第44話.拠点へ
誤字・脱字はご容赦下さい
●44.拠点へ
鉱山の人質事件が終わり、二週間が過ぎていた。
俺はラサンの鍛冶工房で王都への旅路の支度を進めている。
工房にはメイベルとグレースもいて、俺の作業を手伝っていた。
銃の弾、手榴弾も増産した。試作になるが新しい武器の設計もしている。
それと旅の支度として小さなホロ付きの馬車も買った。
「みんな、少し話があるんだ・・・・」
俺は会社に今回の件をメールで詳しく報告した。
内容はかつてこの世界の管理していた人物らしき人の子孫が魔導機関をいう物を発明した事。そしてその発明を奪った者がおり、それがこの世界に大きな災いを引き起こす可能性があるという事だった。
すると昨日、社長から俺にメールが届いた。
内容はあくまで俺に無理はしないようにとの指示の上で、出来ればその管理者の子孫に当たるメイベルと今度旅に同行するグレースを一度ホーストの拠点まで連れて来てほしいと連絡があったのだ。
「どうした?」
「どうしたの?」
二人は顔を向けた。
「ホーストの力の件についてだ。俺はみんなに話していない秘密がある。」
そう言って俺は続けた。
「ホーストはかつて古代の神メルシオールに力と知識を貰った者だとレオナルドは言っていた。・・・・・エドリックが言っていたように俺もその力を貰った者であったのなら皆はどう思う?」
「!? どういう事だ!?」
グレースは慌てて聞き返した。
「信じられないとは思うだろうが、実は俺、この世界で生まれた人間じゃないんだ。とある人物から仕事を受けてこの世界に来た。おそらくホーストという人物も過去に俺と同じように別の世界からこの世界へやって来た人物だったんじゃないかと思う。そして仕事を終えこの世界に移り住んだ移民。そして俺はメイベルがその人物の子孫なのかもしれないと思ってるんだよ。だから今から行く所に付いて来てほしい。その場所の名前も実はホーストという。・・・・・・そして俺はそこから来た。」
「え!!!」
「ケンスケ・・・私、何を言っているのかがいまいち・・・・・」
二人とも俺の言っている事に驚愕していた。
「・・・そのホーストという場所にいけば多分、今俺が話している事が分かると思う。それにとある人物が君達と会いたがっている。」
俺はこの二人に俺がこの世界に来てから今までの経緯の全てを話す事にした。
二人は信じられないといった表情をしていたがホーストの拠点で行く事について静かに了解してくれたのだった。
翌日、俺はメイベルとグレースを連れ拠点へ戻った。
小川を遡り、目印の沢から森の中をしばらく進んだ。
・・・うーん、相変わらず遠い。
「ようやく着いたぞ。あの先に見えるログハウスだ」
懐かしのログハウス。実に二ヶ月ぶりだな。
せっかく戻ったから土日は日本にも戻って美味しい定食が食べたいなぁ・・・・。
そんな事を思いながら敷地の柵に馬を繋ぐ。
「おーい」
ぎいとログハウスの扉が開き、江楠社長がひょっこり顔を出した。
「お疲れさま、鈴木くん。すまないねー。わざわざ戻って来てもらって」
「あ、お疲れ様です。お久しぶりですねー社長」
社長はこの世界の衣装に合わせてなのか白いローブを着ていた。
なぜかローブはぴかぴか光っている。
あとは教会の石像とほぼおんなじ。ちょび髭はないけど。
「鈴木君、落ち着いたらみんなでお茶でも飲みながら話そうか」
社長はそう言うとログハウスに戻って行った。
俺は馬から荷物を降ろしてログハウスへ入ろうとする。
ふと横を見るとグレースとメイベルがガチガチと震えていた。
「・・・・・あれ・・・・あれ・・・」
「?」
「あの老人・・・・まさか・・・・」
「・・・・・・・・」
俺は横で震えている二人に言った。
「ああ。この世界だと神様でメルシオールって言われている人かな」
