第49話.成り行き任せ
誤字・脱字はご容赦下さい
●49.成り行き任せ
・・・・・・・
俺は背後でメイベルとグレースに冷やかな眼差しを受けながら固まっていた。
「姫!マルボル殿が困惑しておられます。それくらいになさって・・・・」
ロベルトさんはその女性の側で片膝をついて遠慮がちにその女性を嗜める
(えええっ!?なにぃ!この人、姫だとぉ!?)
「・・・ぐすん。・・・ひっく。・・・・ひっく。」
その女性は俺に抱き着いたまま中々離れようとしない。
「!?」
え!? この女性は今泣いているのか?
「・・・ロベルトさん、これは一体どういう事ですか」
俺は手で帽子の庇を押さえ焦りまくった表情を自然な仕草で隠す。
俺はその女性に抱き着かれたまま、静かにロベルトさんに聞いた。
・・・俺はなんだかヤバい予感がしてならない。
「このお方はラッセル伯爵のご息女であるティアナ姫様で御座います。つい昨日の夜の事、コリンダークの城で伯爵の三男テスターと隣領主ロズワルドが共謀し城内で謀反を起こしました。その後、残念ながらコリダーク城はあえなく陥落。城に残った領主ラッセルからの最後の命令として、我々はこの僅かな手勢を連れ姫と城から脱出し、ここまで落ち延びて来たので御座います。・・・・」
ロベルトさんは俺に衝撃的な言葉を口にした。
「・・・・・・!!」(うっそぉ!!)
俺のヤバい予感はまさに的中。この人達はこれ以上ない最悪の状況のようだ。
俺は意味が分からず再びカチンと固まる。
「・・・つきましてこの度は我等一同、何卒お願いしたき事が御座います。ケンスケ=マルボル殿!どうかそのお力を我々にお貸し下さい。お願い致します!」
そう言ってロベルトさんはそのまま俺に真摯に頭を下げてきた。
(うう・・・いやだ・・・なんでこうなるんだ・・・汗)
すると
「・・・・どうか・・・どうか・・・父上をお助け下さい。・・・ひっく。・・・ひっく。」
俺に抱き着いていた女性は小さな泣き声でそう言うとその腕をゆっくりと放した。
「!!・・・・ぬぉ!!」
抱き着いていたのは長い金髪のこれまたヤバいくらい美しい姫様だった。
34年生きて来て俺はこんな経験は初めてだったので思考が回らず焦りまくる。
その姫様はとても整った綺麗な顔立ちに大きな青い瞳。そのふわりとなびく綺麗な金髪からはなんとなく光のオーラにみたいなものが出ていそうな感じがする程。
しかもその目はうるうる。ビビりながらもおっさんの気持ちは一気にそっちへ傾く。
俺は突然の出来事だった事もあり、一瞬その姿に見とれてしまった。
(・・・・・あわわ・・・しまった!いかんいかん・・・俺、冷静になれ!)
しばらくして後ろに控えていた騎士達やグレース、メイベルもぞろぞろとやって来くる。
ますますやばい。俺はこんな美人に抱き着かれ、すっかり緩んでしまっていた顔面を鉄の心をもってクールな表情へとサッと元へ戻した。
そして心の傾きもなるだけフラットへ戻す。
そして俺は焦っていた気持ちを誤魔化す為、そのまま懐からタバコをすっと取り出しライターで静かに火をつけた。
カチッ! チンッ!!
