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第47話.コリンダークへ

誤字・脱字はご容赦下さい

●47.コリンダークへ


ラッセル領、中心都市コリンダーク。

アステル王国、辺境伯ラッセル伯爵の統治する城下街。

王国の辺境地とはいえ、北部にはキスヤ帝国との国境もあり、この街は小さいながらも文化の中心というよりは辺境開拓地の拠点や国境の軍事拠点としての役割をこの街は果たしている。


領主、カイン=ラッセル辺境伯はこの街へ赴任して10年程になる。

以前彼は王国中央の豊かな穀倉地、その近辺の小さな領地を長年統括していたのだが、王国内部の政変後、貴族間での領地の移動があってこの地へ赴任してきた。

カインはかつて国王派の一派閥に所属していた。


カインは権力争いを好まず、温厚で世間的には凡庸に見える男だった。

彼には秀でた軍属の経験もなく、度重なる国内の政変の際にも極力国内の各派閥の紛争からは逃げるような立ち位置で振る舞ってきた。

そうこうしているうちに、権力はやがて一部の貴族に握られるようになってしまい、国王の権力は次第に失墜していく。次第に穏健派とはいえ国王派の派閥に属していた彼は中央の政治体制から疎まれ冷遇されるようになっていった。

その後、カインは肩書だけは辺境伯爵といった名目を与えられたが、当時は何も魅力も無く、国境問題しかなくただ広いだけという貧しい片田舎、ごくわずかの手勢のみを付けられて北方防衛軍の軍団長として一族の家臣と共にこの地に赴任させられて来たのだ。

これは国王派の近くから遠ざけられるような形、いわゆる半ば左遷のような形である。


だがカインはその冷遇の中でも彼なりにこの領地を治めていた。

もともと彼は凡庸に見られる見た目ながらも政治的な手腕はもっている人物で、国王からの信頼はそれなりに高かった。政変以前には王国の行政も担った経験もある人物だった。

彼は、この領地に赴任した後も、中央派閥の冷遇に腐ることはなく、貧しいながらも国境問題や当時の派閥争いが元で紛糾してしまった辺境の騎士領等もなんとか立て直して統括し、近隣や領内の開発事業にも手を広げた。


そんな折、領内で金鉱が発見される。

以前までは国内で全く見向きもされなかったこの辺境の地はその金鉱が巨大なものだと分かると、今まで全く何も魅力なかったこの領地の立場はがらりと一変した。

中央の貴族達や隣国の領主達はこぞってこの金鉱の利権を狙って次々と領内に紛争を引き起こし、鉱山やその近郊の街や村へは人がなだれ込んで領内の治安はどんどん悪化していったのだ。



カインは執務室の机の上に肘をついて小さなため息を吐いた。

領内では毎日のようにさまざまな問題が起こり、自分はゆっくり休む時間も無い程。

毎日その対応の仕事に追われている。

彼は疲れ切った頭を切り替えようと、窓から城外の景色を見た。

今日は朝早くからこの部屋の机に座って仕事を始めていたのだったが既に外の景色は西日が差しかかっていた。


「・・・・・ふぅ。もうこんな時間か・・・・」


窓の外をみると城の入口には甲冑を着た兵士や馬車が沢山並んでいる。

今日の夕方には隣の領主のロズワルド卿とその息子がこの街へやって来る予定になっていた。ロズワルド卿らの会談は明日を予定しており、今夜は彼らへの歓迎の挨拶と晩餐の予定を入れてあった。街の入口では先程到着したと思われるロズワルド卿の馬車とその護衛の騎士団の入城の手続きを行っていた。


その後カインはふと部屋の入口を見ると侍女を一人連れた若い女性が心配そうにしながら部屋の入口のそばに立っていた。彼女は疲れた顔をしているカインに優しく声をかけた。


「・・・・お父様、毎日そんなに無理をしてはお体に毒ですよ」


そう言って彼女は暖かい紅茶の入ったティーカップを隣に控えている侍女から貰い、そのカップをカインの執務机の上に静かに置いた。


「おおティアナか。全く気が付かなかったよ。有難う、いつも済まないな。今日もまた仕事に根を詰めすぎてしまっていたよ。」

カインは苦笑いをしながらその若い女性を見て答えた。


領主カイン=ラッセルには四人の息子と末に一人の娘がいる。

長男のヘンリーはラッセル家の跡取りとして領内の統治の仕事の補佐。騎士団の一部と共に北の国境付近の砦の管轄も任せている。次男のマリオンは体が弱く、城内で長く病床の中にいる。三男のテスターには領内の領地の一部と辺境騎士爵としての爵位を与え、近郊の小さな街といくつかの小さな村を治めさせていた。