「!!!!」
メイベルとグレースは石像のように固まってしまった。
ずずず・・・・
俺達はログハウスの中、社長と俺、メイベルとグレースの四人でテーブルを囲んでいる。
ログハウスの中にはいつもの恰好をした吉村さんもいて、俺達4人に紅茶を出してくれた。
俺は紅茶をすすった。
メイベルとグレースはそのまま固まったままだった。
俺はメイベルとグレースを社長に紹介した。
やはり二人はカチカチのまま・・・
江楠社長はにっこり笑って二人に話しかけた。
「初めまして・・・じゃな。わざわざ遠い所から来て貰って有難う。儂は江楠という老人だよ。今日は君達と少し話がしたくてね。あー、吉村さーん。なにか出してあげてー。」
「はーい」
吉村さんはお茶請けに一口シュークリームとチョコレートのお菓子を出してくれた。冷蔵庫に入れてあったようで冷たく冷えてとっても美味しそうだった。
グレースは恐る恐る聞いた。
「あの・・・あなた様は神メルシオール様で御座いますか?」
メイベルもまずはそれを聞きたかったようで固まってコクコク頷いている。
「はっはっは。グレースさんや、そんな堅苦しくならんでいいんじゃよ。確かに此処で儂はそんな風に呼ばれとるがのぉー。ささ、お茶でもしながら話でもしましょう」
グレースはしばらく固まっていた。
その後、恐る恐る目の前の一口サイズのシュークリームをつまんで暫く眺めた後、ゆっくりと口に入れた。
ビクッ!!!!!!
彼女は突然、揺れたと思うと目を見開いてぷるぷると震えだした。
やがてその目を閉じて恍惚の表情となった。うっすら涙を流している。
「・・・メルシオール様・・・・・美味しいです・・・。」
メイベルはビックリしながらグレースの様子を見ていた。
そして彼女も恐る恐るそれを口に入れた
ビクッ!!!!!!
彼女もまた同じく激しく揺れて目を大きく見開いてぷるぷると震え出し、その目を閉じて恍惚の表情となった。やはりグレースと同じようにうっすら涙を流していた。
「ああ・・メルシオール様・・・・・とっても美味しいです・・・。」
「わははは、遠慮せず摘まんでくだされ。これはシュークリームと言ってな。ここの世界には無い珍しいお菓子じゃよ。鈴木君・・・いや、ケンスケ君なら作り方くらいは知ってるから、時間があれば今度作ってもらうとええ。」
「え!? ほ・・・本当でございますか!!!?」
二人は社長を見た後、すぐに俺の方へ振り向く。
「・・・・・・」
俺はぽりぽり頭を掻いて今度二人に作ってあげる事を約束した。
そのあとグレースとメイベルは目を蘭々とさせて江楠社長にお菓子について聞いていた。
お菓子をつまみながら彼女たちと社長のお菓子についての熱いお話が続く・・・・・。
うーん、この世界の人達には甘味の刺激はちょっと強烈すぎるかもしれないなぁ・・・
「それはそうと社長、自分や彼女達にお話というのは何でしょうか?」
俺は場が打ち解けてきたのを見計らって江楠社長に話を振った。
社長は静かに俺達の前で話し出した。
「そうだったの。この前報告してもらった魔導機関というモノの事についてなんだがの。
その魔導機関というのはここのホーストの拠点でやっているような大気中の魔力や魔素をエネルギーに変換するシステムだと儂は思うんじゃよ。
これは正しい使い方をすれば人類にとって魔力を利用した素晴らしい財産となるはずなんじゃ。きっとメイベルさんの一族はそういう研究を長年していたんだろうと儂は思っとる。しかしその反面、この魔導機関というのは取り扱いがとっても難しいのじゃ。」
そう言って社長は俺に尋ねるように聞いた。
「魔導機関とは魔力をエネルギーに機械的に変換する為に複数の魔法陣を構造の中に組み、それを他の魔法陣を組んだ部品へと複雑に連動させておる。ケンスケ君、結果、その魔導機関は破壊されるとどうなった?」
