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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[3-12] 錯綜

 リリアがゴーレムに向かって攻撃をする寸前に、自ら姿を現したルーベル。それを見たギルスはルーベルの近くに駆け寄った。

「どうして隠れてたんだい?」

 ギルスは同胞の無事に安堵しつつ、隠れていた理由を確認する。あのタイミングで声を出したというのは隠れて見ていたと考えるのが普通である。

「あなたが居たのは気が付いたけど、人間と一緒だったし、どういう関係か分からなかったから。しばらく様子を見てた方がいいかと思って」

 どうやらルーベルは人間を信用していないようであった。確かに人間社会の中ではエルフというのはあまり見かけない。人間であるオリバーと普通に接しているギルスの方が、エルフとしては異端なのだろう。

「彼らは協力者だ。警戒しなくてもいい」

 人間を警戒するルーベルに対して、ギルスはオリバー達は敵意が無い事を告げる。

「でも人間よね? 魔族も居るみたいだけど」

 その言葉にヴァネッサが反応した。

「盗み聞きしてたの?」

 ヴァネッサからすれば、魔族である事はあまり口外したくはない事であり、黙って聞かれることに対する嫌悪感があるのだろう。先ほどの口ぶりからするにエルフには知られても特に問題は無い様であるが、自分が気が付かない内に話を聞かれていたという点では嫌悪感んがあるのだろう。

「そうよ。様子を見てたって言ったでしょ」

 ルーベルからすればギルスは知り合いであっても、オリバー達三人がギルスとどのような関係であるかは直ぐには分からなかった。だからこそ様子見をして、オリバー達がギルスにどうするか

「あのゴーレムであたし達を攻撃する寸前に見えたけど?」

 リリアもゴーレムに対し、自衛のために攻撃する直前であったが、ヴァネッサとしてもあのゴーレムには敵意があるように見えたようだ。

「試しただけよ。もしもギルスを盾にしたら、あなた達を敵とみなしてたわ。でもそれは違ったみたいね」

 どうやらオリバー達とギルスが協力関係である事は認めるようだ。

「人間と魔族でも彼らは僕たちを攻撃したりしないよ」

 口では敵ではないと事を認める言いつつも、棘のある態度を取るルーベルに対してギルスは重ねてオリバー達が敵ではない事を説明する。

 そこへ、リリアが口を挟む。

「いつからいたの? 全然気が付かなかったけど」

 魔術師であるリリアは周囲の魔力の変化は感知できる。エルフは一般的には高い魔力を有しており、それが近くに居るのであればリリアにも分かるはずだが、これほど近づくまで気が付かなかったのは彼女にとっては意外であったのだろう。

「一応気配と魔力を消す魔術は習得してるわ。人から隠れて生活するには必要だからね。今みたいにゴーレムを使って注意を逸らす時にも使える」

 ルーベルはリリアの疑問の種を明かした。長年森に隠れ住む上で、自らの存在を隠すような魔術は必要不可欠だったという事だろう。

「とりあえず、隠れ家に行こうか。彼らの協力もあるし、もうすぐマリルを助ける事ができるよ」

 ルーベルの知り合いであるギルスが、この場をまとめようとする。

 ルーベルと合流できたとなれば、ここに長居は無用である。当初の目的を果たすためにも治療の道具が置いてあるというルーベルの隠れ家に向かった方が良い。それはオリバーも同意見だ。

「帽子、追尾針出して」

 しかし、ヴァネッサはギルスの発言とは全く異なる主旨の発言をした。

「いや、もうルーベルとは合流したんだから今出してもしょうがないよ」

 追尾針はルーベルの居場所を指し示す道具であり、ルーベルと合流した今となっては使う必要のない道具のはずだ。それを出せというヴァネッサの発言に対し、ギルスは困惑気味に返す。

