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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[3-11] 正体

 余程言いたく無い事なのか、リリアの言っている事は今一具体性に欠ける。昔何かが起きたことは分かるが、失敗した結果何が起きたのかが全く分からない。

 リリアは先ほど明確に、後遺症ではないと言った。後遺症ではなく失敗したというのは相手が死んでしまったという事だろうか。

「でも助けようとしたんだろ? 助けようとして失敗したなら、見て見ぬ振りをして相手を見殺しにするよりも、立派なことじゃないか?」

 その時は失敗したと言っても、オリバーもミランダも実際に助かっている。一体何を言いにくそうにしているというのか。

「そうかもしれないけど…」

 そこで言葉を濁そうとしたリリアに、ヴァネッサが業を煮やして声をかける。

「ねーさん、大事なのはその先でしょ。相手はどうなったの?」

 治療に失敗したのであれば、その相手は亡くなったのだろうと考えていたオリバーの予想を超える言葉が、リリアの口から発せられた。

「化け物に、なったのよ」

 オリバーの頭の中が一瞬真っ白になった。放っておいて死ぬぐらいなら、助かる可能性に賭けたいと思っていたが、死ぬよりも悪い可能性があったと、そうリリアは言ったのだ。

「化け物? どうして治療をすると化け物になるんだ?」

 リリアの言っている言葉が理解できずに、オリバーはそのまま言葉を返す。リリアはそんなオリバーに状況を理解させようと説明を続けた。

「再生のスキルは、傷ついたり、欠損したりした体の部位を再生させるスキルで、本来は自分にしか使えない。自分の体っていうのは自分が一番分かってるから、失敗する事はほとんどないし、使ってる内にスキルの使い方に慣れて来るから、使えば使うほど失敗する事も減ってくる。でも自分以外の体っていうのは自分の体よりも状態の把握が難しいし、そもそも共有と再生のスキルを同時に使うっていうのも難しい。なにより死にかけの誰かに対して共有と再生のスキルを同時に使うっていう練習がまずできない」

リリアが言った事を端的に言い表すのならば、こうなるのだろう。

「つまり、扱いの難しいスキルを、練習なしに使ったって事か?」

 その表現が的を射ていたのか、リリアは少し驚きながらも、否定はしなかった。しばし沈黙が流れ、リリアが重々しく口を開く。

「そうよ」

 オリバーは、リリアに失った腕を再生してもらった経験から、それはリリアにとっては簡単な事なのだろうと、無意識に決めつけていた。その前提が崩れた。

 言われてみれば、先ほどミランダを見つけた直後にリリアはヴァネッサに任せた方が確実だと言っていた。つまりリリアのスキルはヴァネッサの治癒魔術よりも成功確率の低い方法である事はリリアも自覚していたのだ。

 治療が終わった今となっては、言ったところで仕方のない事だが、リリアが言おうとした事をオリバーは言葉として口に出す。

「あれは、そもそも成功確率の低い治療方法だったって事か?」

 最早観念したのか、リリアは間を置かずに答えた。

「そういう事よ」

 リリアに明確に肯定され、オリバーはショックを隠し切れなかった。それでも今は確かめなければならない事がある。

「再生に失敗したら傷が治らないだけじゃないのか?」

 先ほどのリリア話はあくまでも成功率が低いという事だけだ。

 スキルの扱いが難しいというのは理解できたが、それが化け物になるという話にはオリバーにはつながらなかった。リリアはさらに説明を続ける。

「再生っていうのは、本来は正常な姿に戻すためのスキルだけど、過剰に使うと本来とは異なった姿になってしまうの。再生というよりも変異に近い効果になるのよ。だから再生のスキルを失敗すると、化け物になるの」

 オリバーにとって再生スキルと言うのは、治癒魔術の上位互換となる治療方法だと思っていたが、そのような単純な話では無かったようだ。

「それってつまり…」

 成功確率の低い治療方法。それをオリバーは受けて運よく成功した。さらに、再びそれをミランダに受けさせた。これも運よく成功した。しかし、もしも失敗したら化け物になっていたかもしれないという。

