11-35 婚姻の条件
「それでなのだが……」
カイロスが隣に座るセレウスへ視線を移した。
「う、うむ。2人が結婚するにあたり……
こちらから条件を付けさせてもらいたい」
「条件ですか?」
「それはどのようなものでしょう」
条件という言葉に、
サフィニアとアドニスに緊張が走る。
するとカイロスが説明を始めた。
「2人とも既に知っている通り
私には後継ぎがいない。
唯一いるのは、この度養女となった
サフィニア……そなただけだ」
「はい」
サフィニアは小さく頷いた。
「そしてアドニス殿も、
『ミレア』王国のただ一人の
後継ぎなのだろう?」
「はい、そうです」
「そうなると、両国間で世継ぎの
問題が発生する」
「「……」」
サフィニアとアドニスは言葉を失った。
(そうだわ……私がアドニス様の国へ嫁げば、
『オケアリオン』王国を継ぐ者が
いなくなってしまう……)
胸が締めつけられ、
サフィニアは隣のアドニスをそっと見た。
彼もまた、真剣な眼差しでカイロスを
見つめている。
すると、カイロスがふっと笑みを浮かべた。
「そこで提案がある。
2人の子供が生まれたら、その子を我が国の
次の継承者にしてもらえぬか?」
「えっ……!」
「こ、子供を……ですか!?」
アドニスは目を見開き、
サフィニアの顔は一気に赤く染まった。
「うむ、そうだ。見ての通り私は
まだまだ元気だ。
少なくともあと20年は国王として
務めを果たせるだろう。
だが、後継ぎは早い方が良い。
そこで2人には早めに結婚してもらい、
世継ぎを授かってほしいのだ。
どうだろう?」
「そ、それは……」
サフィニアが言い淀むと、
セレウスが穏やかに続けた。
「確かに、まだ婚姻の話が出たばかりで
いきなり世継ぎの話は戸惑うだろう。
それに、生まれてくる子供を
『オケアリオン』王国の後継者にと言われても、
すぐに返事はできまい。
だが、子供が生まれたからといって
すぐにこの国へ預けよとは言わぬ。
一年の半分、サフィニアはこの国で子供と共に暮らし、
残りの半分を『ミレア』王国で暮らす。
そして成人年齢に達したとき、
その子を我が国の養子として迎え入れたいのだ」
カイロスも頷く。
「そうだ。それに何も1人目の子を
いきなり望むわけではない。どう思う?」
2人の視線がサフィニアとアドニスに向けられる。
サフィニアは思いもよらない提案に茫然としていた。
(私は正式に『オケアリオン』王国の王女になった……
王女になった以上、この国のために尽くす義務がある。
でも……世継ぎをこの国の後継者にするなんて。
私は良くても、アドニス様は……?
だとしたら、私はアドニス様との結婚を
諦めるべきかもしれない……)
サフィニアは覚悟を決めた。
「あ、あの私……」
「いいでしょう」
言い終える前に、アドニスがはっきりと
口を開いた。
「アドニス様!?」
「その条件、お受けいたします。
私とサフィニアの間に子供が生まれたら、
その子を『オケアリオン』王国の
後継者として育てましょう」
カイロスとセレウスの顔がぱっと明るくなる。
「そうか! 条件を飲んでくれるのか!」
「さすが次期国王。器量が違う。
……だが、現国王が何と言うかな?」
セレウスが含みを持たせて尋ねる。
「父には私から説得いたします」
「ア、アドニス様……
本当にそれでよろしいのですか……?」
サフィニアの問いに、アドニスは優しく微笑んだ。
「もちろんだ。
妻にしたいと願う女性は、この世でただ一人。
サフィニア、君だけだから」
「アドニス様……」
するとセレウスが膝を叩いた。
「よくぞ言った! 『ミレア』王国の王太子よ!
ではすぐに国へ戻り、我らの意志を伝えに参ろう!」
「え? セレウス様もですか?」
「ああ、そうだ。
現国王に会って、我らからも伝える。
それだけではない。
エストマン公爵を断罪するためでもある!
すでに『ノルディア』王国へ書状を送り、
エストマン公爵を『ミレア』王国へ
召喚するよう命じてある。
我らの手で、公爵を断罪する!」
セレウスは力強く言い放った――