「出せないの?」

 なぜ今追尾針を出すのか分からないギルスと対照的に、ヴァネッサの問いは有無を言わさない語気が含まれていた。

「いや、出せるけど」

 ギルスはヴァネッサに押しに負け、追尾針を出す。

「これでいいのかい?」

 ギルスの手の上で、追尾針は確かにルーベルの方を向いていた。ヴァネッサはそれを確かめるとこう言った。

「もういいよ」

 そのあっさりとした言葉にギルスは拍子抜けしたようだ。

「え? 何か今の意味あった?」

 ヴァネッサが何をしたかったのか理解できないといった感じのギルスだが、ヴァネッサはそれを説明しようとはしない。相変わらずの塩対応である。

 ギルスの疑問に答えたのはヴァネッサではなくルーベルだった。

「それが本当に私を指していたのか確かめたんでしょ」

 言われてみれば、あの針が本当にルーベルを指しているかどうかはルーベルに会うまでは分からなかった。

「ああ、そういう事か。用心深いね」

ギルスもルーベルの言葉を聞いて、納得した様子であった。オリバーとしてはそんな嘘はつかないだろうという思いで、ギルスの言う事を信じていたが、ヴァネッサからすれば実際に見てみないと信じられなかったため、ルーベルと合流したタイミングで、本当に追尾針がルーベルの方向を向くか試したという事か。

「私も見せた方が良いかしら」

 そう言ってルーベルは左腕にしていた腕輪を見せる。そこには一つの石が埋め込まれている。恐らくはあれが針向石だろう。とはいえオリバーにはあれが本当に針向石かどうかは分からない。

「それ、貸してもらえる?」

 ヴァネッサも同じことを思ったのだろう。

「それは疑い過ぎじゃないのか?」

 オリバーは思わず、ヴァネッサの行動を咎めるような言葉を口にする。ギルスの目の前で、お前の事を疑っているというような言動を取るのは露骨すぎるような気がしたからだ。

「用心に越したことはないよ」

 しかしヴァネッサとしては未だギルスの事を完全に信用した訳ではないため、これぐらいは確かめて当然と考えているようだ。

「いいわよ。これぐらい」

 ルーベルは腕輪を外すとヴァネッサに手渡す。

 ヴァネッサはそれを受取ると、ギルスに近づき、腕輪の位置を動かして、本当に追尾新が腕輪の向きを向くのか確かめている。

「本物みたいね」

 そう言いながら、ヴァネッサは腕輪をルーベルに返却した」

「分かってくれて何よりだわ」

 若干皮肉めいた返事をしながら、ルーベルは再び腕輪を左腕にはめた。若干ギスギスした雰囲気がある中、話を進めたのはルーベルの知り合いであるギルスだった。

「ところで、どうしてここまで来たんだい?」

 ギルスがルーベルに対してここに来るまでに持っていた疑問を問いかける。

 先ほどギルスはルーベルはあまり隠れ家から離れたりはしないと言っていた。わざわざここまで来るのには特別な理由があるのだろう。

「あの大きい魔物を追ってたのよ。自分の目で見ておきたかったからね。逃げられたけど」

 オリバーが駆けつけた時に、魔物は七匹居たが、その内の一体は明らかに体格が大きかった。

「大きい奴って?」

 しかしその魔物はギルスが来る前にオリバーが追い払ってしまった。実物を見ていないギルスには何のことか分からないようだ。

「さっきまで大きい狼みたいな魔物がいたのよ」

 そんなギルスに対してルーベルは状況を説明する。

「さっきって事は、僕が来る前にはその大きな魔物が居たって事かい?」

 ようやくギルスは状況が飲み込めたようだ。

「そうよ。あなたが来る前にその人間が追い払ったから、あなたは見てないかもしれないけど、その前には居たのよ。」

 ルーベルが言っている事には間違いはないのだが、オリバーは一つ勘違いをしていた事に気が付いた。ルーベルはゴーレムの製作者だ。だからゴーレムがここに来た前後にこの場所に来たのだと思っていた。しかしオリバーがあの大きな魔物を魔剣で追い払ったのはゴーレムがこの場に現れるかなり前だ。

「いつからいたんだ?」

 オリバーが大きな魔物を魔剣で追い払うところを見ていたという事はゴーレムが来るよりも前には、ルーベルはこの場に居たという事になる。それはいつなのか。その疑問をオリバーは直接問い質した。