社長は俺を見た。
「大爆発を引き起こしました」
俺は静かにそう答えた。
「そうじゃ。魔力は暴走して行き場を無くし、蓄積したエネルギーはやがて暴発する。
そして暴発して不安定な変換をしてしまった魔素はもう自然へ還ることが出来ない。結局、魔力溜りとして暫くその場に漂うように残ってしまうんじゃ。そしてそれは量によってとても生物に有害な物質となってしまうんじゃ・・・」
「え!? 有害というのは?」
俺はびっくりして社長に尋ねる。
「・・・魔力溜りが出来た後、ずっとそのままにしておくとそこに長く住む生物の遺伝子の形状を変え、生き物が魔物となってしまう恐れがある。だから今回君たちを呼んだのはその魔導機関を戦争なんかの軍事兵器として利用させてはならないという事じゃ。だから君が王都へ向かった際、すまないがその黒幕とやらが狙っている研究の内容についても詳しく調査しておいてほしいんじゃよ。」
社長はそう言って俺達を見た。
俺は了解し、疑問に思った事も聞く。
「わかりました社長・・・・それとその魔力溜りについてですが除去する事なんかは出来ないのでしょうか?」
社長は腕を組んでうーんと唸った後、
「出来なくは無いのじゃがそれはとても大変な作業になるだろうね・・・。
今のとこ出来る事っていったら、その不安定な魔素を一つ一つ回収して密封し、廃棄するという手段になってしまうだろうからね。」
そう言って江楠社長はテーブルの上にアナログのストップウォッチのような物を10個ほど置いた
「・・・これは?」
俺は社長に聞いた。
「これは魔力溜りを除去する器械だよ。これは先日、儂が徹夜して作ったんじゃわ。これをいくつか持って行ってくれ。」
俺はその器械を手に取って暫く見つめた。
小さなボタンと時計のような目盛りが付いている。
「魔力溜りを見つけたら、そのボタンを押すんじゃよ。それが魔力溜りの魔素を吸収したら目盛りが少しずつ上がっていく。でも目盛りを振り切ったらそれ以上の魔素の吸収が出来なくなるからここか会社に必ず持って帰って来てくれ。それは儂が廃棄するから」
そういって社長はその使い方を俺達に教えてくれた。
「わかりました。有難うございます。大切に使わせて頂きます」
俺達は社長にお礼を言った。
それからしばらくして江楠社長はメイベルを見て目を細めてニッコリと微笑んだ。
「・・・・懐かしいの。キミが昔この世界で働いてくれたケイオス君の子孫か。
幼いが目元がなんとなく彼に似ている。その綺麗な銀色の髪は彼の血筋なんだろうね」
「メルシオール様はやっぱり私の先祖の事を知っているのですね!?」
メイベルはビックリしながら社長に聞いた。
「ああ。知っているよ。彼はこの世界の為によく尽くしてくれた。
そして私が作ったこの世界を彼はとても愛してくれていた・・・・。」
遠い目をしながら社長はメイベルに言った。
「やはり異世界管理者だったんですね・・・・」
俺は呟いた
社長は遠い目をしながら淡々と俺達に話してくれた。
「そうじゃよ。以前、ケイオス君が住んでいた世界はかつて儂の作った世界の中で一番文明の進んでいる世界だった。残念ながらその世界は100年程前になるが魔導機関を使った大きな戦争が起きて滅んでしまった・・・。儂は彼の住む世界が滅びる前、儂は彼を雇い、ここの世界を見てもらう為に連れてきたんじゃ。それはもう150年以上も前の話になるのだがね・・・・」
「ではその魔導機関というのは・・・・」
