第102話【合同】G級冒険者集結 後編
ダークイフリートの殺気に気付いたアイアンが、ショーンや仲間達を庇いに向かう。
「みんな!! クソッッ!」
アイアンは予知のスキルを発揮しろと視線をショーンに向けたが、魔力が切れたショーンは涙目で首を横に振る。
ーー予想通りです陛下。これで魔王を!
ーーうむご苦労、アルフレッド。
ダークイフリートの額に、大主教こと聖王ジェームズの上半身が浮かび上がった。
「どうだアトム。貴様の大事にしてるという冒険者達。この場で滅ぼしてやっても良いのだぞ?」
「ジェームズ!!!」
するとアイアンの仲間に、僧侶服を着るクリスタを見つけたジェームズは歪んだ笑みを浮かべた。
「ほほう、汝は司祭見習いか。余は教会の大主教にして聖なる王、そしてそこにいるのは魔王だ」
「……」
ジェームズは彼女を説き伏せて、アイアンを捕える手駒にしようと企てる。
「聖女教会の教え、汝もわかっておるだろう?」
「……大教主様、教会の教えですか?」
クリスタから見て、今まで遠目からでしか見たことがなかった聖女教会の絶対的権威が大教主。
彼女のような末端の聖職者が、決して逆らえない雲の上の存在である。
「そうだ。くくく、どうだ魔王アトム? この司祭見習いがお前を捕縛したあと、ワシに服従を誓うならばこの戦いは終わりにしてやろう」
ジェームズは、仲間のクリスタを利用してアイアンに揺さぶりをかけてゆく。
上空では龍化を解いたトリノが怒り狂い、ヤスコに襲いかかった。
「燃え尽きるがよいわシロヒトリガ!」
トリノが顔を仰け反らした瞬間、ヤスコは一気に高度を落として距離をとる。
「真紅火炎」
口から放たれた獄炎のブレスは、ダークイフリートの出力を上回り、夜空が昼のように明るくなるほど輝く。
「チッ、ウーパールーパー!」
ヤスコは地上のダークイフリートが、アイアンの冒険者仲間を標的にしようとするのを確認する。
「足手まとい達が多い。わたくしと彼だけならば、あんな雑魚いかようにもできるのに……!?」
「死ねぇ!」
トリノが距離を詰めてヤスコにパンチを放とうとした。
その瞬間、吟遊詩人が彼女達の間に入り、人間が受けたら跡形もなく吹き飛ぶほどのパンチを、右の手のひらであっさり受け止める。
「き、貴様は!?」
「何やってんだよ、敵はあっちだ」
リュートを背負う吟遊詩人は、ダークイフリートを指差す。
「あなたに言われなくとも、わかってます」
「そうだそうだ! 我の力があればあんな炎など逆に吸い取ってくれるわ」
ーークソ女共が兄弟の足引っ張りやがって、クソ面倒くせえ。いや、待てよ。そういえば……。
吟遊詩人は、ラティウムのエルド山で見たトリノの特性にハッとした顔で気付く。
「おい、こいつ炎とか吸収する力があるぜ」
ヤスコの方に振り向いて声をかけると、彼女もダークイフリートへの打開策を咄嗟に思いつく。
「そうですか。それではあなたに役に立ってもらうとしましょう、ウーパールーパー」
「?」
「ふふ、さあアイアン。あなたの言う強さ、わたくしにもっと見せてください」
ヤスコは眼下のアイアンに視線を向ける。
「てめえ、こざかしいぞクズヤローのくせに」
「ふふ、抜かせ魔王め。さあ司祭見習いよ、その魔王をお前が捕まえるのだ」
クリスタが沈黙する中、エレナやハロルドが呼びかけた。
「クリスタ、ダメだよ! あいつ俺達殺す気だ!」
「ええ、ハロルドの言う通りよ!」
すると不安気にクリスタはアイアンに振り向く。
「Hey 大丈夫だよクリスタ。俺は、仲間だ」
アイアンは、学院時代に世話になった男の言葉を思い出す。
ーー本当の強さの一つは信じられる強さだったか。俺は自分の強さと仲間を信じる。前は、口では言ってたが、できなかったことだ。
「ふははははは、チャンスだ司祭見習い! その魔王を捕まえたら褒美は思いのままだ」
「……」
すると、アイアンは緊迫するこの状況下でも優しげな表情で、彼女の目を見る。
