第50話.作戦会議
誤字・脱字はご容赦下さい
●50.作戦会議
夕方、北の砦にて。
作戦会議室には俺達とティアナ姫、それと各騎士団の隊長や分隊長達が集っていた。
「・・・・以上が現在の状況である。」
砦の隊長より今の我が軍勢の内容が告げられた。
北の砦の隊長はギブソンさんといったっけ。
そのギブソンさんが言うには北の砦には長男ヘンリー配下の200名の守備隊がいるとの事。
コリンダークから退却した歩兵が300名、併せて俺達は歩兵500の軍勢との事だった。
食料の備蓄は兵200で3か月分。つまり現状では1か月と少ししか持たず、今後の補給もない。
対する敵の状況は、城内にはテスターの兵300、ロズワルドの騎士団100の軍勢がいるとの事。しかしコリンダークの城下街には予備兵が200程駐在しているらしいのでそれが組み込まれてしまうと大方コリンダークの敵は合計600程の勢力になるとの事だった。
ここからコリンダークの街まで30キロ。行軍で約5、6時間の距離になる。
うーん・・・・。
俺は会議室の一番後ろの壁にもたれながらその説明を聞いていた。
「・・・・ロズワルド領から敵の増援とかはないのか?」
会議室にいる騎士の一人が手を挙げて進行役を務めるギブソンさんに聞いた。
ギブソンさんは俯いて静かに首を横に振り、おそらくロズワルド領からコリンダークへ増援の兵は既に向かっている可能性は高いと答えた。そして敵がここへ攻めてくるのはその後になるだろうとも言った。そうなると時間にしておよそ3日~5日後。俺達にはほとんど時間がなかった。状況的に概ね詰んでいた。
「・・・・・・・・・・」
何も作戦が出ない。重い雰囲気が漂い会議室には沈黙が続く。
まぁ出したところで全て絶望的な策だということがみんな分かっているのだろう。
しばらくして
「マルボル殿、貴殿より何か策はないか?」
俺はギブソンさんより突然の指名を受けた。
会議室にいる一同は部屋の一番奥の壁にもたれているに俺を一斉に見た。
(え!? 俺? ・・・まぁ仕方無いか・・・・)
突然の指名にびっくりしたが、俺はここで作戦を提案する事にした。
このままではこの会議の終わりが見えないしな。
領主軍の騎士ではないし、ある意味俺はここの部外者で好きな事が言える立場だ。
黙っていて変な作戦に無理矢理巻き込まれるのも嫌だし・・・。
言わせてくれるなら今のうち言いたい事は言っておこうかな。
俺は立ち上がり一息ついて挨拶した。
「俺はケンスケ=マルボルという者だ。皆さんと違い、俺は領主軍の騎士ではないのだがそこにおられるティアナ姫や騎士ロベルト達よりこの度、助力の依頼を受けてここへ来た。宜しく頼む。」
「おお!!! 貴殿があのラサンの英雄か・・・・」
会議室にいた騎士達の数名が俺の名前を呟いた。
会議室がざわめく。
俺はみんなに言った
「聞いてくれ。みんな分かっている事だとは思うが俺達のとれる作戦は結局おおまかに三つしかないと思う。だがそのどれも絶望的な作戦になるだろうが・・・・。」
そう言って俺は司会のギブソンさんを見た。
「続けてくれ・・・・」
ギブソンさんは了解し俺に話を進めさせる。
俺はその大まかな3つの作戦の方針を皆に分かりやすく説明する事にした。
「まず1つ目の作戦だが、敵の増援が来る前にコリンダークへ進軍し城を奪還する作戦だ。
まぁこれは一番俺達の目的に則している作戦だとは思う。だが俺達が今から出撃準備をしてコリンダークへ強行しても到着した時点で残り2日。常套手段では2日という短時間で城を落とせる可能性は極めて低い。しかも失敗すると敵の増援軍と城兵から城門前で挟み撃ちに合い全滅する可能性が非常に高い。・・・・」
「・・・そして2つ目の作戦は砦から城までの区間で敵に奇襲を仕掛けて討伐隊を迎撃する作戦だ。ただしこれは増援を含む大軍を相手にする事になる。こちらは寡兵。奇襲を仕掛ける事で敵に損害を与えるって事には最も有効ではあるんだがな・・・。だが敵の総戦力がつかめていない分、大軍で押し切られてしまう可能性もある。しかもこの作戦はその大軍をほぼ無傷の状態で完全に殲滅しなければならない。それが出来なければこの後、城の奪還作戦を引継いで行う事が出来ないって訳だ。・・・・」
「・・・そして最後3つ目の作戦。籠城だ。戦時の延長としては有効なんだが、補給が効かない今の状況では大軍に包囲されて兵糧攻めにあう。増援のない今、当然勝ちはない。」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
再び沈黙が始まる。
ガタッ!
