12-3 宰相とエリーゼの裁き
セレウスとアドニス、
サフィニアが宰相へ視線を向けると、
国王は告げた。
「宰相。
そなたにも紹介しておこう。
オケアリオン王国の先王、セレウス殿だ」
その名が響いた瞬間、宰相は目を見開いた。
「オ、オケアリオン王国……!?
もしや、世界に名だたる海洋国家の……!」
国王は頷き、淡々と続けた。
「そうだ。
我が父が婚姻相手となるはずだった王女――
ナディア殿の兄君だ」
「ナ、ナディア王女……?」
宰相の顔が引きつり、
視線が自然とサフィニアへ向かう。
その様子を見て、セレウスがゆっくりと
口を開いた。
「……もっとも、
その約束が果たされることは無かった。
何しろ、妹のナディアはミレア王国の王太子と
顔合わせをする直前に出奔してしまったからな」
謁見室の空気が、さらに重く沈む。
セレウスはサフィニアへ視線を移した。
「そして、サフィニアは我が
妹ナディアの孫にあたり、
正式に養子縁組を果たした。
サフィニアは紛れもない、
我らアクラレイス王家の血を引く
正当な後継者なのだ」
「な、何ですと……!」
「そ、そんな……!」
宰相とエリーゼの顔が同時に青ざめた。
サフィニアの銀糸のような髪。
金を渡して追い出した日の記憶。
そして「偉大なる海洋国家」という言葉。
すべてが一瞬で繋がり、
宰相の背筋に冷たいものが走る。
セレウスは淡々と続けた。
「……そして、あの時果たされなかった
婚姻の約束は時を隔て、
孫の代にて成し遂げられることとなった」
その一言で、宰相は完全に言葉を失った。
顔面は紙のように白くなり、膝が震える。
エリーゼは悲痛な叫びをあげた。
「う、嘘ですよね!?
アドニス様! 私たち、婚約の約束を
果たした間柄ではありませんか!」
涙目でアドニスに訴えるエリーゼ。
だが、アドニスの表情は冷静そのものだった。
「それは宰相とエリーゼが
勝手に決めていたことだ。
俺は一度たりとも承諾した覚えはない」
「え……? そ、そんな……」
エリーゼの顔から血の気が引く。
アドニスは、はっきりと言い切った。
「まして、愛するサフィニアに
ひどいことをする者など、選ぶはずがない!」
「アドニス様……」
サフィニアが見上げると、
アドニスは笑みを浮かべて
そっと肩を抱き寄せた。
そして入り口付近に立つ宰相と
エリーゼへ視線を向ける。
その瞳は鋭く、
二人を凍り付かせるほどの冷たさを帯びていた。
逃げ場は、もはやどこにもなかった。
その時、国王の冷たい声が謁見室に落ちた。
「……エリーゼ」
名を呼ばれた瞬間、
エリーゼの肩がびくりと跳ねた。
「は、はい……」
震える声で返事をする。
国王は一切の情を排した声音で告げた。
「アドニスから報告を受けている。
そなたが侍女に命じ、
森に掘った落とし穴へサフィニアを誘導して
わざと落としたのだな」
「……っ!」
エリーゼの肩がピクリと反応し、
顔がみるみる青ざめていく。
国王は次に、ゆっくりと宰相へ視線を移した。
「宰相よ。
そなたはバネッサの狼藉を
知りながらも彼女を庇い、
さらにはサフィニア王女に
この国を出て行くよう仕向けた」
「!」
王女という言葉に
サフィニアは驚き、国王へ視線を向けた。
宰相は慌てて口を開く。
「で、ですが、陛下!
まさか、あの時は王族の血を引く
お方だとは思わず……」
「嘘を申すな!」
国王は宰相の言葉を最後まで言わせず、
声を荒げた。
「お前は、私にサフィニア王女の話を
報告しに来た時、
自ら銀髪と口にしたであろう!
その時点で気づいたはずだ!
直後に王女を追い出したことも、
すべて分かっている!」
「……あ……」
宰相の顔が青ざめ、膝が震えた。
一方のエリーゼは涙を浮かべ、
震えながら唇を噛んでいる。
「俺の大切なサフィニアを傷つけた罪……
侍女と共に、必ず償ってもらう」
アドニスは冷たく言い放った――