「そういや、今日お前に話をしてえことあった。クリスタに似た人と昨日会ったんだ」
「……私に似た人?」
「ああ、その人はルテティアの冒険者してて、家族が酷い目にあって魔王軍に操られてた。だけど最後に自分の思いを取り戻して、安らかに逝った。ベルトランって人で、ずっと孫娘を探してたって」
「冒険者ベルトラン……孫娘?」
「そうだよ! 俺も聞いた!! クリスタに似てたっていう剣士の人! あの人のおかげで魔王軍を倒せたんだ!!」
アイアンの他に、その場にいたハロルドもクリスタに呼びかけ、聡明な彼女は自分の生き別れの家族が冒険者をしていたことを知る。
「くかか、この者達の話など聞く必要はないぞ。さあ、お前がこの魔王を捕縛して、こやつを引っ立て……」
「いやです」
アイアンの優しげな顔と、彼が自分の過去の前世を語ったこと、伝説の勇者がアイアンについて語った真実と生き別れの家族の話が交錯し、クリスタはジェームズこと大主教の命令を拒否する。
「孤児だったわたくしは、聖女様の自己犠牲の精神を胸に、教えを実践して、いつ死んでもいいと思ってました……」
「なら聖女教会に忠誠を示せ! こやつは教団の敵! 魔王だぞ!!」
「いやです! 聖女様は、魔王を救おうとしたと聞きました!」
クリスタは、周りの影響で流されるだけの人生から、生まれて初めて自分の意思で歩もうとしていた。
自己犠牲の末、死を迎えようとしていた自分を救ったのは目の前のアイアンで、彼は自分を仲間だと信じてくれているためである。
彼女はそれに応えようと、勇気を振り絞る。
「聖女の実の兄たる大主教のワシが命じてるのだぞ!! そこの魔王を捕えるのだ!!」
「……伝説の勇者様は仰ってました。彼と仲良くしてほしいと、そしてわたくしは聖女様の思いと彼を信じる!」
「勇者だと!?」
クリスタがアイアンの前に立つと、アイアンは優しく彼女の肩に手をかけて後ろに下がらせた。
「ありがとう、クリスタ。それに俺はもう二度と悪に負けねえ。なぜなら俺は強いからな」
異変を察知したゴーレムが、地響きと共にその場に駆けつけて、アイアン達のチームを庇うように両手を広げる。
「アイアン! みんな無事!?」
「ああ、サンクスパンドラ。来いよジェームズ、今日で俺とてめえの因縁に決着だ」
「よかろう! 貴様らもろともこの精霊の力で灰にして……!?」
ゴーレムが炎と熱を遮断したことで、バーベンフルト、ハン、アリーフが、地獄の亡者が姿を変えた黒い火の玉を消滅させ、アイアンの元まで次々駆けつけた。
「我が名は元帝国尚書令にしてシーヌ皇室諮問機関、軍機房の従一品ハン。やはりお主は、魔王軍の手先じゃな聖王よ」
「聖王だと!? 我が名はアリーフ、勇者様より認められた大エラームの皇太子であるぞ!!」
「バーベンフルトです。聖王陛下……なのですか? これは一体どういうことか?」
ジェームズは、世界の主要国家要人でもあるG級冒険者達を見下ろす。
ーーくっ、最強のバーベンフルトに加えこの状況。あの恐怖の勇者が、ここまで冒険者共や東方の王侯貴族達も関わってるとは
ーー猊下、このアルフレッドにお任せを。猊下は今のうちに。
ーーうむ、任せたぞアルフレッドよ。
大主教ことジェームズの体が沈み込むようにダークイフリートの中に入り、魔騎士アルフレッドに主導権が移った。
「我が名は誉ある聖王国侯爵家にして騎士アルフレッドなり。貴様らこそ、そこの魔王の味方をするとは笑止千万。聖女教会と聖王国の敵対行為であるぞ!!」
G級冒険者達の視線が一斉にアイアンに向く。
「まさか……アイアン、君の正体は」
「ま、魔王だと?」
バーベンフルトが絶句し、アリーフが困惑する中、ハンはアイアンの肩に手を置く。
「何を申すか。このアイアンはワシの師父、勇者様が認めた魔法使いじゃ」
「勇者様がお認めにですと?」
「うむ、バーベンフルト。このアイアン、他ならぬ師父がお認めになった魔法使いじゃ」