突然ギブソンさんの横にいたティアナ姫が椅子から立ち上がった
「・・・・それでケンスケ様はどの作戦が良いと思われますの?」
そう言ってティアナ姫は両手を組んで祈るようにじっと俺を見詰めている。
他の騎士たちは沈痛な表情をしてそのまま黙って俯いていた。
周りからは他の作戦や意見なんかは出ない様だ。
会議室の全員は俺の発言をじっと待っているようだった。
(うーん、仕方ないなぁ・・・とりあえず答えとくか。まぁ部外者だし)
俺は静かに答えた。
「やるなら2番目だ。俺は勝ちに行くにはこれしかないと思う」
1は嫌だった。死ぬ可能性が高いから。理由はそれだけ・・・。
「!! か、勝てるのですね!?」
ティアナ姫は俺に聞いた。その大きな瞳は蘭々輝いていた。
(え!?・・・いきなりそう聞くの?)
「うっ・・・・ああ。わずかな勝算なんだがな。」
俺は引き攣る顔を帽子で隠した際、うっかりそう答えてしまった。
「あ・・・・・・」(しまった!)
「うおおおおおおおおおおおおっーーーー!!」
その直後、会議室が騎士団の大歓声で沸き立った
そうしてそのまま2番目の作戦に即決してしまったのだった。
(・・・しまった!!期待させてしまった!!とりあえず俺、部外者のつもりだったのに!!なんかこの雰囲気、俺の責任重大なんじゃない!? ああああ・・・・どうしよう・・・・)
「・・・・・・・・・・・汗」
翌日
俺は昨日の失言で凹んだ気持ちのまま、メイベルとグレース、ロベルトさん達騎士団数名を連れて砦を出た。流石に逃げる為ではない。本当は全力でそうしたいのだが・・・。
これはコリンダークへ向かうルートを進みながら地形の確認を行うためだ。
俺はあの後、ギブソンさんからは周辺の地図は貰っている。
しかし、その手書きで書かれたその地図を見ただけでは大まかな地形の概要しか分からず、作戦を立てるには不十分だったのだ。
とにかく敵の通るルートで奇襲を仕掛ける場所を急ぎ確定しなければならない。
俺達数名は馬に乗り、地形を確認しながらコリンダークへ向かう街道を南下していた。
北の砦からコリンダークまでのルート、砦はやや山間部にさしかかった丘陵地にあって、コリンダークまで続くルートはその丘陵地を下った辺りから続いている谷間を縫って南下していく形となる。
俺達は谷間の入口に差し掛かり、そのまましばらく進んだ。
ロベルトさんは地図を手に、辺りを見渡して俺に説明する。
「コリンダークから砦までは大かたこのルートを通る事になります。」
「・・・・・・・・・・・」
俺は凹んだ気持ちを切り替え、自分に渡された周辺の地図を見ながら作戦考える。
地図を見るとコリンダークから砦に向かうルートには途中の山間部を抜ける為に暫く谷底の道を通って北上するエリアがあった。
「この地点に罠を仕掛けることは出来ますか?」
俺は地図を指さした。
位置的にはここから少し南に進んだ辺りとなる。
「その辺りですか?」
ロベルトさん馬を寄せて俺の指差す地図の位置を確認した。
「はい。谷上からの落石や倒木あたりがベストですね。」
「ふむ。」
ロベルトさんは俺を見て頷いた。
