワルド軍へ無数の矢が降り注ぐ。
ひゅんひゅんひゅんひゅん!
がががっがががっががっが!!
「ぐわっ!!」「ぎゃぁあああ!!」
ドサ!ドサドサッ!!
前方を進むロズワルド軍の騎馬隊の騎士数名が落馬した
「敵襲だーーーーー!!!!!」
ロズワルド軍の兵士は自軍に向かって大声で叫んだ。
WAAAAAAAAA―――――――!!
軍列には兵士達の叫び声が響く。
軍の先頭は突然崖上からの奇襲に会いにわかに混乱し始めた。
ひゅんひゅんひゅんひゅん!
がががっがががっががっが!!
「ぐわっ!!」「ぎえ!!」
ドサ!ドサ!ドサドサッ!!
一呼吸したあと、またしても崖の上から隊列へ向けて2射目の矢の雨が降ってくる。
弓を喰らってギリアムの周囲の数名の兵士が落馬した。
「くそっ!奇襲か!?」
ギリアムは顔をしかめ谷の上を見上げた。
すると両方の崖の上から突然現れたおよそ100人ずつの弓兵に挟まれていた。
ギリアムは進軍中、谷底を抜けたあたりから敵はてっきり砦に籠城している物だと思っていた。今回、自軍は城の陥落後3日での強行軍で敵には罠らしいものも作らせる時間は与えていない。それに実際ここまでのルートにはそれが無かったためだ。
「ふん!小癪な!」
突然の奇襲に少し驚いたギリアムだったが、すぐに気を取り直して不敵に嗤った
今、自軍が攻められるのは少々痛いが、谷の上を見ると左右100人程度の弓兵しかいない。
こちらは2000の騎兵。もうすぐ隊の先頭は谷の出口付近に差し掛かるのだ。
「ふはは!どうせ敵の最後の悪あがきだ!こんなもの足止めにもならんわ!
相手にせずこのまま全軍強行突破せよ!谷を抜けて先に砦を囲ってしまえば敵はもう何も出来ぬ。進め!!」
ギリアムはこの程度の奇襲など全く問題にしなかった。
敵がせいぜい後2~3射でもする前に馬で一気にその場を駆け抜けてしまえば済むだけ。
こちらが谷を抜けてしまえばもう騎馬の進軍は防ぎようが無い。
ギリアムは先頭部隊の騎兵1500を引き連れ、谷の出口に向かって一気に突き進んだ。
すると谷の出口の先、ギリアムの視野にちっぽけな敵陣が見えた。
それは僅か200人程度の歩兵の一軍。どうやらそれが敵の本陣のようだ。
ギリアムはそれを見ると猛禽が獲物を捕らえたような獰猛な笑いを浮かべた
「全軍突撃―――――!!!」
ギリアムは剣を振り上げて叫ぶ。
そうしてギリアムの率いる騎馬の大軍は谷の出口へ全速力で突っ込んでいった。
「くくくっ・・たったこれだけの兵で迎撃だと? 全く愚かな奴らだ・・わはははは!!」
ギリアムは騎馬で駆けながら敵をあざけり、そして嗤う。
その時のギリアムは自軍のゆるぎない勝利を確信していた。
俺は銃座にあるガドリング砲を両手で構え谷の入口を睨むように眺める。
谷の奥から砂煙を巻き上げて無数の騎馬の影が見えて来た。
その中には沢山のロズワルド軍の旗も見える
(来たか・・・・)
俺は額の汗をぬぐう。
その間に視界にあるその無数の騎馬の影は次第にどんどん大きくなっていく、
・・・・・ドドドドドドドドドドドドド!!
地鳴りのような馬の蹄の音が次第に俺の耳に届いて来た。
WOOOOOOOO―――――!!!!
騎馬隊の雄叫びがだんだん俺へと近づいてくる。
(すげぇ・・・・。)
ガドリング砲のハンドルを握る俺の手は既に汗でびっしょりなのがわかる。
俺の正面から向かってくる敵の騎馬隊は谷の出口付近にまで差し掛かろうとしていた。
物凄い馬の蹄の音が谷中に響き渡り、次第に周囲の地面もカタカタと震え始める。
しばらくして俺はその振動は地面の振動ではなく自分の武者震いだという事に気が付いた。
「・・・・・ごくり。」
俺は唾を飲み込む。その唾を飲み込む小さな音が何故か自分の体中に響く。
目の前には騎馬の大軍が巨大な砂煙を巻き上げ凄まじい勢いで押し寄せていた。
ドドドドドドドドドドドドド!!