これにアリーフも頷く。
「ええバーベンフルト殿。伝説の勇者様は今もご健在で、学術師ガナパティ、魔法使いアイアン、賢者ヤスコを送り込んだとこの耳ではっきり聞いた」
G級冒険者達の証言に、ダークイフリートを操るアルフレッドが困惑し始めた。
「のう? 冒険者アイアンよ」
「ああ、今の俺は魔法使いアイアンだ。ショーン」
「ふぇ!?」
怯えるショーンに、アイアンは声をかける。
「依頼人のリチャードのおっさんが戦闘不能の状況だが、お前に決定権がある。クエスト出せや、俺たちは冒険者だぜ?」
「あ、ああ! G級冒険者達も全員いるし、追加クエストを組合長の俺が出す! あの魔王軍の化物やっちまってくれ冒険者達!!」
追加の合同クエストがショーンから発せられた。
「とまあ、追加のクエスト出たから、お前を狩るぜこのフェイク野郎」
アイアンは野球バットのような魔法の杖を、まっすぐダークイフリートの眉間に向ける。
「なんだと!?」
「そうだろうが! ガイさんやリチャードのおっさんの力を奪って、イキがってやがるフェイク野郎のくせによ! 何が騎士だクソ野郎、地獄に送り返してやる」
「地獄だと!? あの筆舌にし難いような責苦、悪鬼と悪魔が支配するような世界を知りもしないで……」
「……知ってるさ。あそこのことはよ」
しかし、地獄という世界を身をもって体験してるかのようなアイアンに、アルフレッドは困惑する。
「お前みたいなフェイク野郎のことなんかだいたい想像つくぜ、ええ? リチャードのおっさんに、負けたかなんかで地獄に堕ちたんだろ? 負け犬野郎」
アイアンは一瞬上空を見上げたあと、困惑と動揺をさらに広げ、隙をつくるためにディスり続ける。
「それでアンデッドになって強くなったつもりで、復讐した俺つええとか、マジで笑えるぜ。死んだあとも執着する負け犬のフェイク野郎め」
「き、貴様に俺の何が……」
「へいへいへい、違うって言うのか? お前みたいな負け犬野郎のことなんざ、手に取るようにわかっちまうんだ。おおかたおっさんに目をつけられたのも、金や権力で調子こいて悪さがすぎたからって感じか? だろ?」
ーーわかんだよ、お前みてえな負け犬がどうしてそうなったかなんてのは。俺もそうだったからな
「そういやお前、上級貴族なんだってな? 何不自由なく育ったおぼっちゃまのくせに、ギャング気取りでマジ笑えるぜフェイク野郎! くそダセエぜ」
「こ、殺す! お前を殺してやる魔王!!」
「おら来いよ、フェイク野郎。さっさとガイさんとリチャードのおっさんを解放して地獄に戻りな」
「き、騎士の、お、俺を愚弄しおって! ならば地獄の業火で燃え尽きよ!」
地獄に通じる闇の炎を、全身から噴出したダークイフリートが、渾身のブレスを放とうとする。
「地獄の豪炎」
ダークイフリートが、体内で練った焦熱地獄の光と炎のブレスを放とうとした時だった。
「オラァ! この野郎!!」
「クソ野郎こっちだ!」
「こっち見ぃやボケカスコラ!」
空飛ぶチュウ太郎に乗ったリュウとゴメスが挑発し、ダークイフリートの矛先が彼らに向く。
「ぬう! 貴様らも騎士たる俺を侮辱しおって! 先に消してやるわ!」
ダークイフリートがブレスを吐こうとした時、アイアンが罠にかかったとほくそ笑んだ。
その瞬間、光の矢のようなものがダークイフリートの体に撃ち込まれる。
「!?」
グニャリとダークイフリートとその周囲の時空間が歪み、時の流れを瞬間的に停止させる魔法効果が発動した。
ヤスコが隙をついて、銀色に輝く魔法銃の特殊弾を放ったのだ。
「お母様より授けられた天の魔法、時空弾。さあ、今ですウーパールーパー!」
「でかしたぞシロヒトリガよ!」
急降下したトリノは、ダークイフリートの巨大な背にしがみ付き、炎のエネルギーを吸い始める。
「ぬおおおおおおおおおお! この精霊の、ち、力が抜けてゆくうううう」
