リアルとゲーム選ぶなら・・・
この技はスピード型を極める為に考案した技で、実際この技を試せる出来るゲームなんてのも無かったから机上の空論とも呼べる産物だ。
実際に実現出来てしまったらバランス崩壊待ったなしだし、この技を使うプレイヤーだらけになれば面白みなんてのも無くなる。
中身が着いてこれないのならシステムに任せれば良い。
回避も攻撃も移動も全部システムに任せたプレイヤースキルもへったくれも無い技だが、この技を身に着けるに至るまでにそれなりの代償もあるだろうし、制約なんてのもあるだろう。
恐らく、この状態を維持しているだけでもダメージを負ったり、なんらかのペナルティーが待ち受けているはずだ。
そうでなければ対人戦においてのバランスが取れないからな。
このゲームの運営ならそれもありうるかもしれないが、こんな序盤でこれを容認するくらいだから制限はかけていると思う。
思った以上にダメージが低いのもそのせいか。
チート性能に見えるが実際に使われるとあまり使えない技だ。
攪乱したり、見せスキルとしてはいい技なんだろうけど、何といっても使っている方も使われている方も面白く無いのが一番のデメリットだな。
こいつもこれが奥の手と言うわけでもないだろうけど……
なら時間稼ぎか。
起死回生の一撃必殺……
いや、戦って見た感じアサシンって感じはしない。
むしろ、戦闘に特化したタイプですらない気がする。
それならシーフ系……
序盤で俺を倒しきる程のアイテムなんてのも無いだろうしな。
【悪代官バウンド】のクールタイムも消化して再使用可能になり、次に攻撃された瞬間ノックバックして露になったプレイヤーの姿がはっきりと目に映る。
まさかの無策?
遊んでいただけか?
俺が銃を構えると、プレイヤーは大きな声で「参った!」と叫び、そのまま綺麗に土下座する。
土下座か……
負けを確信したのならそのまま倒されればいいものを、態々土下座しやがったな。
昔ネタで話した記憶が蘇る。
基本的に俺はプレイヤーに倒されるのが嫌だから、もし絶望的になったら土下座してでも生き残ってやると呟いた事があった。
実際そんな事はしないが、その言葉の後に乗って来た奴が「エターナル土下座カウンター」と呟いた後、他の奴がそれに付け加え「自分も死んでしまうが相手も死ぬ」とか言って笑ってたな……
俺は引き金から指を外し、「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」と言って今更だがNPCのふりをする。
プレイヤーだとばれていると思うが、こうする他無い。
俺はこいつとはあまり関わりたく無いのだ。
顔を上げたプレイヤーは嬉しそうな表情を浮かべて近づいて来る。
「やっと見つけたっすー♪
やっぱりこの街に居たんですね、伐折羅様!」
「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」
伐折羅ってのは昔俺がやっていたゲーム内でのプレイヤー名。
そして、伐折羅様って呼ぶのはその当時一緒にプレイしていた……っと言うか付きまとって来ていた奴で、新しくどんなゲームを始めても俺にくっついてきて猛烈にアタックしてくる厄介な奴だ。
「なんでいつも一人で先にゲーム始めてんすか?
いつもボクも一緒に連れてってって頼んでるのに!」
「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」
俺はもうこのセリフしか言わん!
NPCで着き通してやる。
「あっそう言うつもりっすか?
膝の上に座っちゃうっすよ?」
「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」
くそっ本当にこいつ座って来やがった!
女性アバターでそんな事すんなよな……男のくせに。
「こうしてると、なんだが……幸せっすね?」
「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」
「ボクの気持ちしってるっすよね?