「・・・・・・・・・ふう」(落ち着け、落ち着け、落ち着け俺・・・・)
俺はタバコの白煙をゆっくりとくゆらせ、本当はドキドキしながらもなるだけ自然なフリをしつつ周りを静かに見渡した。
ふう、どうやら俺の激しい心の動揺は周りにうまく誤魔化せたようだ・・・。
・・・・よかった。メイベルやグレースに殴られずに済みそうだ。
俺はそんなどうでもいい事を考えながらそのままクールな表情で顔面の筋肉を固め、ロベルトさんに今の状況を尋ねた。
「・・・・では今、あなた達は追手に追われているのですか?」
ロベルトさんは片膝をついたまま
「いいえ、おそらく追手の方はまだ我々の居場所には気が付いていない様子です。ですがいずれ城から捜索隊が出されるはずです。」
そう言って顔を上げ俺をじっとを見つめる。
(うーん、弱ったなぁ・・・・どうすりゃいいんだよ? なんか俺も泣きそうだわ・・・・)
「・・・・とりあえずあなた方の事情は大体分かりました。詳しい詳細はこちらでお聞きしましょう。」
困り果てた俺は騎士団の一行をひとまず明かりのある俺達のキャンプへ誘うことにした。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
その後、ロベルトさんから昨夜コリンダークの城で起こった出来事を詳しく聞いた。
城内に残ったラッセル伯爵の事やクーデターを起こした三男のテスター、共謀したロズワルド伯爵の事も出来るだけ詳しく。
ティアナ姫はロベルトさんの話を時折涙を浮かべながら静かに聞いていた。
そんな彼女達は俺を探し出し、今後の協力をしてもらう為にわざわざラサンの街の方向へ向かっていたとの事だった。
必死に泣くのを我慢し、気丈に振る舞おうとしている彼女の姿が俺の心に深く突き刺さった。その彼女らの健気な姿には嘘や偽りといったようなものは一切感じられなかった。
「・・・・・・・」
俺は悩んだ。もしかしたら今、俺は人生で一番悩んでいる時なのかもしれない。
正直、こんな事を俺みたいなパンピーのおっさんに頼んだところで俺は果たして彼らの力になんてなれるのか!?・・・・うん、間違いなくなれないだろ。
俺は月給35万円のしがない普通のサラリーマンなんですから・・・・。
でもこのまま彼女達を見捨てて王都へ行く訳にはいかなさそうだしなぁ・・・。
(・・・うーん、どうしよう・・・)
しかもこの件、俺達やホーストを狙う黒幕が何かしら絡んでいるのかもしれないし・・・
でももしそうだとしたらロベルトさんやこのお姫様はあまりにも不憫だ・・・。
やりたくない仕事なんだけど仕方ないよなぁ・・。俺はぼんやりと焚火の炎を見詰めながら考えを固めた。
そんな時
「ケンスケ、これからどうするんだ?」
小さな焚火も向こうに座るグレースは俺を見て静かに聞いた。メイベルもグレースの横に座り不安そうにこちらを見ている
「ん・・・・そうだな。このままクーデターの起こったコリンダークの街に入るは危険だと思う。だから俺は当面の間、出来るだけロベルトさん達に協力しようと思っているんだが皆はどうだ?」
俺はゆっくり立ち上がって二人に聞いた。
「・・・わかった。まぁお前らしいな。私も同じ考えだ。」
グレースは焚火を見ながらフフッと笑って頷いた。メイベルも頷いている。どうやら彼女も賛成のようだ。
「かたじけないマルボル殿!!」
「ケンスケ様・・・・有難うございます」
騎士団の一同は涙を流しながら片膝とつき俺達にお礼をした。
ティアナ姫も涙を流していた。
俺はこれからの事が気になった。とりあえずロベルトさんに今後の方針を聞く。
ロベルトさんは言った。
「コリンダークの街から北へ30キロ程いった所に国境防衛の砦があります。我々の軍勢は現在そこに向けて退却中のはずで御座います。つきまして今後は彼らと合流し我々はそこで軍勢を整え再起を図るつもりです。」
「うむ。・・・・わかった」
俺は被っている帽子を押さえ静かに答えた。
メイベルとティアナ姫が心配そうにこっちを見たので俺は少しだけ帽子の庇を上げてニッコリと笑ってみせた。
こうなった以上もう成り行き任せだ。もう深く考えるのは止めよう。
この人達を助けるんだ。それがいい。俺はそっちの方がきっと後悔はしないはずだ。
