[3-29] 撤収
「早く今後の事を話したら? また空賊がここを襲いに来るかもしれないんでしょ?」
マリルの治療に関する話がひと段落したところで、ヴァネッサが話を先に進めようとする。
ヴァネッサの懸念する通り、この場所は空賊に把握されている。移動するのであれば早い方が良い。
「そうね、まあこの隠れ家は封印をしておくわ。いつかまたホムンクルスを作ることになっても良いようにね。とはいっても、無理矢理封印を破ってこの家に入るような奴がいたら、その時はこの隠れ家は消滅するようにしておくから」
ルーベルとしても議論を終わらせたかったのか、あっさりと乗ってきた。
研究者として、別の誰かに研究内容を盗まれるようであれば、研究内容は消滅させるつもりのようだ。
しかしルーベルがここに戻ればまたホムンクルスを作る事は可能と言うことだ。オリバ
ある程度の設備がなければ研究は出来ないという事は、ここに戻ってこなければルーベルはホムンクルスの研究を再開しない限りは、新たにホムンクルスを作る事も無いのだろう。
ルーベルが長年ホムンクルスの研究をしていて、そう簡単にホムンクルスの研究を無かった事にする事は出来ないという心情も分かる。
そうであるならば、今はこの研究所が封印されるというのを落としどころとして妥協するべきだろう。
「じゃあ、その封印ができたら出発するって事?」
オリバーがそんな事を考えている内に、ヴァネッサが話を進めている。
「そうね。姉さんは動ける?」
ルーベルはマリルの事を心配しているのか、マリルに話を振る。
「ええ、私は大丈夫ですよ。ところで、どこに行くのですか?」
マリルは先ほど目覚めたばかりとはいえ、体調が悪そうには見えない。
「まずはアンに報告するために王都に戻ろう」
そう答えたのはオリバーだった。アンとは一応ギルスとの約束があるため一時的にユニオンを離れるという話をして、ここまで来ている。その用が済んだのであれば、報告のために戻るのが道理だろう。
●
王都に戻ると言ったオリバーの言葉を否定する者は誰も居なかったが、隠れ家を封印する前に一つ決めなければならない事がある。
「それはいいとして、あの部屋で寝てる二人はどうするの? 私はこの隠れ家を封印するつもりだからできれば出て行って欲しいんだけど、起こすとまずいの?」
それを指摘したのはルーベルだった。
空賊が襲撃してくる危険性がある以上、この場は早く引き払った方が良い。
ミランダが今も騎士である以上、起こすと面倒な事になる。そうなると答えは限られる。
「起こすのはだめだな。寝かせたまま町に送り届けよう」
答えたのはオリバーだった。ミランダはもちろん、あの魔術師も騎士団の関係者の可能性が高い。そうなるとお尋ね者のオリバー達と接触があったとなると悪い噂がたつかもしれない。それを伏せるためにも寝かせたまま送り届けるというのがベストだろう。
「町のどこに? 私たちが直接騎士団に送り届けるのもやめた方がいいんでしょ?」
そう聞き返したのはリリアだった。
オリバーがお尋ね者である以上、騎士団に直接送り届けたらその場で捕縛される危険があるためそれは止めた方が良い。かといってあまり適当な場所に放置すると二人の身に何かおきるかもしれない。そうなってしまうと話がこじれてしまうため、安全な場所に届ける必要がある。
「騎士団の宿舎近くに置いとけば。回収してもらえるんじゃない?」
そう言ったのはヴァネッサだった。若干乱暴なやり方かもしれないが、騎士団との接触を避けつつ、二人の身の安全を考慮するならば、ヴァネッサの案が無難なのかもしれない。
「じゃあヴァネッサの案で行くか」
特に悩むことも無いだろうと思い、ヴァネッサの案に賛成したオリバーだったが、当のヴァネッサにはまだ懸念事項が残っていたようだ。
「でも、あの女魔術師にはあたし達の顔を見られてるよ」
ミランダは救援に駆け付けた時には既に意識が無かったため、オリバー達と接触したという事は、本人には気が付かれていないだろうが、あの魔術師は違う。意識のある状態で顔を合わせており、さらに名前までも聞かれている。
「顔を見られたとしても、空賊が居た場所に、俺たちが居合わせたって事が分かるぐらいだろ。気にする事か?」
オリバーとしては顔を見られたぐらいは気にしなくても良いだろうと思ったが、忘れではいけない事が一つあった。それをヴァネッサが口にする。
「一人死んでるんだよ。あたし達が殺したと思われたら面倒にならない?」