燃え盛る炎の出力が徐々に弱まり、肌で感じるほど周囲の高温が低下し、炎の勢いが消え失せた。
「うむ、なかなかの炎だったぞ。どれ下郎め、トドメはこの我が……」
だがしかし、天界魔法の効果を持つ弾丸を瞬時に無効化したダークイフリートの膂力は衰えておらず、しがみついたトリノが振り飛ばされた。
「チッ、あと少しでこの痴れ者め!」
「よくわからぬ小娘! 死ね!!」
振り解いたトリノに、ダークイフリートが迫る中、彼女を庇うようにアイアンが立ちはだかる。
「オーケー、離れてなトリノ。俺がやる」
アイアンは、手に持った専用武器のバットに力を込めてゆく。
「熱を奪うだけじゃ足りねえようなら♪ 沈めてやるぜバブル風呂! お前と一緒に入りたくねえから、一人で溺れちまいな! Yeah♪ 歌う魔法は神の言霊!」
するとバットの形が変化してゆき、口径が12ミリほどある、火災の時の消防士が携行するような消化用ノズルに形状が変化した。
神界魔法の反動に備えてアイアンは姿勢を低くして腰だめになる。
「現世に神世の魔法を現界! 掛けまくも畏き神の、邪悪な罪穢れを洗い流す水よ!」
アイアンが歌う言霊でノズル先が光り輝くと、筒先に魔法陣が何層も形成されてゆく。
「な!? なんの光ッッ!?」
「祓え給い、清め給え、神ながら、守り給い、幸せ給え。神の祈りと水の言霊……水波能売」
アイアンの切り札の神界魔法が発動し、筒先からアンデッドを浄化する光の泡が高圧噴出。
ダークイフリートを飲み込んだ。
「ぎゃあああああああああああああああ!!」
この泡は聖なる力以外にも、合成界面活性剤に似た特性を土の魔力で形成され、風と水の複合魔力で、窒息効果と冷却効果をもたらす。
例えるなら、航空機火災などでも使用される超高圧泡消化器の原理を具現化したのだ。
「すげ……」
「あの炎の怪物が……」
「これが、アイアンの魔法……」
仲間達が思わず口々に呟き、アイアンの力を知るヤスコが笑みを浮かべ、宙に浮く吟遊詩人は演奏を終える。
「……ッッ!!!」
G級冒険者のアリーフは、自身と次元が違う魔法の力に絶句し、バーベンフルトとハンはかつての大魔法使いメディアを思い出す。
「見事な魔法だ。メディア老師を思い出す」
「うむ、バーベンフルト。じゃが……あのメディアでもこれほどの魔法は使えんかった気がするがのう」
「ふん、あの化物を弱らせたのは俺も仙術を使ったからだジジイ!」
泡まみれになったダークイフリートは、ひび割れたオベリスクを持ちながら、滑って転げ回り戦闘不能状態に陥る。
「くっ、くそ! 体が、炎が消えて……ハッ!?」
アイアンはバットのような魔法の杖を両手で振りかぶり、気迫を込めた表情でダークイフリートを見下ろす。
「湯加減どうだクソ野郎。地獄に還る時間だぜベイベー」
ーーくっ、このままではやられる。何か方法は……待てよ、この精霊の依代はドワーフか。
「何かする気だな? 往生際が悪い野郎め、ヘッドショットかましてやる」
ーーその記憶と経験を読み取ってやるぞ!!
「まだだ! まだ終わってない!!」
ダークイフリートを操るアンデッドの魔騎士アルフレッドは、乗っ取ったガイの記憶と技法で土の魔力を使用して、全身を黒鉄の金属に変えた。
「なにっ!?」
ダークイフリートがオベリスクを地面に突き差すと、コマのように高速回転して、体を覆った泡を弾き飛ばしながら、地中へと潜り始める。
「てめえ!」
振りかぶったアイアンのバットが空振りして、ダークイフリートの逃走を許してしまう。
完全に焼け落ちた大聖堂の地面に、ポッカリと開いた穴はさながら坑道のようになっており、アイアンは地面に魔法の杖を叩きつけた。
「クソ! しぶてえ野郎が!!」
悔しがるアイアンのそばにヤスコが降り立ち、ダークイフリートが掘った穴を覗き込む。
「どうしますか?」
「決まってんだろ? あとを追うぜ。学院で習ったダンジョン攻略ってやつだ」
次回はダンジョン攻略です