そうして俺達はその後、ここで軽い食事をとった後キャンプを畳んで急ぎコリンダークの北にある砦へ向かう事となった。
今は接敵の恐れがあるので通常もルートや街は危険なので通れない。
俺達は道なき荒野を北東へ向け、騎士団の馬と馬車で夜通し駆けたのだった。
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コリンダークの城、城内大広間にて
そこには今、不在となった領主の席に我がもの顔でどかりと座り、イライラしている一人の貧相な男がいる。
テスター=ラッセル。
カイン=ラッセル辺境伯爵の三男。
背は低く小心者。しかも運動などまるでしていないかの様な怠惰な体つきをしている。
彼は父カインより跡継ぎとして厳しく育てられた二人の兄達とは違い、彼は乳母にひたすら甘やかされて育った為か自分に都合の良い事しか考えないまさに愚鈍で単純な男であった。
彼には既に二人の兄がいる為、当然ラッセル家での領主継承権は無い。
父カインはそんな彼に辺境騎士爵(領地内での騎士爵)を授けて領内の小さな街といくつかの周辺の小さな村を含んだ領地を自治として統括させていた。
その領地の街は小さく大した産業もない寂れた辺境。
彼はその待遇が不満でならなかった。この地には巨大な金鉱が眠っているのだ。
自分は領主の子でありながらその地を相続出来ず小さな田舎の領地を与えられただけ。
そんな彼は兄二人対して激しい嫉妬を抱いていた。まさに邪魔で仕方なかったのだ。
彼らさえ死ねば自分に相続権が回って来るのだ。
よく領地を訪れるロズワルド卿は事あるごとに自分の悩みを聞いてくれる。ロズワルド卿は領主の目を盗みテスター個人に金銭的なバックアップもしてくれた事もあった。そうしているうちにテスターはロズワルド卿と秘密裡に親密な仲となったのだ。
彼は事あるごとにロズワルド卿に今の不遇の立場について相談をしていた。
そんな折、二人の兄を始末し、自分こそが領主の正当な跡継ぎになるべきだとロズワルド卿は勧めてきてくれたのだ。
これはテスターにとってまさに渡るに舟の話であった。
彼は是非ともロズワルド卿に協力してほしいと頼んだ。
そうすると暫くしてロスワルド卿は王都から決してバレる事がない毒薬を持って来てくれた。彼は手始めにテスターの部下や間者を上手く使ってその毒薬を次男のマリオンの食事に盛り、病床より立ち上がれない体にしてくれたのだ。
卿は次に長男のヘンリーも殺すつもりでいてくれていたようなのだが、ヘンリーは城内では父カインと行動することが多く、また離れた北の砦にも頻繁に出向く為、残念ながら彼を殺す機会には恵まれる事がほとんど無かった。
そんな折、領内の鉱山で化物事件が起こる。多くの鉱夫が死んだ。
ロズワルド卿に聞くとこれは彼の所属する派閥がテスターにラッセル領を継がせる為に行ってくれた事だという。
父カインはロズワルド卿のいる派閥ではなく国王派だった。
彼はテスターに持ち掛けた。この事件を利用し、カインを捕縛してその罪を全て彼に被せ、代わりに自分がここの領主になれば良いと。
その後一緒にその派閥に入れば、ロズワルド卿が派閥の力を使って自分を国の重要なポストにも就かせてくれるという話も持ち掛けてくれたのだった。
彼は迷うことなくこの話に乗った。その為に妹ティアナも売った。
父と兄を殺し、自分が領主となる。そして自分は中央の派閥の力を得て国の重要なポストに就くのだ。自分の栄華を極める為に。
そんな愚かな彼の夢はたったそれだけの事だった。
「ティアナはどこにいる!」
大広間の領主の椅子から立ち上がったテスターは目の前に傅く部下達に叫んだ。
テスターは城を制圧した後、真っ先にティアナの居場所を探した。
しかしティアナは城内の何処を探しても見つからず、先程より彼は城内の兵士を全て使って城内や庭などを徹底的に捜索させていたのだった。
「はッ!城内や庭、城壁等を懸命に探しましたが今の所見当たりません。」
呼ばれて現れた部下の兵士はすぐさま片膝をついてテスターに現状を報告した。
バンッ!!ガラン!ガラガラ・・・・
「くそっ!くそ!!もっとくまなく探すんだ!!」
テスターは自分の兜を脱いで悔しそうに床へ投げつけた。