四男のベンジャミンは領内の治安維持の為、金鉱近くのラサンの街に赴任させて保安官としてしばらく働かせていたのだが、領内を荒らし回っていた盗賊ロードキルー=ケリーと共謀し、周辺の街で数えきれない程の収賄や多くの強盗事件などの犯罪にも関わっていた事が明らかとなった。彼はこの事件には激怒し、四男のベンジャミンは即刻死刑にした。

そして末娘のティアナは未婚でまだ若く、城内に住んでいる。


「ティアナ。どうしたんだい。何か話でもあるのかい?」

カインはティアナへ訪ねた。


ティアナは今年18歳になる。ここへ来た頃はまだ小さな子供だったのだが、10年の歳月はティアナを長い金髪の非常に美しい女性へと変えた。瞬く間に彼女の美貌は領内や近隣の領地でも知れ渡った。しかもここの領地は巨大な金鉱が発見された事もあって、鉱山の利権を狙って彼女へ求婚してくる若い貴族達が次から次へと後を絶たない。

そろそろカインも彼女の結婚相手についても色々と考えないとならないのだが、彼はそういった欲望むき出しの愚かな貴族達にその美しく育った自慢の娘を嫁には出したくないと思っていた。


「お父様、実は今日もあのラサンの英雄のお話を聞きたいのです。」

彼女はにっこり微笑んでカインの背中に抱き着いた。


「ああ、ケンスケ=マルボル殿の事かね?」

カインは無邪気に背中に抱き着く娘を優しくあやすようにニッコリ笑って答えた。


「はい。あの方のお話です。」

領内で瞬く間に有名になったラサンの街の英雄のお話。

この話はラサンの街からやってくる商人や冒険者達の間から領内に爆発的に広まった。


ラサンの街に突然現れた異国風のいで立ちをした凄腕の魔道士。

彼は見た事も無いような凄まじい魔法を使い、たった一人で盗賊の一団から襲われている商隊を無償で救い、酒場ではそこにいた賞金首を目にも止らぬ早業の魔法を使って撃ち倒したという。そしてその後、彼はたった一人でこの領内一帯を荒らし回っていた街道殺しの一味を瞬く間に壊滅させ、単身でアジトに乗り込み人質にされていた教会のシスターと奴隷の少女を救い出したという。


ティアナはラサンの街の広場で遠目ながらに一度だけその英雄の姿を見た事があった。

それはラサンの街の広場で彼を表彰する式典にティアナがついて行った時だった。

無口で背は高く、黒髪でとても優しそうな顔をした人物だったのを覚えている。


彼は噂通り、一風変わった見た事も無い異国風のいで立ちをしていた。

その異国風のいで立ちは、流石は凄腕の魔道士というような何か洗練されたカッコ良さが滲み出ており、独特の形をした大きな庇の皮帽子と古い荒布の様な生地で出来た茶色で質素なマントはまさに歴戦の騎士といった様な風格が漂っていた。


その後、彼はその街道殺しを倒してお父様から貰った賞金をなんと、助けた奴隷の少女の市民権を買う為に使ったという。

そんな彼の英雄譚はうら若き年頃のティアナにとっては、まさに彼女がいつも読みふけっている小説、「英雄から救い出されるお姫様の恋物語」そのものであった。

彼女はケンスケという人物にそんな憧れや恋心を感じずにはいられなかった。


しかも彼の話にはさらに続きがあった。

先日、鉱山で働く名もなき鉱夫の子供の依頼を聞き、採石場に巣くう巨大で恐ろしい鉄の化け物と戦った。そして彼は凄まじい魔法を使ってその化け物を激戦の末ついに打ち倒し、鉱山に閉じ込められてしまっていた沢山の鉱夫達の命を救ったという。