 ここに来てようやくオリバーは状況が飲み込めたのか顔が青ざめてきた。リリアもオリバーの心中を察したのかそれ以上は言おうとしなかった。だがヴァネッサがハッキリとそれを言葉にして口に出した。

「最悪にーさんも、そこの女騎士も化け物になってたって事だよ」

 リリアはその言葉を否定せず、ただオリバーの反応を見ている。オリバーもここまで説明されれば、言われなくとも分かっていた。ただ言葉に出したくなかっただけだ。それでも最悪の可能性を言葉にされてしまうと、否定したくなってしまう。

 リリアは何も言わない。だからこそ、次に口を開いたのはオリバーであった。

「それでも、助けようと、してくれたんだろ?」

 自分とミランダを助けてもらった事に対する感謝と、失敗したらどうなっていたかという思いが入り混じり、隠しきれない動揺となって声の震えとなって現れている。

「そうよ」

 リリアも罪悪感を感じているのか声に覇気がなく、目を合わそうとしない。

 一通り説明が終わったからか、リリアはそれ以上何も言おうとしなかった。場の空気を察したのかギルスも口を挟もうとしない。

重苦しい空気の中、オリバーの視線がミランダに向いた。傷は正常に塞がり、呼吸も安定している。

「俺も姉さんも正常に治ったんだよな?」

 そう、これだけは確かめておかなければならない。オリバーもミランダも今は生きている。それは正常に治ったという事でいいのか。

「そうよ」

 リリアは余計な事を言わず、ただ簡潔にオリバーの質問だけに答えた。

「じゃあ…」

 何かを言おうとして、オリバーは言葉に詰まった。果たして何を言えばいいのか。

 何も問題無いとは言えなかった。確かにオリバーもミランダもリリアのスキルで命を救われたのは事実である。しかし、最悪の場合死ぬよりも悪い結果になっていたかもしれないと分かってしまっては、それが果たして良かったのか。

 かといって、今更死んだ方がマシだったなどと言う事は許されるのか。スキルを使ってくれと頼んだのは他ならぬオリバー自身である。

「一応言っておくとね、スキルを失敗したっていうのは、相手が同族のサキュバスだったのよ。キュバスの特性として、人間に対して共有スキルを使うのは上手くいく可能性が高いから、あの時よりは成功する確率は高かったわ」

 先ほどの説明は再生スキルに関わる話であったが、共有スキルに関する話はなかった。

 今になって、共有スキルであれば成功率は高いと言われても、再生スキルと合わせて行うのが危ないという話をされた後では胡散臭く感じてしまうし、その言葉が言い訳をしているように聞こえてしまうのは、オリバーの気のせいなのだろうか。

 再生スキルの話では練習をすれば上達するという話があったが、そうなると一つ気になる事がある。

「俺以外に、共有スキルを使った相手がいるのか?」

 オリバーとしては出合う前のリリアが何をやっていたかは全く知らない。オリバー以外の人間に対して、共有スキルを使う練習をして、共有スキルの精度を上げる事をしていたのだろうか。

「あ、いや、それは…」

 痛い所をつかれたのか、リリアは答えを即答できなかった。

「はっきり答えてくれ」

 その反応から、薄々答えは分かっていたが、それでもオリバーはリリアの口からはっきりと答えを聞く事を望んだ。

「無いわ」

 その答えはオリバーが予想した通りの答えであった。

「じゃあ、人間以外に使ったのか?」

 共有スキルを使う練習をして、スキルの練度を上げていたというならば、話はまだわかる。とはいえ、今のリリアの反応から、それは無いであろうことは薄々分かっていた。

「それも無いわ」

 案の定、リリアの口からは否定の回答が返ってきた。それでも、この際はっきりと聞いておきたかった。話の流れを整理して、もう一度オリバーは質問をする。

「つまり失敗がトラウマになって、共有スキルはそれ以降誰にも使わなかった。そんな状況下で瀕死の俺を見て、久々に共有スキルを使ったって事か?」

 思い返せば、あの時のリリアはオリバーの腕が再生したのを見て、驚いていたような節があった。

「そうよ」

 今までのやりとりから、薄々そうだろうとは予想できていものの、これにはオリバーは苦笑いをするしかなかった。

 一体自分がどれだけ危ない橋を渡ったのか。そしてそれと同じことを姉に対してもやってしまった。

 どうして言ってくれなかった? それは少し考えれば分かる。死の淵から生還した人間に対して、「運が悪ければ化け物になっていたかもしれない」などとわざわざ言うだろうか。