彼はクーデターが終了した後、拘束したティアナの身柄をすぐにロズワルドの息子ギリアムにお礼として差し出す約束をしていた。このままではまずい。焦る彼は怒鳴りながらその部下へ再度ティアナの捜査の指示を出した。
「どういう事だテスター!話が違うぞ!」
ロズワルドの息子ギリアムがテスターを睨みつけて言った。
ギリアムはテスターより5歳程年上、体格も大きく貧相なテスターと比べるまでもない。
「す、すまない。ギリアム殿。今しばらく待ってくれ。ティアナは我等が攻め入る直前まで城内にいた筈なんだ。今部下を使って城内を確認している。」
テスターそう言ってギリアムを宥めようとした。
「ふざけんな!この城には城外への逃げ道とか抜け穴とかがあるんじゃないのか!?」
ギリアムはテスターに怒鳴るように聞いた。
「・・い・・いや・・・少なくても俺は知らない。もし城内にそんなものがあったとしても使用はしていないと思うのだが・・・。それだったら父カインもそこから脱出を図っているはずだ。」
「ぐ・・そうか・・・・んじゃあそのカインは一体何と言っているんだ!?」
ギリアムは凄まじい形相でテスターを睨みつつ尋ねた。
既にテスターの額には冷や汗のようなものが滲んでいる
「い・・今、地下牢に幽閉して兵士に取り調べさせているんだが、ティアナの事は夕方から見ていないから何も知らないとの一点張りだった。ただ夕方に自分の護衛に会うため城門へ向かっていったとは言っているようだ」
テスターはギリアムの形相に恐れをなしてオドオドとした声で状況を説明した。
「なんだと!!じゃあ俺が取り逃がしたとでもいうのかよ!!」
激高したギリアムはテスターに駆け寄りその胸倉を掴み恫喝する。
「・・・す、すまないギリアム殿。・・やめてくれ・・」
テスターはギリアムに掴まれたまま、首を振りその前言を取り消すように謝った。
すると城外に出していた伝令の兵が大急ぎで戻って来た。
「テ、テスター様!大変です。先程城外の兵士にティアナ様の行方を探らせました所、姫は昨夜城外におびき出した騎士団と合流して昨夜のうちに北の砦へ退却したとの噂が流れております!」
「なにぃ!!では我々が城門を抑える前に抜け出したっていうのか!?くそがぁあ!!」
ギリアムはそう言ってテスターから手を放し、近くにある椅子を蹴飛ばした。
同時に胸倉を放されたテスターはよろめきながらほっとした安堵の息を軽く漏らした。
「やめろ!もうよい!」
「!?」
二人はその人物を見た。
「テスター殿、ギリアム。もうよい。戯れはもうそれくらいにするのだ!」
クレイブ=ロズワルド伯爵が二人のやり取りに割って入ってきた。
「父上・・・」「ロズワルド卿・・・」
ギリアムは父、クレイブの登場に慌てて彼の前に片膝をつき頭を下げた。
続けてテスターもギリアムに倣い彼の前に片膝をついて畏まった。
クレイブは醜悪な笑いを浮かべながら二人に言った。
「二人とも、そう心配するでない。こういう事もあろうかと儂はすでに手は打っておる。
あと三日すれば我が領地より2000の騎兵団がこの城へ到着する手筈にしておるのだ。北の砦の兵力など知れたもの。逃れた300を足したところでせいぜい500程度だろう。この2000の騎兵で砦を取り囲めば、奴らはそこから絶対に出ては来れん。補給も出来ないあ奴らはその後何もせずとも泣きながら姫を差し出し、我等に降伏するだろうて。くくく・・・」
「2000も! 流石で御座います父上!」
ギリアムは父クレイブを褒め称える。その2000の騎兵団というとロズワルド領の持つ全兵数の半分にもあたる数である。
ラッセル領には領内の騎士や歩兵等の雑兵を全て合わせてもせいぜい2000~2500程しかいない。
この数は辺境の一領主が所有する騎兵の数としてはまさに破格の大軍であった。
「テスター殿。我々は貴殿の統治の為にこうして至れり尽くせり尽力しておるのだ。ついては鉱山の利権についてもう少し条件を上乗せしていただくよ。いかがかな? ふふふ。」
クレイブはテスターをギラリと睨み、蛇のような彼の口が不気味に動く、その口の奥には不気味な舌が舐めずるように動いているのがテスターにはわかった。クレイブに睨まれたテスターは流れる汗にも気が付かず、逃れられない呪縛にでも掛かったかのようにゴクリと唾を飲み込みコクコクと彼の言う事に頷く事しか出来なかった。
読んで頂き、誠に有難う御座います