「私はあの大きい魔物を追ってたのよ。だからあなたがここに来るよりも先に、あの大きな魔物を監視してたわよ」 

ルーベルにとっては悪意は無かったのだろう。だがその言葉はオリバーにとって言い換えると別の意味になってしまう。

「姉さんがやられるところを見てたのか?」

 オリバーが来る前に居たという事は、当然ミランダがやられるところを見ていたという事になる。

「姉さん? あの女騎士の事?」

 そう言えば、まだミランダがオリバーの姉である事はルーベルには説明していなかった。

「そうだ。あの人は俺の姉だ」

 オリバーははっきりとミランダが自分の姉である事を告げる。しかしそれを今言った所でルーベルがいつからここに居たのかという事実が変わる訳ではない。

「そう。あなたの姉がやられるところを見ていたのは事実よ」

 それをルーベルはまるで何事もないかのように言った。

「見てるだけで、助けなかった?」

 オリバーからすれば、ルーベルの行動は理解できなかった。目の前で人間が死にそうになっているのに、それを見ていただけ。さらに自分の行動が当然であったかのように口にする。

「あなたは知らないかもしれないけど、この人間達は私のゴーレム一体を破壊したのよ?私からすれば侵入者であり破壊者よ。助ける理由が無いわ」

 それは初めて耳にする情報であった。ミランダ達はここに来るまでにゴーレムを一体破壊していたようだ。

 ゴーレムの作成者であるルーベルからすれば、ゴーレムを破壊したミランダ達を快く思うはずがない。ギルスの話によればルーベルは自分の居住区域に近寄ってくる侵入者をゴーレムを使って追い払っている。それを破壊したという事は侵入者でもあり、破壊者でもあるという事だろう。

 しかし、この森にルーベルが住んでいるという事はミランダ達の与り知らぬ事だ。それを一方的に縄張りに入ったから攻撃するというのは、正当性を認められるのだろうか。

「侵入者は言いすぎだろ。騎士団の任務で来たんだぞ」

 オリバーからすればミランダ達は騎士団に所属する騎士である。おそらく騎士団の任務としてこの森に来たのだろう。それを侵入者と呼ぶ事には元騎士のオリバーとしては納得できなかった。

「そんなの人間の都合でしょ。私には関係ないわ」

 ルーベルからすれば、騎士団の任務は与り知らぬ事。単純に自分の居住区域に近づいたから追い払おうとした。それだけの話になるのだろう。

「本気で言ってるのか?」

 一切悪びれる様子のないルーベルを見て、オリバーは信じられないようだ。

「あなたは自分の家に見知らぬ相手が入ろうとしてたら、黙って見ているの? 泥棒かもしれないのに?」

 それでもルーベルは自分の居住区域に入ってくる人間を追い払う事は正当な権利である事を主張する。

「森はお前の家じゃない。そもそも人間がこの森にお前が住んでいる事を知っているのか?」

 オリバーにとっては森が誰かの所有物という考えはない。森に入ったら攻撃されるというのがそもそもおかしな話である。

「それを言うなら、森に棲むのに人間の許可を取れとでもいうつもりかしら。それとも私に人里に下りて、「ここは私の住んでいる森なので近づかないでください」って交渉しに行けとでもいうつもり?」

 一方のルーベルは森に棲む事と、侵入者を撃退する事が正当な権利であるという考えを崩さない。さらに森に棲む事に対して人間に対して許可が居る事の方がおかしいという考えのようだ。

 何度も問い質すオリバーに対し、回答するルーベルの語気は回数を追うごとに強くなっていく。ルーベルもまた、相手との会話がかみ合わないと思っているのだろう。

「いや、それは…」

 オリバーからすれば、この近くにルーベルというエルフがいて、そのエルフが作ったゴーレムが警備用として巡回しているのはギルスから聞かされていた。しかしミランダはそれを知っているだろうか。如何なる理由でゴーレムを破壊したかは今のオリバーの知るところではないが、それはルーベルからすれば自分の所有物を壊されたという事になる。