 あの時のオリバーはリリアが治療しなければ確実に死んでいた。それは間違いない。つまりはオリバーはリリアに命を救われたという事実は変わらない。ただ、万が一の可能性として、治療に失敗したら化け物になっていたという可能性を知らなかっただけだ。

そして、その事実を知った今、ミランダに対しても同じことをしてしまったのは正しかったのかという疑問が生まれる。

ミランダもあのままでは死んでいた。この事実を治療を行う前に知っていたら、オリバーはそれでも治療を行うという選択をしただろうか。先程はこの事実を知らなかったから助けて欲しいと、スキルを使って欲しいと頼んだ。化け物になるリスクがあると知っていたら同じように頼んだのだろうか。それは今となっては分からない。

過ぎてしまった事を今さら言っても仕方がないのかもしれないが、それでも最悪の可能性があるのであれば先に言って欲しかったと思ってしまうのは、傲慢なのだろうか。

 助かって良かったという思いと、最悪どうなっていたのかという思いと、何もせずに死ぬのを見るよりは助かるかもしれない可能性に賭けた方が良かったという思い。果たしてどれがオリバーの本心なのか。

 オリバーの取った行動は、結果としてミランダの命を助けた。それでも最悪の場合どうなっていたかを考えると、この行動を正しかったと言い切る事は誰が出来るのだろうか。

 ふとオリバーはヴァネッサに視線を向ける。

 ヴァネッサもこの事を知っていたのだろう。以前からリリアの過去について知っているような事は言っていたが、それをオリバーには話したりせずに知りたければ本人に聞けと言い続けた。確かにヴァネッサから言われるよりも、リリア本人の口から言われた方が、ショックは少なくて済んだだろう。

「少し、気持ちを整理させてくれ。今はルーベルを探すのを優先しよう」

 ここは森の中だ。いつ魔物が襲ってくるかも分からない。それに先ほど撤退した魔物が戻ってくる可能性も否定できない。ここで考えを巡らすよりも、先にルーベルを見つけて隠れ家に行った方が良い。オリバーはそう考えた。

 それは結論を出す事を先延ばしにしただけなのかもしれないが、そう簡単に結論をだせるような内容では無かった。

「その前に、その女騎士どうするの? 置いてくか、連れてくかにーさんが決めてよ」

 ヴァネッサがミランダを指さしながらオリバーに問いかける。

 このまま気を失った状態で森に残しておくのは危険だが、かといってお尋ね者であるオリバーたちと行動を共にしてはミランダにもあらぬ疑いがかかる可能性がある。果たしてどちらにすべきか。

 それに先ほどヴァネッサが眠らせた魔術師もこのままという訳にはいかない。

 一瞬の迷いはあったが、この森の中で、気を失った二人を放置すれば、またあの魔物が戻ってくるかもしれない。そう考えると、ここに残しておくことはできなかった。

「あの魔術師も含めて、連れて行こう」

 オリバーが、そう言った直後、リリアが警戒心が籠った声を放った。

「ねえ、安心するのはまだ早いみたいよ」

 リリアが森の向こうをみつめている。

「何か来るね」

 ヴァネッサもまたそちらを見ていた。

 足音が聞こえる。先ほどの空賊とは違い、足音の一つ一つの間が大きい。これはまるで二本足の大きい何かがこちらに近づいてきているようだ。

「まあ、あれだけ騒げばそりゃあ向こうからくるよね」

 ギルスはそれが何か察しているようだ。騒ぐという言い方はオリバーにしてみれば心外ではあったが、オリバーが使った魔剣の力で周りの気を切り倒し、周りに聞こえるような音を立てたのは事実であった。