そしてその後、彼は何も語る事も誇る事もせず、静かにそのラサンの街を去ったと聞いた。


ティアナは鉱山の事件を聞いた直後、彼に会うために何度かラサンの街へ向かい彼の営む小さな工房を訪ねていた。しかし彼の営んでいる小さな鍛冶工房はいつも留守で誰も居なかった。


「マルボル殿はラサンの街には今いないらしいね。まだ領内のどこかにはいるみたいなんだが、私にも彼が今どこへ行っているのかがさっぱり分からないんだよ。でもねティアナ、私がラサンの冒険者ギルド長から聞いた話によると、彼は近いうちに王都へ向かう旅を計画しているらしいんだ。だからその時、彼は必ずこのコリンダークの街にも立ち寄るはずだよ。その時は彼を一度城へ招いて私達と一緒に食事でもしようかとも思っているんだよ」


「本当!? 有難う、お父様大好き!」

ティアナは大喜びしてそのままカインにぎゅっと抱き着く。


「ははは、こらこら、苦しい苦しい。だからもう街の入口の門番にはマルボル殿がこの街に立ち寄られたらすぐ私の方に連絡するようにと言ってあるよ」


「そうなのですね!とても楽しみしていますね。ロベルトにも急いでその事を伝えなきゃ」

そういってティアナはカインの背中から離れた。


「そうかそうか。でもロベルトはティアナの護衛の他にも今日は騎士のお仕事がいっぱいで忙しいんだから無理を言って彼を困らせてはダメだよ。夜には隣のロズワルド卿との晩餐の予定も入れてあるんだからティアナもここでゆっくりしてないで早くご挨拶の準備を済ませないとね。」

カインはティアナへ振り向いてニッコリ笑って彼女の頭を優しく撫でた。


「はぁい、お父様。でも私はもうお父様から頭を撫でて頂くような子供じゃありませんよ。」

ティアナは少し頬を膨らませてカインに行った。


「そうかそうか。でもティアナは私の可愛い一人娘なんだよ。私はいつまででもこうしてティアナの頭を撫でていたいんだよ」

カインはそう言って微笑みながら部屋を出ていくティアナの後ろ姿を見送った。


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・ロズワルドか・・・・」

カインはティアナが出て行ったのを確認すると先程の表情とはうって変わり沈痛に表情となって静かに呟いた。


隣領の領主ロズワルド。クレイブ=ロズワルド伯爵という。

彼は所属する中央の派閥を傘に何も功績もない癖に伯爵位を賜った新参の伯爵だった。

本当に強欲傲岸をそのまま絵に書いたような男で、権力に取り入るためならば裏でどんな汚いことでも平気でやりたがる男だった。

過去には中央の派閥の権力を傘に形だけの共同開発という名目を持ちかけ金鉱の利権を無理矢理かすめ取ろうとした事もある。しかもその息子のギリアムもその父親と同じく強欲傲岸、しかも蛇のようにしつこい男で、一人娘のティアナを狙い、派閥の力を使っては何度もカインにティアナを嫁に差し出すようにと遠まわしに脅しをかけて来た事もあった。

以前より彼らは事ある度にこの領地を厚かましく訪問しては城に滞在し、この領地で何が起こっているのかを探っている様子も見られた。


そして先日、領内の鉱山で巨大な化け物が出現した騒ぎがあった。

派遣させた調査団から得た極秘の報告によると、この化け物騒ぎの真相はホースト一族の末裔を狙った人質事件という事がわかったのだ。しかも領内を荒らし回っていた街道殺しもその黒幕と裏で繋がっていたという。その黒幕はホーストの力を狙い、しかもその一部をすでに手に入れている事も聞いた。

そしてカインは渦中のホーストの末裔を救い出したケンスケ=マルボルという人物は、現在王都へ向かう為に暫く敵からその身を隠しているのだと考えていた。

そしてカインは今回、ロズワルドがこの城へ突然来た本当の理由にはこれらの事件と黒幕が必ず深く絡んでいるはずだと確信している。

なぜなら先日の鉱山の事件は領内で極秘としていたにも関わらず、今回ロズワルドが訪問して来た理由が「沢山の鉱夫が亡くなった痛ましい事件のお見舞い」といった実に厚かましくふざけた名目でもあった為だ。