 瀕死の人間を見ても助けないという点については納得がいかないが、そういう経緯があるのであれば、ルーベルを責める事は出来ないし、ルーベルが人間を警戒するのにも納得がいった。

 それ以上の反論をしようとしないオリバーを見て、さらにルーベルが愚痴をこぼす様にこう言った。

「だいたい、せっかく弱った個体を泳がせて様子を見てたのに、邪魔してきたのはこの人達よ」

 ルーベルの考え方にもある程度理解をしようとしていたオリバーであったが、再度ルーベルの口から不審な単語が出てきた。

「泳がせていたってどういう事だ?」

 ミランダがゴーレムを破壊した以外にも、まだ何か他の背景があるのだろうか。

「あの大きい奴は前にも見たことがあるのよ。その時は、まるで弱った個体を回収するみたいな動きをした。だから弱った仲間を助けに来るかもしれないと思って、おびき寄せるためにわざと弱った奴を泳がせてたのよ」

 唐突に話されたこれまでの経緯。どうやらルーベルからすればミランダ達が調査の邪魔をしたという扱いになっているようだ。

「そこにミランダ達が出くわしたって事か?」

 オリバーが駆けつけた時には、ミランダは既に気を失っていた。ルーベルが言う邪魔をしてきたという話は、それより前に、ミランダ達は傷づいた固体と遭遇して戦闘したという事になる。確かにオリバー達が森に入ってから金属音を聞いたのは複数回あった。あれはミランダ達が、ゴーレム、弱った個体、大きい固体と順に戦闘していたという事だったのだろう。

「そうよ。しかも生け捕りにして持って行こうとした。まあ、私としては結果的にあの大きい奴が出てきたから、私の仮説の裏付けができたから、それでいいけどね」

 ルーベルとしては、邪魔は入ったが最終的には結果が出たため問題無いという考えのようだ。しかし、オリバーとしては聞き捨てならなかった。

「それはミランダが襲われる可能性があるのを分かって見てたって事か?」

 ミランダは先ほどまで死にかけていた。その原因を目の前のエルフが作ったという事になる。

「そうよ。どうなるか見たかったし。まあ、予想通りの結果だったけどね。」

 ルーベルが大きい固体をおびき寄せるために、傷ついた固体を泳がせていた。それにミランダ達が遭遇し戦闘になった。ミランダ達は戦闘の結果傷ついた固体を生け捕りにして持ち帰ろうとしたところ、大きな個体が救出しに襲い掛かってきた。それは、言い換えるのであれば、ミランダは巻き込まれたという形になるのではないか。

「予想通り、襲われても、それでも助けなかった?」

 まったく悪びれる様子の無いルーベルに対し、オリバーの心に沸々と負の感情が湧き上がってくる。

「助ける理由がないでしょ。私はあの大きい奴が弱った奴を助けに来るかを見たかったのよ。助けに来るのが見れた時点で、私の目標は達成されてるの。」

 ルーベルの目的は魔物の行動観察である。そこに人間が巻き込まれようと、魔物がどう行動するかさえ見れれば良い。だからルーベルが人間を助ける理由は無い。それがルーベルの考え方だろう。

「人が死にそうになってるのに、助ける理由がない?」

 それでもオリバーとしては理解できなかった。魔物に襲われている人間を目の前にして、助ける理由がないと断言するエルフの思考回路が。

「私はエルフよ。どうして人間を助けるの? ゴーレムを破壊した侵入者ならなおさらよ」

 ミランダは騎士である。しかも仲間らしき人物も同行していた。となると騎士団の任務でここに来ており、騎士団の任務としてゴーレムを破壊した可能性もある。通常騎士団は魔物に対する任務を行わないが、オリバーが騎士団を離れてからある程度時間が経っており、騎士団の方針が変わったという可能性も捨てきれない。

オリバーにとっては、騎士団の任務として行動したミランダを侵入者と言われるのは、例えルーベルがこの近くに住んでいるエルフだと分かっていても良い気はしない。加えてミランダが死にかけていたのを目にしていたにも関わらず助ける理由が無いと断言される。ここまで来るとオリバーは怒りを通り越して理解の出来ない何かとしてルーベルの事を見ていた。