オリバー達が駆けつけた時に騎士の一人は死んでいた。オリバー達が殺したという疑いが掛けられるのは避けたい。
「その心配はないんじゃないのか? 俺たちが見つけた時点で、空賊と戦闘中でもう一人の騎士は死んでたんだから、後から来た俺たちが殺したっていう話になるのは無理だろ。ミランダもあの騎士がやられるところを見ていたはずだし」
オリバー達も直接あの騎士が死ぬところを見た訳ではない。現場に着いた時にはすでに死んでいたというのが事実だ。それをオリバー達が殺したという話になるのだろうか。
「それは状況からの推測であって、あの女騎士が、死んだ方の騎士が空賊にやられたところを見たっていうのは保障出来ないでしょ」
ヴァネッサが言う事は否定できない。ミランダが先に気絶してから、あの騎士が死んだ可能性もある。つまりあの騎士の死因をミランダが知らず、後々オリバー達が現場にいたという事が知られた場合、オリバー達があの騎士を殺したという誤解が生じる可能性もあり得る。だからと言ってこのままずっと行動を共にするというのも難しいだろう。
「それは確かに推測でしかないが、あの魔術師は助けを求めに来た時俺達に会ってるから、少なくとも俺達が助けたっていう事は分かるはずだろ」
あの魔術師には顔を見られたのは間違いないが、オリバー達がミランダを助けに行ったところも見ている。それならばオリバー達に騎士を殺したという疑いを持つ事は無いのではないかとオリバーは考えた。
「それはそれで、別の問題になるんじゃないの?」
だが、ヴァネッサの考えは違うらしい。それどころか、それもまた問題になると言い始めた。
「何が問題になるんだ?」
ヴァネッサの言っている事が直ぐには理解できずに聞き替えすオリバーであったが、その理由は単純であった。
「悪魔憑きが、騎士を助けたって事」
そう言われて、オリバーはハッとした。
ミランダはただでさえオリバーの姉という立場にある。それが、悪魔憑きであるオリバーがミランダを助けたという話が広まったらどうなるか。それは容易く想像できる事であった。
「にーさんの時と違って、腕の認識印は残ってるけど、騎士が悪魔憑きに命を救われたっていうのは対外的にどう見えるかな」
騎士が死にそうになっていたところに、悪魔憑きが現れてその命を救う。それが対外的にどう見えるか。結論は一つだ。
「ミランダも悪魔憑き扱いされるって事か?」
オリバーは真っ先に思い付いた状況を口に出す。
「その可能性は十分あるよ」
ヴァネッサもまた、同じ考えのようだ。
「腕に認識印があるなら大丈夫だろ」
オリバーが悪魔憑きになったのには、普通なら消せないはずの認識印が腕から消えていたというのが大きい。今回のミランダは命を助けられただけで、身体に大きな変化があった訳ではない。
それを悪魔憑き扱いするのは無理があるのではないかと考えたが、それでもヴァネッサはそれだけでは疑いは晴れないと考えているようだ。
「ただでさえ血の繋がった兄弟でしょ。騎士と悪魔憑きが、裏で繋がってるなんて噂が流れたら面倒になるんじゃないの?」
ミランダとオリバーが血の繋がった兄弟というのは変えようのない事実であり、オリバーが悪魔憑きとして手配されているのもまた事実である。そんな中でミランダが危機的状況に陥っているところに、オリバーが現れるというのは、裏で繋がっているという疑惑を持たれてしまっても仕方がない。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
このまま二人を返せばかえって不利益になるというのであれば、それは避けたいところだ。
「解決方法は二つあるよ」
ヴァネッサはそう言いながら指を二本立てる。
「聞かせてくれ」
オリバーはとりあえずヴァネッサの話を聞くことにした。
「一つ目は、二人にはこのままあたしたちと一緒に来て貰う」
そう言ってヴァネッサは立てていた二本指を一度握り、再び人差し指だけを立てた。
生きて返すのが無理であるならば、このまま一緒に行動する。それはある意味単純で分かりやすい選択肢だ。
「それは、悪魔憑きとして生きるって事か?」
とはいえ、悪魔憑きのオリバーと行動を共にするというのは、ミランダが悪魔憑きの仲間になるという事である。
「世間的にはそう見られるだろうね」
つまりは世間的には騎士では無く、ミランダもまた、悪魔憑きとしてみられるという事になるのだろう。
「それはダメだ」
オリバーはそれを受け入れられなかった。