 ほどなくしてそれが木々の間から姿を現す。

 二本足で直立し、土で出来た体。ゴーレムだった。


 ●


 現れたゴーレムの体は、大の大人より一回り大きい程度だろうか。動きがゆっくりとはいえ、それがこちらに歩いて来るというのはかなりの威圧感があった。

「大丈夫なんだよな?」

 オリバーはそうギルスに言いながらも、剣を構え警戒を解いていない。

「ああ、僕がいるから攻撃はしてこないはずだ」

 ゴーレムはギルスを認識しており、ギルスと行動している限りゴーレムは攻撃してこない。それがギルスからはそう聞いていた。だとしたら何故こちらに歩いて来るのだろうか。

 オリバーはふと思いついた可能性の一つを口に出す。

「迎えに来たのか?」

 ゴーレムに危害を加える意図がないという前提で好意的に解釈するのであれば、ギルスが居る事に気が付き、迎えに来たというのが妥当なところだろう。

「いや、ゴーレムが僕の居場所を探知する機能は無いはずだから、多分さっきの騒ぎで様子を見に来たんだと思うよ」

 あのゴーレムがこの森の警護用と言うのであれば、騒ぎがあった場所に様子を見に来るというのは頷ける。

「僕だよ! ルーベル! 見てるかい!?」

あのゴーレムも、ヴァネッサが使い魔と視界を共有していたように、ルーベルと視界を共有しているのだろう。

 ギルスが手を振りながらゴーレムに向かって駆け寄り呼びかける。しかしゴーレムの様子に変化は無く、依然としてこちらに向かってきている。

 その距離はどんどん短くなり、やがてゴーレムはギルスの前で立ち止まる。

「本当に、大丈夫なんだよな?」

 オリバーは内心ゴーレムがギルスを攻撃するのではないかと気が気でなかったが、その心配は杞憂に終わった。

 ゴーレムはギルスをじっと見降ろすだけで攻撃はしなかった。

 しかしすぐにオリバー達三人に向かって歩き出す。

「いやいや、彼らは敵じゃないよ!」

 ギルスはそう言うが、ゴーレムは動きを止めようとしない。

「攻撃してもいいわよね?」

 リリアが自分の近くに火の玉を生成し、直ぐにでも攻撃できる体制を整える。リリアはゴーレムが自分を攻撃するために近づいてきていると思っているのだろう。だとするならば、接近される前に攻撃して破壊するという事か。

「あー、これはルーベルのゴーレムだからあんまり攻撃はしないでほしいんだけど」

 それは以前聞いた話であり、全員が承知してはいるものの、いざ迫ってくるゴーレムを目の前にして言われても無理な話だ。あのゴーレムがどのような能力を持っているのかは分からないが、あの巨体で殴られたら無事では済まないだろう。

「だったら止めなさいよ!」

 リリアが腹立たしげにギルスに叫ぶ。ギルス以外の三人は攻撃されるか否かの瀬戸際なのだ。攻撃しないでほしいというギルスの呑気な要望を飲んだら、こちらがどうなるか分からない以上、飲めるはずがない。

「いや、僕には無理だよ。ルーベルの言う事しか聞かないんだ」

 それでもギルスはまだ呑気な言葉を返す。ギルスにはこのゴーレムを止める事はできないらしい。

「ならしょうがないわね」

 このまま攻撃されるぐらいであれば、先手を打ってゴーレムを破壊する方が良いと考えたのだろう。リリアが火の玉を射出しようとした。

「停止!」

 何者かの声が聞こえた。それを合図にして、ゴーレムは時がとまったかのように動かなくなった。

 オリバーはその声には聞き覚えが無かった。

「誰だ?」

 声がした方向を見ると、今まで隠れて見ていたのか、森の奥から一人の人物が姿を現した。その姿をみて、ギルスの顔色が変わる。

「近くで見てたなら、もっと早く出てきて欲しかったなあ」

 説明されずとも、彼女の尖った耳を見れば、彼女がエルフである事はギルス以外の者にも直ぐに分かったが、オリバーは念のために、ギルスに問い質す。

「そのエルフが、あの隠れ家の住人でいいのか?」

 エルフであり、尚且つゴーレムの動作を止める事が出来る者は一人しかいない。

「ああそうだよ。彼女がルーベル。僕の知り合いのエルフだ」


次話は9/16に投稿予定です。

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