 ルーベルもまた、エルフである自分に、人間を助ける事が当然であると言うオリバーの言っている事が理解できないのだろう。

 考えの相容れない二人が、一触即発の雰囲気になったところでギルスがフォローに入った。

「ルーベル、さっきの話を聞いていたなら知っていると思うけど、あの女騎士はオリバー君の姉なんだ。君がゴーレムを破壊されたのも分かるけど、彼女をただの侵入者として扱うのは止めてくれないか」

 ある程度オリバーと行動を共にしていたギルスからすれば、ミランダはただの人間ではなく仲間の姉になるのだろう。

「そうね。でも、やられてるのを見てた時は、まさかギルスがあの人間の兄弟を協力者として連れて来るなんて、知らなかったわよ」

 それを今更知らされたところで、ミランダが魔物と戦っていた時点では、ルーベルからすればミランダは一人の侵入者にしか見えなかったという事実は変えられない。

「オリバー君、姉が死にそうになって気が動転してるのはわかるけど、本来エルフは人間には干渉しない。自分から人間に接触した僕が特殊なだけで、ルーベルの反応がエルフとしては一般的だ。それは分かってほしい」

 ギルスはオリバーの肩を持つ発言をした直後に、今度はミランダを擁護する発言をした。エルフにはエルフの事情があるという事だろう。

 オリバーは騎士として、弱い者を守るのは当然と教えられた。ましてや死にそうになっている人がいたら、助けるのは当然だと思っていた。それをエルフが人間を助ける理由が無いと断言したルーベルと、さらにその方が一般的なエルフの考え方だと言うギルスが、オリバーには信じられなかった。

 オリバーはギルスの事を、エルフだからという理由で、人間ではないからという理由で見捨てる事は無かった。ガエラを共に討伐するという条件付きではあったが、結果的には協力関係になった。それをエルフであるルーベルから人間を助ける理由は無いと言われ、何とも言えない違和感があった。

 人間がエルフに対して持っている感情と、エルフが人間に対して持っている感情はここまで違うのだろうか。

 ギルスですら、ルーベルの考えが一般的だというのであれば、大多数のエルフは人間の事を、エルフと同等の存在だとは思っていないのだろう。

 よってギルスの言葉に、賛成する事も反対する事もできず、何とも言えない沈黙が流れた所で別の者が口を開く。

「話が終わったのなら、さっさと隠れ家に行った方がいいんじゃないの?」

 微妙な空気となったその場で、話を進めようとしたのはヴァネッサだった。

「そうだね。ルーベルもそれでいいかい?」

 ギルスもオリバーへの説得を諦めたのかまずは移動する事を優先させるようだ。

「いいわよ。あの大きいのはどこかに行っちゃったみたいだし。ところで、その二人の人間は連れ行くんでしょ? 誰が運ぶの?」

誰の合図があった訳でもなくルーベル以外の四人の目が、自然と近くで立ち尽くしているゴーレムに向かう。あのゴーレムならば人間二人ぐらいならば運べる。皆がそう考えたのだろう。

「ダメよ。このゴーレムは森の中の巡回用に使ってるの。ただでさえさっき一体壊されて警備が手薄になってるんだから、荷物運びに使うなんてダメ」

 残念ながら、ゴーレムの所有者であるルーベルの許可は下りなかった。

 そうなるとここにいるメンバーで手分けして運ぶしかない。

「俺が姉さんを運ぶから、ギルスがそっちの魔術師でいいか?」

 自分の姉である以上、ミランダを運ぶのは自分の役目であると思い、オリバーが自ら手を上げる。とはいえ、二人を運ぶのは無理があるため、もう一人の輸送はギルスへと依頼する。

