5.再始動
またもや目の前が青い風景に包まれる。
もし、最悪の場合でも大丈夫なように心の準備はしておこう。
さて、俺の体よ!動け!ない...か。しかも頭に銃口もセットとは。好待遇ですね誘拐犯さん。
絶望的だが、まあいい。こんな時こそ自分に喝を入れる。武者震いというやつだ。
「じゃあ、死ね!」
彼のその言葉を皮切りに行動を開始する。今まで前傾姿勢にして前側に置いておいた重心を反動をつけて一瞬で後ろに倒すと椅子がそのまま倒れた。すると、全身に力が入ったのと同時に縄が千切れた。
何が起こってるんだ、まあいい。すぐに誘拐犯の銃を弾き飛ばし、腹に拳を入れ、相手に馬乗りになる。そのまま殴り続け、相手が気絶したのを確認すると、スクリーンが現れた。
[異世界のステータスは、微弱ながら現実の身体能力として影響します]
そうなのか!それは便利だ。ともかく、ここから逃げなければ。出口と思われる扉を開けると直射日光が入り込んだ。太陽の位置的に午後3時頃か。俺こんなに寝ていたのか?最近寝不足だったからか。
目の前に港が広がる。どこか既視感があるなと思い、記憶を辿ると幼い頃親の友人に会いにここに来たことを思い出した。俺の住んでいる家から30kmぐらいの鴎町という港町である。
はて、困ったものだ。あいにくこの近くはバスも電車もあまり通っていない。その上、お金もない。もう一度倉庫の中に戻り、犯人の持ち物を漁ると、俺の携帯を持っていた。これで身代金を要求するつもりだったのか?
「よし、これで帰れる!」
あいにく俺は携帯で、電子決済するタイプではないので、悠に電話をかけるぐらいしかできない。だが、それで十分だ。
「もしもし」
「お前、拓か!?今までどこ行ってたんだよ!心配したんだぞ!」
「ごめんごめん。ちょっと色々あってな」
誘拐の事は話すとややこしくなるので隠しておこう。それにしても、俺のことそんなに心配してくれていたなんて。やはり持つべきものは友だな。
「色々じゃ済まないだろ!お前、昨日早く帰って、もしかして金が無くなって怪しいバイトでもしてるんじゃないんだろうな!」
「そういう事はやってねえよ。まあ、個人的に色々あったんだ。」
「まあ、話したくないなら話さなくてもいいが。なんか困ってるなら言ってくれよ、親友なんだから。」
「ならお言葉に甘えて、俺今『鴎町』っていう港町にいてな。何も持ってないんだ。それで、お前確かちょっと前にバイクの免許とったって言ってたよな?俺を迎えに来てくれないか?必ずこの恩はかえすから。」
「お前、そういうとこあるよな。本当に何があったんだ?まあ分かった。今日は暇だし、俺が言ったことだ。。ちょっと待ってろ。すぐ行ってやる。」
よし、これで家に帰れるな。初めての体験だったからか、少し疲れが溜まってるな。今日もバイトは休みだから帰って早く寝よう。さて、担任にはなんて言い訳しようか...
それにしても悠には感謝しても仕切れないな。
「それにしても、つっかれたなぁ、」
「悠、ここだー」
大きく腕を振る。
悠が来たのは4時頃だった。相当急いで来てくれたんだろう。本当に感謝しかない。
「悠、本当にありがとう」
「まあ、それはいいんだ。というか、そんな格好で、本当に何があったんだ?」
「どうせ信じてはくれねえよ。」
「あ?なんて?」
「なんでもない」
「本当に心配したんだからな。」
「だからそれは本当にごめんって。周りにはなんて?」
「宏太たちには『拓は無事らしい、明日には会える』とだけ。大野には何も。」
宏太は俺の友人だ。
「そうか。なんだが、色々ありがとうな」
「まあ、この貸しは必ず返してもらうからな、んで、どこまで行けばいい?」
「そうだな、悠の家と俺の家は少し離れてるからな、」
「だったら、ここから一番近くて、お前の家の最寄駅と同じ電車の駅、でどうだ?」
「ごめん、俺今金ないんだよ、」
「しょうがないな、貸してやるよ。」
「まじか!ありがとう」
「利子1000%だからな。」
「了解です。」
「冗談だよ、じゃあ、行こうか!」
「おう!」
「よし、乗ってけ。全速力で飛ばすぞ!」
「よし、着いた。」
「今日は本当にありがとうな」
「まあ、詳しく説明できるようになったらその時聞かせてくれ」
「わかったよ。じゃあな!」
「じゃあな!」
帰ってきた時にはもう夕方になっていた。
自分の部屋に入るとまず視界に飛び込んだのは札束であった。そうだった。報酬があったんだ。まあこれは後で考えよう。今日は本当に疲れた。腹も減ってるがまず眠いな。今日はやはり早く寝よう。
「ふぁ〜、」
またもやよく寝たな。最近夜勤が多くてあまり寝れていなかったからか。
「さて、これをどう使うか、」
そう言ったところでスクリーンが現れた。
[手持ちの現金は転移時、アルト王国の通貨に変換することができます]
なるほど、確かに異世界にいるということは装備が必要か。
実は俺が騎士団に連行される道中で、様々な店を見た。自動翻訳のお陰で何がどの店というのはなんとなくわかる。その中には洋服や鎧、剣や盾や薬など、様々なものが売られていた。まだ王国の物価を調べた訳ではないが、この高額報酬は、もしかしたら王国の物価がすごく高いということではないか?だとしたら俺が現世で使えるお金って...