「あと数日しか時間がありません。なので大した罠は作れないと思いますが、取り急ぎこの辺りに敵が差し掛かった時、俺は落石などで敵の退路を完全に断つような形にしたいのです。」
俺はロベルトさんに作戦の概要を説明した。
「我々はまず敵が通過するこの谷のルートの中間からやや出口方面に差し掛かるあたり、まぁここから少し先のあたりですかね。谷上に落石の罠を仕掛けます。ですが敵がそこを通過するのを一旦やり過ごしてほしいのです。そして敵がそこを通過して谷底の出口付近に差し掛かった付近、まぁ今俺達がいるこのあたりになります。ここの谷上に配置した弓兵で奇襲をしかけます。そうなると敵の一軍は谷を抜ける為に一気に砦の方へ進軍するでしょう。そうしたら谷の出口で俺が敵を迎え撃ちます。そして俺は敵を谷間の奥へ退却させますので、その際には岩を落として敵の退路を断ってほしいのです。その後、谷底で退路を断たれた敵を主力部隊で殲滅します」
「そして谷上の高い位置・・・うーん、このちょい先あたりに奇襲させる弓兵200を配備してください。俺と主力部隊200は谷の出口。あと出口の側方の少し高い位置に5人程が籠れる程の小さな陣地を作って下さい。そして残り100名は罠の辺りに配備させて周囲を索敵、敵の退却後は主力部隊と共に谷底の敵を挟撃します」
「わかりました。急ぎ取り掛かります」
ロベルトさんは俺に深く一礼をした後、部下の騎士達へそれぞれ指示を出した。
――――――――――
その2日後、朝
コリンダーク城にて
城内の見張りの兵士が大広間へ駈け込んで来た。
「テスター様。まもなくロズワルド領からの援軍が城へ到着致します。その数、騎兵2000。到着はおよそ1時間後です。」
兵士は片膝をつき、領主の席に座るテスターに報告した。
城内の大広間にはテスターと配下の兵士数名、後その報告を今か今かと待っていたロスワルド卿とその息子ギリアムの二人がいた。
「おお!やっと来たか!!至急城門を開けて彼らを城内へ受け入れよ。」
テスターは喜色をあげて領主の席で傅く兵士にあれこれと指示を出した。
「おいテスター!お前は急いで2000人分の兵の食事と兵糧の準備をさせろ!兵の食事と兵糧の準備が済み次第すぐに兵を出すぞ。北の砦へは直接俺が行く!」
ギリアムは兵士へ指示をしているテスターに横から怒鳴るように言った。
「なんと!?ギリアム様が直接指揮を執られるのですか?」
テスターはそう言ってオドオドしながらギリアムとロズワルド卿の様子を伺う
「当たり前だ!向こうにはティアナ姫がいるのだぞ。ここで時間をかけて姫を領外へ逃がす訳にはいかんだろうが!・・・・」
ギリアムはそう言うと、側にいる父クレイブに片膝をついて傅いてお願いした。
「・・・では父上。私が到着した騎兵2000を率い北の砦へ向かいます。宜しいでしょうか?」
「うむ、わかった。ギリアム、敵は烏合の衆に過ぎんだろうがくれぐれも気を付けるのだぞ。」
「はは!畏まりました!!」
そう言うとギリアムは立ち上がり、猛禽のような笑顔を浮かべながら急いで大広間を出て行ったのだった。
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