「やっぱりそうなるよねえ…」

 ギルスが仕方ないといった様子でオリバーの提案を受け入れた。

「じゃあ、あっちで死んでるのは?」

 ルーベルが既に息絶えていた一人の騎士を指さす。オリバー達からすれば名前すら知らない相手だが、身なりからして騎士であることは間違いない。ミランダと同様、騎士団の任務としてここに来たのだろう。ミランダか、寝ている魔術師に聞けば名前が分かるかもしれないが、今二人を起こすと別の問題が起きるのは目に見えていた。

「埋めてやってもいいか?」

 元騎士のオリバーとしてはこのまま騎士の死体を放置すると言うのは気が引けた。このまま死体を野晒しにしておけば、獣の餌になってしまう。任務のために戦って死んだ者の最期としては、それはあまりにも報われない。

 今のオリバーはお尋ね者であるが、戦った騎士の死体がそのような扱いをうけるのは忍びなかった。

「持って行くよりはいいんじゃない」

 最初に賛成の意見を口にしたのはヴァネッサだった。若干皮肉めいた言い回しではあったが、死体を放置する気は無いようだ。

 他の三人も特に反対する様子は無い。

「すまない、みんな協力してくれ」

 こうして、移動の前に名も知らない騎士の埋葬を行う事になった。


 ●


 騎士の死体を埋葬した後、オリバー達はようやく当初の予定に戻り、ルーベルの隠れ家を訪れた。

ルーベルの隠れ家は木造であった。木造と言っても人間のように木材を組み立てて作るような木造建築では無く、一本の大樹の内側をくりぬいて中に居住空間を作るというエルフ独特の建築技法を使った建物であった。

ギルスが言うには魔術を使って成長を促進させ、中をくり抜いても枯れない建築用の植物を使っているとの事。

上は二階まであり、地下室に降りる階段もあった。

予定と異なり、ルーベル本人が同行しており騎士団であるミランダと、その仲間と思われる魔術師の女性も運び込まれた。騎士団の二人は意識を取り戻すと面倒な事になるのが分かり切っているため、ヴァネッサの魔術で眠らせており、空いていた部屋に寝かせてある。

 今オリバー達五人は、隠れ家の一室、リビングのような大きい部屋に集まりルーベルを交えて今後の方針について話していた。

 話題の焦点となっているのは、マリルの治療をいつ行うかだ。

「僕としてはマリルの治療を行いたいんだけどね」

 そう発言したのはギルスである。

 元々オリバー達は、ギルスのフィアンセであるマリルを治療する手助けをする約束をしていた。ここにはその治療の道具が置いてあるという事でそれを取りに来ていた筈だった。助っ人であるオリバー達が来た事でマリルの治療を行う条件は整っている。ギルスとしては直ぐに治療を行いたい所だろう。

「今は辞めた方がいいわよ。魔物がいつ襲ってくるか分からない。魔物の妨害で失敗したら今までの準備が水の泡よ」

 一方でこの隠れ家の住人であるルーベルは逆の意見であった。魔物の妨害の可能性を懸念して今は止めた方が良いと主張した。

 実際に先ほど魔物と遭遇しており、魔物がこの隠れ家まで襲ってくる可能性があるというのは大袈裟な話では無いのだろう。

「でもそんなタイミングで襲ってくるかな」

 ギルスは治療の真っ最中に魔物が襲ってくるという可能性について懐疑的だ。

 この隠れ家はゴーレムによって守られていると聞いていた。また、ルーベルがここに暮らしているという事は、ゴーレムによる守りは今まで突破されていないという事なのだろう。そう考えるとギルスとしては魔物を警戒するよりも、治療を行う方を優先させたいようだ。

「さっきまたゴーレムの内一体がやられたからね。守りが薄くなった場所からこの家に向かってくる可能性はあるわよ」

それでもルーベルは魔物がこの隠れ家までやってくる事を恐れているようだ。

この家を守っていたゴーレムの数が減れば、その分侵入される可能性が高くなるというルーベルの意見は誰も否定できなかった。

「やられたっていうのは今寝てる二人が倒した奴って事かい?」

 オリバーもそれは予想していたが、ギルスが念のため事実確認を行う。

「そうよ。まだ何体か残ってるけど数が少なくなれば、その分向こうもこの隠れ家に近づき易くなる」

 そう言われてしまうと、魔物の襲撃を否定するのは難しい。

「うーん、それは困るなあ」

 ゴーレム破壊したのが事情を知らないミランダ達であるならば、破壊したミランダ達を責めてもどうにもならない。ギルスはただ途方に暮れている。

「でしょ? 治療中は無防備になるし、攻撃されたら命とりよ。今分かっているのは、この森にあの魔物が結構な数いるって事。全部で魔物が何体いるかもわからない。襲ってくるかどうかわからない魔物が近くにいるのに治療を行うの? 魔物が襲ってきたら今までの準備が無駄になるわよ」