「どうして?」
ヴァネッサはオリバーが反対する理由を尋ねる。
「今のミランダは騎士だぞ。本人が望むならともかく、俺たちが決めていい事じゃない」
オリバーとしても悪魔憑きは日陰者であるという自覚はある。今はまだ騎士であるミランダに対して、悪魔憑きの仲間になれというのは酷な話であるように思えた。
「じゃあ、起こして聞いてみる?」
そうであるならば、本人の意見を聞いてみたらどうかというのがヴァネッサの考え方であるようだが、オリバーはそれも受け入れられなかった。
「そんな事したら罪を償う為に出頭しろって言われるだけだ。得策じゃない」
ミランダの性格からして、今起きたら面倒な事になるのは目に見えている。起こして本人の意思を聞いても、それだけでは済まないだろう。
「それは、にーさんはあの女騎士が、あたし達に同行する意思は無いって思ってるって事?」
本人の意思を聞かずに、オリバーが判断するというのは、それはあくまでオリバーの予想という事になる。
「当たり前だろ、ミランダは騎士なんだぞ。わざわざ悪魔憑きになる必要が無い。俺たちを捕まえる事はあっても、同行することは無い」
ミランダは今も騎士である。その騎士が自ら進んで悪魔憑きの仲間になるというのはオリバーには考えられなかった。
「にーさん自身の考えはどうなの? あの女騎士には、騎士のままでいて欲しいって事?」
ヴァネッサは、オリバーがどう考えているのかを知りたいようだ。
「ああ、ミランダには騎士のままでいてもらいたい。だからこの案は無しだ。もう一つは?」
世間体というのもあるが、オリバーの一個人としての考えとしてもミランダには悪魔憑きではなく、騎士として生きてもらいたいと思っていた。
今のオリバーにはヴァネッサやリリアといった仲間がいるが、それでも悪魔憑きの烙印を押されたおきはショックを受けたというのは変わりは無い。わざわざミランダを悪魔付きの仲間にしようとは思わなかった。
よってこの案については受け入れられない。二つ目の案に期待しつつ、話を聞こうとしたオリバーであったが、二つ目の案は一つ目の案よりも受け入れがたい内容であった。
「もう一つの案は、あの魔術師を殺す」
ヴァネッサは中指を立てながら、先ほどと同じような口調でそう言った。
オリバーからすれば、冗談を言っているのではないのかと疑うほど、突拍子のない提案であったが、少なくともヴァネッサは笑っていない。ヴァネッサは本気で言っているのだろう。
「どうしてそうなるんだ?」
それが本気だとしても、どうしてそうなるのかはオリバーには理解できなかった。
「目撃者を消せば、あたしたちと接触したかどうかは分からないよ。あの女騎士に迷惑を掛けたくないっていうなら、方法の一つとして考えられるよ」
オリバーとミランダが接触した事が露見すれば、ミランダに迷惑が掛かる可能性が高い
そうであるならば、オリバーとミランダが接触した事実を隠蔽する必要がある。そのためには目撃者を口封じするのが最も効果的な方法だ。
理屈としては間違っていないが、一人の人間の命を奪うという点においてとても賛成できる話ではなかった。
「魔族は人間を殺したらマズイんじゃなかったのか?」
以前聞いた話だ。魔族が人間を殺害されるのは厳しく禁止されており、万一判明したら厳しいペナルティーがあると。
しかしヴァネッサもそれについては考えていたようだ。
「ここには人間とエルフがいるよ」
つまりは、人減とエルフのどちらかが手を下せという事か。
「だとしても、ダメだ」
確かに魔族のルールとしては魔族以外が人間を殺したところで問題は無いのだろう。それでも、オリバーは受け入れられなかった。
「どうして? 女騎士を、女騎士のまま悪魔憑きと無関係な事にしたいっていうなら、これが確実な方法だよ」
ミランダの安全だけを考えるなら、この方法が確実であるのは間違い無いだろう。
「口封じ目的で一人の人間を殺すなんて、おかしいだろ」
だからといって魔術師を殺すというのは、高すぎる代償だ。
「じゃあ、あの女騎士が悪魔憑き扱いされてもいいの?」
そうなるとこの問題に戻ってくる。ミランダが悪魔憑き扱いされる可能性を許容するかどうか。
「他に方法はないのか?」
ヴァネッサは先に二つ代案があると言った。そしてその二つが出そろったが、それはどちらも受け入れられる内容ではなかった。