「仕方ない、あいつ等には会いたくはないのだか準備をするとしよう」

カインは一度フルフルと首を振った後。重い足でその執務室を出たのだった。



東へ続く街道。

俺達を乗せたホロ付きの小さな馬車は乾いたその一本道をのんびりと進んだ。

二日ほど変わり映えの無い荒地を進む。すると小さな小川がいくつかあり、そこに掛かった小さな橋を越えた辺りになってくると街道の周りはうっすらとした背丈の低い草がちらほら生える草原へ景色は代わって行った。

あと一日このままのペースで進むと、ラッセル領の中心都市コリンダークの街に着くはずだ。


「この大陸は広いなぁ・・・・」

前方は見渡す限り背丈の低い草がまばらに生えた草原だ。俺は呟く。

すでに周りには西日が差しかかり、まばらに生えた草は黄色く輝いてそよそよと風に揺れている。俺はタバコを吹かしながら馬車の運転席でぼんやり手綱を握っていた。


隣に座るメイベルは俺を見上げて言った。

「そういえば昔ケンスケがいた所はどういう所なの?」


「ん?」

俺はメイベルを見た。メイベルは綺麗な藍色の眼をしている。

じっと見つめたらメイベルは慌てて下を向いた。


「俺のいた所は小さな島国だよ。だからこんな景色は中々見れなかったんだ」

すると貨車の中にいたグレースは俺の話に興味を持ったのか後ろホロから顔を出した。


「ふーん」


俺は大きく伸びをして後ろにいるグレースに言った。

「おーいグレース、そろそろ休憩にしようか。夕暮れまで少し時間はあるけど、コリンダークまではまだかかりそうだ。今日は少し早いけどあの丘の上でキャンプでも張ろう。」


「そうだな。明日朝ここら辺から出発すればその日のうちに街に着くから今日はこの辺で野営するのもいいかもな」

グレースも賛成のようだ。


俺達は街道の端から少し丘へ登った所へ馬車を止め、野営の準備を始めた。

俺はテントを張り、グレースとメイベルは焚火の準備をした。

しだいに薄暗くなって来た頃。


「・・・・・ケンスケ、何だあれ。向こうから何か来るぞ」


街道の方から馬に乗った一団が砂煙を上げてこちらへ向かってくる

俺達は急いで馬車に戻り武器の確認をする。


「・・・ん??」


その一団は俺達の近くまで来ると全員馬を降りた。俺達の馬車を見ている。

見たところ全員が甲冑とマントといった姿。賊という訳では無さそうだ。


「・・・領主軍の騎士団かな?」

グレースはそう呟いて俺を見た。俺達は首を傾げながら様子を見ていた。


しばらくして、向こう一団から二人の人物がやって来た。

薄暗くてよく分からないが一人は中年の男性。もう一人は鉄仮面を被った人物だった。


中年の男性は俺達に向かって言った。

「すまない、そこの御仁、我々はラッセル伯爵領の騎士団、私はロベルトという者だ。あなた方はラサンの英雄、ケンスケ=マルボル殿と御一行の方とお見受けする」


ロベルトは俺達の前で地に片膝を着いて挨拶をしてきた。


(どういう事だ?・・・?? 騎士ともあろう人が突然なぜ俺に?)


「・・・・・はい。俺に一体なんの用ですか?」


すると突然、ロベルトの隣にいる鉄仮面の被った人物がその仮面を脱いだ。

綺麗な金色の長い髪がふわりと仮面から零れ出た。

辺りが薄暗くてよく見えないが若い女性のよう・・・。


「ケンスケ様ぁ―!!!!」


(誰だぁ!?)


ガバッ!


(!!??)


ぎゅーーーーーーーっ!!


「えッ!? えええええっ!!!!???」



俺はいきなりその女性に抱きつかれた。

しばらく固まっていると・・・


ゴチン!ゴチン!

「痛! 痛!」


背後から俺に二発の石弾が俺の頭にぶち当たった。


「・・・・・・」

背後をゆっくり振り返るとメイベルとグレースが冷ややかな目で俺を見ていた・・・・・。


「・・・・・・汗」


(怖い・・・・・。つか誤解です。知らない人なのです・・・)




読んで頂き誠に有難う御座います

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