 マリルは長距離の移動が難しいほど重体だと聞いている。その治療に失敗したら、マリルは命を落とす可能性が高いという事なのだろう。

「確かに、リスクが大き過ぎるかな」

 ギルスもまた、失敗した場合のリスクについて考えているようだ。治療を急ぎたい反面、今の状況で治療を行うには機嫌過ぎるという判断をギルスも下したようだ。

「今は先に魔物を倒すべきよ」

 ルーベルの語気に力が入る。魔物が襲撃してくる危険性があるせいで治療ができないというのであれば、先に魔物を倒すしかないだろう。

「そうは言っても、魔物を全部倒すことなんてできるのかい?」

 ルーベルも先ほど森には何体の魔物がいるか分からないと言ったばかりだ。それを倒すというのはあまり現実的では無いように聞こえる。

「全部は無理でも、あの長みたいな大きい固体を倒せば、ここを襲うのは諦めると思う」

 またしてもルーベルの語気は強かった。自分の予想にかなりの自信があるのだろう。

「どうしてそう思うんだい?」

 ギルスはその理由を尋ねる。

「ギルスは見てないかもしれないけど、あの大きいの、面倒くさいから『長』って呼ぶけど、長は小さい負傷した固体を持って行ったのよ」

 現場に到着するのが遅かったギルスとヴァネッサは見ていないが、ルーベル、オリバー、リリアは長が小さい固体を口に咥えていたのを見ていた。

「同族を助けたって事かい?」

 ルーベルが泳がせ、ミランダ達が生け捕りにした小さい固体。それを長はミランダ達を襲撃して取り返し、口に咥えて持ち去ったという事は助けたと言っていいだろう。

「そう。あいつらには少なくとも知能がある」

 群れを成して行動し、同族を助けるというのは、ある程度の知能があるという事の裏付けになる。

「だからってあの長を倒しても残った魔物が襲ってくるんじゃないのかい?」

 あの魔物は一匹ではない。少なくとも、あの場で目にした数だけでも七匹は居た。長だけ倒したところで残った魔物で襲ってくる可能性も十分あるのではないか。ギルスはそう考えた。

「それは無いわね。長さえ倒せば襲撃の可能性は無くなる」

その考えをルーベルはあっさりと否定する。

「どうしてそう言い切れるんだい?」

 あまりにもはっきりと断言するルーベルに対して、ギルスが聞き返す。

「まず前提として、あれは姿は狼の形をしているけどゴーレムに似た存在だと思う」

 ルーベルはゴーレムを使役できるのは、この場の全員が知っている事である。とはいえあの魔物とゴーレムが似ているというのはどういう意味だろうか。少なくとも外見は全く異なっており、オリバーにはその言葉の意図は分からなかった。

「どこが似ているんだい?」

 ギルスも似ているとは思っていないようで、ルーベルがそう考える理由を聞き返す。

「体を構成しているのが血や肉みたいな有機物ではなく、金属のような物質って事よ。表面だけ有機物で覆って擬態してるけど、中身は全然別」

 それは、オリバーにとっては心当たりのある話であった。今回遭遇した相手は、まだ直接その体が金属かどうか確かめた訳ではないが、以前戦った相手に、体が金属で、なおかつ他の生き物の外見に擬態した者を見た事がある。魔族の間で空賊と呼称されている存在だ。