「まじかよぉ〜」
まあ、服も制服だったしな、あれじゃあちょっと人と会うには少し恥ずかしいか。
-ヴゥ、ヴゥ-
スマホからだ。
『7:00』
あぁ、そろそろ学校に行く時間か。飯は...コンビニでおにぎりでも買うか、
「おはよう」
「拓!あぁ、おはよう、お前昨日はどうしたんだ?」
「色々あったんだ。私情だから詳しくは話せない。」
「あぁ、そうなんだ。とりあえず無事で良かった。」
この後こんな様な会話を10回ほど繰り返した。
-ガラガラガラ-
大野が入って来た。
「欠席者は誰だ?」
「拓は、い〜ます。」
「あれ?拓きてんの?」
「拓、お前昨日はどこに行ってたんだ?サボりか?そういうのは成績に影響するぞ。」
「すいません。昨日急遽予定が入りまして。そのまま連絡を忘れてしまい...」
「はぁ、言い訳になってねえから次からはやめろよ」
「言い訳じゃないけどな」
「何か言ったか?」
「いえ。何も」
大野とはこんな会話で終わった。今日はすこぶる機嫌が良さそうだ。
授業中、どこか俺は上の空だった。誘拐という特大イベントもあったが、異世界という超超特大イベントがあったからだ。俺はなぜ一王国の騎士団長に勝てたのか。そして、冒険者やクリス団長が言っていた奴ら、恐らくは魔物や魔族のことだろう、それは一体なんなのか。色々知りたいことが多すぎる。
「じゃあ、藤井君。この単語の意味は何か分かりますか?」
「...え?俺ですか?」
「藤井君は君以外にいますか?」
「えぇっと。わかりません...」
「ちゃんと勉強しましょうね。」
「すいません」
「じゃあ、中村くん」
「はい、ここは...」
いかんいかん、授業に集中しなくては。
-キーンコーンカーンコーン-
チャイムが鳴って昼になった。結局授業は何を言っているのかわからなかった。いつもはパンやおにぎりを買って食べるのだが、今日はずっと異世界のことを考えていた。
といっても、昼に考えていたのは闘技場にいた女性のことだ。綺麗な黒髪で整った顔。このまま生活していたら、絶対に巡り会うことが出来ないような素晴らしい女性だったと思う。また、会えればいいな。
俺は柔道部に入部していることもあり、バイトは引っ越しの手伝いをやっている。だが、バイトはしばらくやめることにした。おそらくお金はどうにかなるし、他にもやりたいことはあるからだ。
異世界転移のクリア報酬、またこんな高額がもらえるかどうかは怪しいが、異世界でも計画的に使おう。最近は部活も行けていなかったし、友達とも遊べていなかったから、そういうことができればいいな。
引っ越し先は俺の家から比較的近くの所であった。一通り荷物を運ぶと、その家の人、石鳥家の家族が出て来て今日はありがとうと言われた。こういう感謝された時が一番やりがいがある。すると、離れた所でもじもじしていた同年齢ぐらいの女の子が出て来てありがとうございますと言ってくれた。すごく綺麗だった。
「今までありがとうございました!」
「おう、また戻ってこいよ。」
「はい!」
俺は最近運がいいな。お金も沢山もらえて、武の上達もできて、美女にまで会えた。こんな平和な日々を異世界でも過ごせるといいな。そう思っていた。だが、そう現実は甘くなかった。
読んでいただきありがとうございます!早く書ける時はできるだけ早く投稿しますので、これからもどうかよろしくお願いします!