「・・・そう。その世界にも魔法が存在していたんだよ。そこの世界は日常的に魔導機関を使い、魔力をエネルギーに利用した素晴らしい文明を築いていたんじゃ。人類は長く繁栄したよ。しかしその世界の人類は長い営みの中、その魔導機関で生まれる膨大なエネルギーの使い方を間違った。その結果、戦争なんぞにそれを使ってしまって自ら滅んでしまった。儂はその時、世界が滅ばぬように色々と手を尽くしたのだが残念ながら間に合わなかったんだよ。」
社長は俯いて淡々と俺達に話してくれた。
「あとグレースさん、この度は色々と世話になるのう。これからは宜しく頼む」
社長はグレースにぺこりとお礼した
「!!!! いえいえいえいえいえ・・・・滅相もございません!!」
グレースは慌てて首をブンブン横に振った。かなり焦っている。
確かに俺も神様という存在からいきなりぺこりと頭を下げられたらそうなってしまうわな・・・・笑
社長はにっこり微笑みグレースさんに尋ねた。
「ところで、貴女は魔法の適性が無いので今魔法が使えないとお見受けする。
貴女は魔法が使えるようになれたらいいとは思わんかね?」
「えッ!?えっ!? 私にも魔法が使えるようになれるのですか!?」
グレースはビックリしている。
この世界では魔法の適性が無いと使う事が出来ない。
魔法が使えるのは魔法の適性のある一部の人間しかダメだった筈だ。
社長はグレースに微笑んだ後、話し出した。
「・・・ああ。なれるよ。魔力の元となるマナは大気中に沢山存在している。誰もが体内にマナは取り込んでいるんだからね。そもそも魔法というのは結局それを体内でエネルギーに変換させて属性として放出しているだけなんだからの。
そして適性というのはそのマナをどの属性へ変換するかといった様なまぁちょっとした体質みたいなもの。今グレースさんは魔力は取り込んでも、属性へは変換できずにそのまま放出しているだけといった状態なんじゃよ。だからの、貴女の体質を変えれば少しずつじゃが魔法は使えるようになるよ」
「そ、それは、どうやって体質を変えるのでしょうか」
グレースはビックリしながら社長に聞いた。
「まぁこれを見て下さらんか。」
社長は一冊のカタログのようなものを取り出した。
「グレースさん、これはお礼といってはなんじゃが、儂から貴女へこの中から好きな物をプレゼントしようかと思う。」
俺達も横からその雑誌を見た。
「えええええッ!!!!?」
俺はビックリして社長を見た。
スポーツ選手とかがよく身につけているあの磁気ネックレスのカタログだった。
日本語で肩こりに効くとか特価とか色々デカデカと書いてあり、そしてそのページには二万円前後の製品が並んでいた。
「いやぁーこれ、違う違う。いわゆるこれから作るモノのデザインだよ。作るのは別物だから安心してくれ。やっぱ見た目が今風でカッコいい方がいいじゃんか。」
「はい・・・確かに・・・・そうですよね・・。」
妙に納得してしまう俺。
「とりあえずグレースさんは何の属性を覚えたいんじゃ?覚えられる属性はとりあえず一つだけだが」
社長はグレースに聞いた。
「メルシオール様、それでは無属性をお願い出来ますか?剣士ですのでそれが一番かと思います」
「んー了解。それじゃあデザインはこの雑誌を見て選んでおくれ。まぁ出来上がるまでには一週間ほど頂くとしよう。それでこれを身に付けていたら少しづつ魔法の適性のある体質に体が変わっていくと思う。半月くらいずっと付けていれば少しずつその魔法が使える体質になるじゃろうな。それからは頑張って自分の力で鍛錬していく事にはなるがの。まぁそれまではここでゆっくりと旅の準備でもするとええ。」
そういって
「ケンスケ君、それじゃ後はお任せするよ。せっかくここに戻った事だし。ゆっくり準備をして、休んでから行きなさい。ははは・・・」
そう言いながら社長はログハウスから去って行った。
こうして俺はここでしばらくの準備期間を貰った。
ひゃっほう!!
読んで頂き誠に有難うございます。