「無いよ。女騎士の身の安全を確保して、それでいて手を汚さずに済むなんて、そんな都合の良い方法は無い。女騎士をこっちに引き込むか、手を汚して口封じをするか、二人とも返して女騎士が悪魔憑き扱いされるのを許容するか、そのどれかだよ」
ヴァネッサはあくまで事実を語る。全てを丸く収めるような方法は無いと。では今出ている三つの選択肢からどれを選ぶか。
しばしの沈黙の後、オリバーは自分が選んだ答えを口に出す。
「二人とも生かして返そう」
それがオリバーの出した結論であった。
「確認するけど、悪魔憑きの疑惑にかけられてもいいんだね?」
生かして返すという事はそういう事だ。あの女魔術師がオリバー達の顔と名前を憶えている以上は、ミランダとオリバーの接触が露見する。
「それは、本人が解決するべき問題だ。俺たちは一度ミランダの命を助けたんだ。その先まで面倒を見るっていうのは過保護だろ」
あの時オリバー達が救援に駆け付けなければ、ミランダもあの魔術師も死んでいたのは間違いない。命を助けただけでも十分であり、その先は本人の問題というのがオリバーの考えだった。
「あたしはあの魔術師を殺すのが一番だと思うけど」
ヴァネッサはオリバーの考えには否定的であった。確かにミランダの身の安全だけを考えるのであれば、魔術師の口封じをするのが確実なのだろう。
「もし、俺たちが、ここであの魔術師を口封じして、それがミランダに伝わったら、『自分のせいで一人の魔術師が殺された』って思う事になるんだぞ。そうなったら、ミランダが喜ぶとは思えない。それならまだ悪魔憑き扱いされた方がマシだったって言うさ」
この機会に口封じをしたところで、ミランダがどう思うかを考えれば、大きな禍根を残す事になる。何より、罪の無い人間一人の命を奪うという事を、オリバーは到底受け入れられなかった。それがオリバーの出した答えであったが、ヴァネッサは全く別の仮定の話を考えていた。それはつまり、魔術師を生かしておいた場合に起こりえる可能性についてだ。
「それを言うなら、ここであの女魔術師を生かしておいて、あの女魔術師の口からにーさん達と接触した事が露見して、あの女騎士が悪魔憑き扱いされて処刑された場合に、『あの時口封じしておけばよかった』って思わない?」
それは、残酷ではあるが、あり得ないとは断言する事の出来ない話だった。あの魔術師が生きていれば、オリバー達があの場に居たことは騎士団に伝わる。それを防ぐ機会をみすみす見逃して、後になって後悔しないか。
「それは……」
オリバーからすれば盲点であり、直ぐには応えの出ない問いであった。かといってそんなことは起りえないと否定する事はできなかった。
「後で後悔したくないなら、今しっかり結論を出すべきだよ」
ヴァネッサはこの話を終わらせるつもりは無く、オリバーが答えを出すのを待っているようだ。確かに今選択を間違えれば、最悪ミランダが死ぬ危険性がある。本当に二人をこのまま生かして返しても良いのだろうか。
他のメンバーは何も言わず、オリバーが結論を出すのを待っている。ミランダはオリバーの姉である。余計な口出しをするよりも、オリバー本人が決める事だと考えているのだろう。
再度オリバーは考えた後に自分の結論を口に出した。
「俺たちが駆けつけた時の状況を考えると、俺達が駆けつけなければ、ミランダは死んでいた。だから、もしも悪魔憑き扱いされて処刑されるような事になったとしても、ミランダは俺たちを恨んだりしないと思う」
オリバー達が駆けつけた時に、ミランダは空賊に襲われて死にかけていて、オリバー達はそれを助けた。言い換えるならば、オリバー達が居なければミランダは空賊に襲われて死んでいた。そうであれば、例えオリバー達のせいで死ぬことになったとしても恨むような事はしない。だからこそ今は二人を悪魔憑きにするよりも、生かして返すべきだとオリバーは考えていた。
「処刑されても構わないって事? にーさんは諦めきれるの?」
ミランダがオリバー達を恨むかどうかと、オリバー自身がミランダを諦めきれるかは別の話だ。
いくら一度助けたとはいえ、結果的に自分の所為でミランダが処刑されたとしたら、オリバーは受け入れられるのか。
「それは違う。我儘かもしれないが、俺のせいでミランダが処刑されたってなるのは避けたい。俺はお尋ね者だから、俺がミランダを助けたら、ミランダも同じような扱いを受けるかもしれないっていうのは薄々分かってた。それでも、目の前でミランダが死にそうになってたら、そのまま見捨てるなんてことは出来なかった」
