人の道を捨て、鬼の道へ
《警告。 依頼を受けたプレイヤーが接近しています。 気を付けて下さい》
さて、どんな奴等が来るか分からんが悪代官らしく部屋で待ってるとしよう。
後ろに隠れた用心棒、隣の部屋やら天井には忍者が隠れている。
ここに来るまでには罠が沢山あるし、忍者も戦ってくれるはずだ。
一色重盛にはいまいちだったが、普通のプレイヤーならここに来るまでにはボロボロになっているかもしれないな。
ん?
クエストが終わったんだが?
忍者が俺の所へ来て報告してくれる。
なになに、罠が多すぎて身動きが取れず、忍者達でいっその事助けようとしたら魂が抜けたように倒れて消えた?
なに回線切りしてんだよ!
PKプレイヤーとかじゃなくて、こういうのが本当の害悪プレイヤーって言うんだよな。
まあ、このゲームデスペナルティ―結構きついから分からなくも無いが。
一応通報しとくか。
……はい。
運営に連絡出来ませんでした!
どうせ運営は俺の事見ているんだろうし、害悪プレイヤーの事は任せるか。
仕事もしたし腹が減った!
まだ昼飯も食ってねえし、もう夕方じゃねえか!
パンパンと女中をいつものごとく呼び出し、今日は沢山食べたいとお願いした。
相も変わらず、すぐに食事は持ってきてくれる。
こうゆう所はゲームなんだよな。
うおお!
船盛だ!
色々な魚介類を和船を模った器にして、盛り付けてくれるやつ!
初めてみたな。
鯛の頭ってどうやって食べるんだ?
いざ出されると困るなこれ。
後は、しゃぶしゃぶもあるのか。
本当にいっぱい持って来たな……
ご飯迄山盛りなんだが、この体なら食えるか!
どうやって食べるのかは分からなかったが、女中が全部やってくれるので俺は口の中へ箸で放り込むだけ。
もしかして俺が口を開けて待っていたら、放り込んでくれるんじゃないのか?
試しにあーんと口を開けて女中の方を見る。
おお、普通に口の中へと持ってきてくれる……
よし、クラスアップだ!
上級女中へとクラスアップして何故か若返って綺麗になったな……
てっきりもう少し年が増すものとばかり思っていたが、どういう事だ?
女中には母性を求めていたんだが、まあいいか。
これはこれでありだ。
口を開けて料理を運んで貰うと、優しく微笑みかけてくれる。
俺の事をなんでも受け止めてくれそうで、なんだか安心するなぁ。
しかし俺は悪代官。
ずっと女中としてここに居てくれているし、色々と分かっているはず。
リアルでこんな奴いたら俺なら胸糞悪いと思うし、身内に居ても良い気分にはならないな。
嫌な素振りでも見せてくれたら良い奴なんだろうなって思えるけど、俺の事全肯定している感じが怖い。
もしかして物凄く腹黒いとか、悪女って奴なのか?
怖いけど聞いて見るか。
「お主、儂の事をどう思っておる?」
「お慕いしております」
え?
告白?
娶ればいいの?
って違うだろ!
この場合の慕うってのは社交辞令的な奴だな。
俺に仕えている身分だからそういうしかないのだ。
「世辞はよい。
儂が悪事に手を染めていると言う事は知っておるのだろう?
嫌な奴だとは思わぬのか?」
「滅相も御座いません。
私は心より貴方様を、お慕いしております」
まあ、こう答えるしかないよな。
俺は「わかった。 もうよい」と伝え、女中を下がらせると、「一つ宜しいでしょうか?」と聞かれたので「どうした? 言ってみよ」と返した。
「私の様な名も無きNPCをずっとお傍に置いて下さり、感謝こそあれ、不敬の念を抱く事などありえません」
「待て、お主……
NPCだと言う自覚があるのか?」
「はい、貴方様や西治一派の方々が時折口にする言葉が私の様な名の無き者の事を指す言葉なのだと。
人で在って人に在らず、私と西治一派の方々にはそう言った違いがあるのだと言う事も理解しております」
どういう事だ?
単純に考えればNPCには人工知能があり、俺達の会話なんかから学んだって事か。
それに、この言い方だと幼少期などの記憶なんかはないんだろうな。
いつから自我に芽生えたのか気になる所だが、真相など知ったこっちゃない。
俺はゲームを楽しむだけだ。
「賢い奴だ、だから何なのだと言うのだ?」
「はい、お尋ね頂いた質問への返事をしたく存じます」
「申せ」
「例えどの様な悪事をこの目に移そうとも、私の在るべき場所はここを置いて他にありません。
それに、いつも美味しそうに食事をされる貴方様を見るのが何よりの幸せに御座います。
私にこれ程の幸福を与えてくれる御方が他の何処にいましょう。
貴方様の居ない場所に、私の居場所など御座いません。
それ故、差し出がましくも三度に渡りお伝え致します。
お慕いしております」
「分かった。
下がれ」
やりずらいな。
人工知能とは言え、NPCに好意を向けられた事実が出来てしまった。
その事実を体験した俺は、これから人の道を外してしまうぞ?
俺はゲームを楽しみたい。
そしてこれからはもうゲームでは無くなってしまいそうだ。
どうすればいい?
出来の良いゲームだと割り切れるか?
いや、出来ねえ。
出来ねえよな?
そうだ、俺は普通の人間なのだからそんな事は出来ない。
だから、俺は人間を捨てNPCになろう。
俺はただの悪代官だ。
金が好きなだけの汚い人間だ。
欲に溺れ欲に従い、欲に生き、欲によって身を亡ぼす……
それでこそ悪代官であり、俺――いや、儂自身なのだ。
だが……だからこそ……
俺はおれで在り続ける。
西治真下、そして悪代官である西治真下草子は、欲望の限りを尽くし、この世界に生き続けよう。
悪代官らしくどんな手を使ってでも。
廊下をトコトコと走る音が聞こえる。
良いタイミングだ。
「御屋形様、雪之丞只今戻りました」
「うむ、ご苦労であった。
事は上手く運べたか?」
「こちらをご覧ください」
雪之丞が襖を開けると、さっきまで居なかったのに美しい女性と二人の子供の姿がそこにあった。
「良い仕事だ、後で褒美をやろう。
下がれ」
さて、俺の悪代官魂を見せる時だな。
パンパンと手を叩き、忍者を呼び寄せる。
「御屋形様、御前に」
「うむ、そこで見ておれ」
俺は雪之丞が連れて来た女と二人の子供をじっくりと眺める。
女は美人だがそれ程これといった特徴は無し。
子供二人もこれと言って特徴は……
いや、見つけたぞ。
子供の一人は腕に痣がある。
俺は合図を出し、忍者から小刀を受け取った。
「何を……なさる御つもりでしょうか?」
「何をするつもりに見える?」
「わ……私には何をして頂いても構いません。
ですが、この子達だけには……ご容赦を……」
「震えておるぞ?
怖いのだろう?
ならば止めるな、苦しまなくて済むぞ」
「ご容赦を……お願い致します……」
俺は斬った。
体を震わせ、啜り泣く女の声は、その場から去った後慟哭となり、夜露の中へと溶け込んでいった。