いつ振り向いてくれるんすか?」
「ふん! 戯け者めが、身の程を知ったのなら帰るがよい!」
「愛してるって千回ささやいたら……振り向いてくれる?」
「耳元で気持ち悪い事いってんじゃねええ!」
「やっぱり伐折羅様じゃないっすか!」
「俺に付きまとうなって言っただろ!」
「シャトゥザハー! エニョーンテューンブレーイ♪ ベイビ、ユギブラァブ♪ アッベイノアイ♪」
「何歌ってんだよ、あとベイビのとこダーリンな。
まあいいや、何しに来たんだよ」
「また一緒にゲームしましょう!」
「はぁ……
まあ、丁度良かったか……
とりあえず一緒にやるにしても、現実の俺の安否確認が先だ。
実はゲーム初めてからログアウト出来なくて困ってんだよ。
システム関係もなんかおかしくてな、運営に連絡して貰えるか?」
「ああ、とりあえず安否確認急いだ方がいいっすよね?
伐折羅様の部屋に行って確認してくるっす」
「はぁ?
お前俺が何処に住んでるのか知らねえだろ?」
「ん?
隣の部屋に住んでるっすよ?
あっそうそう、このゲーム内だと雪之丞って名前なんで宜しくっす!」
「待てまて、鍵もってねえだろって突っ込むべきか、冗談はやめろって突っ込むか迷うわ!」
「はぁ?
何度もあっちで会ってるじゃないっすか!
挨拶くらいしかしてないっすけど、鍵なら大家さんにしれっと借りて作ってありますし、暗証番号もチラ見して完璧っす!」
「本当の事だとしたら犯罪だろ……
それに、隣に住んでんのは女の子だぞ」
「ボクじゃないっすか!」
「お前が女?
なんでボクって言ってんだよ」
「ゲームしたいのに言い寄ってくる男が居たから口調も一人称も変えたんすよ!」
「お前俺に言い寄って来てんじゃねえか!」
「可愛いでしょ!
とりあえず、安否確認してくるっす」
「おい待てよ!
くそっ行っちまったか」
それにしても、怖え……
あいつの事突き放したりしたら、いつでも殺されるって考えるとやばいな。
まあ嘘だろうけど、うわっ戻ってくるの早えな。
「伐折羅様の部屋……誰も居なかったっす。
もぬけの殻でした」
「そうか、とりあえず運営に報告してくれ」
「報告はしときますが……
深刻の事態なんすよ!
荷物も無かったんですから!」
「分かったわかった。
そんな事より報告を先に済ましてくれ、このままだと餓死しちまう」
「あーその感じ信じてないっすね?
卵の形をした目覚まし時計に、中の綿が固まってデコボコの抱き枕も無いんすよ?
いつも端っこで寝ているからそこだけ凹んでいるベッドも無いし、冷蔵庫で保管している栄養食も無いんすよ?」
「……なんでその事を、まさか本当に」
「本当に決まってんじゃないっすか!
たまに部屋の中入ってましたよ!
ここの運営は信用出来ないっす!
まず警察に相談しましょう!」
「んー……
いや、このままでいい」
「んな!
なんでそんなまんざらでも無いみたいな顔を……」
「俺が居ないって事は、もうリアルの世界の心配しなくて良いって事だろ?
ずっとゲームし続けたい俺にとっちゃ、願ったり叶ったりだ」
「うん、一理ある!
とりあえず伐折羅様と一緒にプレイしたいし、ギルドに入れて下さいよ」
「ギルド?
俺ギルドなんて立ち上げてないし、普通のプレイヤーとは違うから出来るか分からねえな……
ああ、ギルドじゃねえけど、勧誘は出来るみたいだな」
「おっキタっす!
んー……あっちょっと待っててくださいね。
伐折羅様ずっとここにいるんすよね?
夕方まで待てるっすか?」
「多分ここに居るし別に良いけど、なんかすんのか?」
「ちょっと野暮用が出来たっす!
それじゃあ、またあとで!」
忙しい奴だな。
それにしても今日一日で結構稼げたな。
プレイヤーもこの街付近まで来ている奴も増えたし、関税取って正解だったな。
あいつを待っている間、色々とグレードアップさせておくか。