オリバーは、ミランダを死なせたくなかったから助けたのだ。それを自分が助けた事が原因で結果的に処刑されても、どの道死ぬ運命だったからと諦められるかと言われればやはり無理な相談であった
「でも二人とも生還させるんでしょ? さっきの返事はそういう事だよね?」
いくらミランダの身の安全を確保するためとはいえ、あの女魔術師の口封じをすることやはり賛成できなかった。
だからこそ、二人を生かして狩る事をオリバーは選んだのだ。
「そうだ。二人とも生還させる。だからこの状況で、ミランダもあの魔術師も無事に生還させて、さらにミランダに俺達との繋がりが疑われるような状況になるのは避けたいって言うのは無理なのかもしれない」
女魔術師の口から、オリバー達と会った話が漏れるのは間違い無いだろう。二人を生かして返す事と、ミランダの身の安全を確保する事は両立しない。
「それで、悪魔憑き疑惑が掛けられたらどうするつもりなの?」
恐らくはミランダには悪魔憑きの疑惑がかけられるだろう。
だとしても、ミランダが処刑されることになったとしたら、それを黙って見ているつもりは無かった。
「本当にミランダが処刑されそうになったら、俺の時の様に救出したい。だからその時は協力してくれるか?」
二人が生還した後に、ミランダに悪魔憑きの疑惑が掛けられるかどうかは、二人の行動次第だ。二人の証言や裁判の結果にオリバー達が介入することは出来ない。少なくとも悪魔憑き認定され、処刑されるという話になれば、それはオリバーの時と同様に公開処刑となるだろう。
そうなればオリバー達の手で救出する事ができる。
幸か不幸か、オリバーは処刑場から脱走した実績がある。同じ手を使えばまた逃がす事はできるはずだ。
「それって、私にこの前と同じことをやれって事?」
リリアもこの前の脱走劇を思い出したのか口を挟んで来た。
「そうだ。頼めるか?」
オリバーは話が早くて助かると言わんばかりに、リリアに頼み込む。
「私は構わないわよ」
まだミランダに悪魔憑き疑惑が掛けられると決まったわけではない。それで最悪の事態になった時の助力を約束してくれるというのは心強い。
「処刑場から救出するっていうのは、こっち側になるって事だよ。それでも助けるの?」
ヴァネッサが念押しをするような質問をする。
仮に脱走させたとしたら、間違いなくミランダは悪魔憑き扱いされる事になる。
「ああ、死なせるぐらいなら、こっち側に来た方がいい。でも今はまだその段階じゃない。魔術師を殺すのも無しだ」
処刑されるのであれば、オリバーと同じお尋ね者になったとしても助けたい。しかし今はまだそこまでする状況ではない。まだミランダが処刑されると決まった訳では無いのだ。何事も無くミランダが騎士に復帰できるのであればその可能性に賭けたい。それがオリバーの考えた結論だった。
「そこまで考えてるなら、あたしは反対しないよ」
ヴァネッサはオリバーの考えに納得したのか、それ以上は反対しなかった。
「みんなもそれでいいか?」
他の四人も反対する理由が無いのか、すんなりとオリバーの意見に同意した。
「それで、生かして返すとなるとあの二人を運ぶ事になるけど誰が運ぶの? 寝かせておくならあたしが魔術でやるけど、運ぶのは無理だよ」
人一人となるとそれなりに重さがある。それを二人分。運ぶのはそれなりに労力が居る。皆、考えた事は同じだったのだろう。一人、二人とルーベルの方を向き、やがてルーベル以外全員がルーベルを見ていた。
「ゴーレムなら二人ぐらい運べるよな?」
皆の意見を代弁したのはオリバーだった。
「分かったわよ。やるわよ。仲間になって最初の仕事が荷物持ちとは思わなかったわ。でも、今日中に出発するの?」
ルーベルは渋々と言った様子ではあったが承諾してくれた。
「そうだな、早い方が良い。あまりあの二人を寝かせておくと、騎士団が捜索に別の部隊を派遣してくるかもしれない」
既に二人を寝かせてから一夜明けている。元々の任務がどれぐらいの期間を想定していたのかは不明だが、あまり長い間音信不通にあっていると、捜索として新たな部隊がこの森に来る恐れがある。
「仕方ないわね。まあ、あの二人を運ぶぐらいのゴーレムならすぐに用意出来るけど、荷物をまとめるから昼ぐらいまでは待って」
ルーベルはこの隠れ家を完全に封印するつもりなのだ。多少の荷物整理は必要だろう。
「ああ、分かった」
そして、その日の内に、オリバー一行は、隠れ家を後にした。
次話は1/20に投稿予定です。