まるで砂煙を上げる黒い津波だ。
(いくぞ!!!!!!!!)
俺は覚悟を決めた。
ZDoWDADADADAADADADADADADADADADADADA・・・・!!!!!!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
俺は雄叫びを上げ、ガドリング砲を振りながらトリガーのハンドルを回す。
ずがががっががっがががっがっがががががっが!!!!!
ガドリング砲の射線一帯に凄まじい砂煙が沸き上がり、俺の目の前が次々と爆砕していった。
それとほぼ同時。側面の崖にいるメイベルのガドリング砲も騎馬隊に向け火を吹く。
ZDoWDADADADAADADADADADADADADADADADA・・・・!!!!!!
DADADADAADADADA・・・・・・!!!
崖の上、正面からのガドリング砲での十字砲火。
全てを飲み込むような激流と化した2つの火線が巨大な爆煙の中で交わった。
DADoDAADADODADADADODADADADADA・・・・!!!!!!
DODODODODODODODODODODO・・・・!!!!!!
目の前の騎馬隊は次々と爆砕、瞬く間にその姿は血の煙と化していった。
「うおおおおおおおおおお・・・・!!!」
俺は雄叫びを上げながら銃口を振り、必死にトリガーのハンドルを回し続ける。
まさに力の暴風。
その巻き起こる巨大な暴風の中では何もかもが消し飛ばされるように死んでいく。
射線の先では銃弾に吹き飛ばされた騎兵の首や手、馬の手足らしき肉片が次々と飛び散り舞い上がる。だがそれすらもすぐに血の煙と化していった。
そうして先頭を突き進んでいた騎兵達は凄まじい銃撃の奔流を浴びて次々と爆砕、しかも撃たれた銃弾は後続の騎士達や馬の体を貫通し次々と大穴を開けていく。そして後続の騎兵達は苦しみ叫ぶ間もなく次々と起こる銃弾の爆風の中で踊るようにしながら転げ落ち、騎馬諸共バタバタと倒れて死んでいった。
中には爆風で意識を断たれて馬から転げ落ちるだけの者も沢山いた。だがそれもすぐに激流と化したニつの火線に飲み込まれ、瞬く間にバラバラの肉塊となっていった。
「・・・・・・・おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
・・・・・・・・DADADADODADADA、DOWNNNNNNN!!!!!!
しばらくして側方からの銃撃が止まった。
俺もそれに合わせて回していたトリガーのハンドルを止めた。
「・・ふぅ・・・ふぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・。」
どれぐらいの時間ハンドルを回し続けたのかはっきり覚えていない。
おそらく5分位なのだろうが、俺は何時間も戦い続けたような凄まじい疲労を感じていた。
目の前一面には巨大な砂煙が濛々と立ち込めている。だがその砂煙の中には動く影は何一つとして無い。さっきまで響いていた地鳴りのような馬の蹄の音も、雄叫びをあげる人の声も全く聞こえてこない。
その戦場は今、まるで音の無い世界。
不気味な静けさが戦場を包んだ。
(静かすぎる・・・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・?」
(あれ?敵はもう退却してたのかなぁ? うーむ・・・・・。)
俺は首を傾げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「!!!!」
次第に砂煙が落ちついて来た頃、俺の視線の先には信じられないような光景が一面に広がっていた。
谷の入口には沢山の敵の兵士や馬の死骸が所狭しと一面に広がっている。
そしてそのおびただしい数の死体の山は谷の奥の方へ向かって延々と川のように連なって続いていた。そしてその奥には沢山の壊れた馬車らしき物が散らばっているのも見える。殆どの馬車はその原型すらとどめておらず、いずれも全て哀れな残骸と化していた。
「・・・・・・・・・・・汗汗」
(・・・あわわわわ・・どうしよう・・・ほとんど一人でやっちまった!!!・・・汗)
敵の大軍は一人の兵も残さずそこで全滅していたのだった。
読んで頂き有難う御座います。