「あいつらを倒した事があるのかい?」

 一方のギルスは、実際にそのような相手を見た事が無いのだろう。ルーベルの言っている事を信じていない様子だ。

「無いけど、戦えばすぐに分かるわよ。ゴーレムの拳をうけても普通に動くし、殴った時の音が普通の生き物じゃないわよ。それに体の表面が変形するっていうのは、普通の狼じゃありえないでしょ」

 ミランダとあの魔物が戦っているであろう音が聞いた時、明らかに金属同士がぶつかるような音がしていた。ミランダ達は剣で戦ったにしても、魔物側は狼の形状をしており武器を用いて戦ったとは思えない。そうなると体そのものが金属でできていると仮定すれば、切りつけた時に金属音がするというのは頷ける。

 それは普通の狼ではありえない特徴であり、空賊の特徴と一致する。とはい空賊の話はうかつに口外していい話ではない。魔族であるリリアとヴァネッサが黙って話を聞いている以上、オリバーもまたそれに倣う事にした。

「それで、あれがゴーレムと似たような存在だとして、何故長を倒せば残った奴は諦めるんだい?」

 そう、肝心の部分の説明がまだされていない。

「理由は二つあるわ。一つは作った奴が別にいて、遠くから指揮をしている」

 それはゴーレムを遠隔で操作しているルーベルならではの発想だろう。先ほどゴーレムをルーベルが止めたように、あの空賊もまた遠隔で何者かが操作しているのであれば、あの時のルーベルと同じような判断をするという事か。

「つまり指揮をしている奴が、こっちを攻撃するのを諦めるって事かい?」

 ギルスもこの話は理解できたようだ。

「そうよ。そして二つ目の理由は、指揮者は恐らくあの魔物をこちらに回収される事を恐れている。だから勝ち目がないと分かったら引くと思うわ」

 オリバーがミランダの救援に駆け付けた直後、オリバーが魔剣を使って風の刃を乱射するのを見て長達は引き上げた。あれはあの場で犠牲が出ることを恐れて、傷ついた個体の回収を優先したという事だろうか。

 そう考えるとルーベルの仮説は信憑性が高いように感じられる。

「でも何度も攻撃されてるんじゃないのかい?」

 ルーベルが魔物に何度も攻撃されているという話はオリバー達にとっては初耳ではあったが、魔物による被害が人間側にも増えているというのは事実だ。この森でも魔物の活動が活発になっているという事だろう。しかしそうなると相手が勝ち目がないという理由だけで引き上げるのだろうか。ルーベルはそれに対する持論を展開した。

「それはゴーレムの機動力が低くて、相手を追跡しないからよ。追ってこないと分かったから危険になったら逃げればいいって発想で攻撃してきたんだと思う。残念だけどゴーレムはあいつらを撃退する事はできても、倒しきれたことは一度もないのよ」

 先ほど動いているゴーレムを見たが、ルーベルの言う通り機動力は低かった。リリアは破壊しようとしたが、オリバーの足でも走って逃げようとすれば逃げきれそうであった。狼の形状をした四本足の形状をした魔物であれば、ゴーレムから逃げるのは容易だろう。つまり相手はゴーレムの機動力が低いのを承知で、いざとなれば逃げれば良いという前提で何度も襲ってきていると、ルーベルはそう考えているようだ。

「じゃあ、その指揮者が、回収を恐れてるっていう根拠は?」

 ゴーレムの機動力が低いために、逃げる前提で攻撃を繰り返すというのは分かるとしても、相手が回収を恐れて再攻撃をしなくなるというのはどこから来るのか。

「さっき見たでしょ? 実際にあの長は生け捕りにされそうだった個体を回収しにきた。それに遠隔で動く道具っていうのは、敵の手に渡ったら仕組みを解析されて対策されたり、敵側に模倣品を造られる可能性がある。だから極力敵には渡したくない。そう考えるのが普通よ」

 確かにあの長は弱った一体を咥えて持ち去った。群れを成す習性を持つ野生動物の中には、群れの仲間が危機に瀕したら助けようとする習性のある動物もいるが、あの魔物がゴーレムと同様に何者かが遠隔で操作するタイプの魔物であり、その指揮者が敵の手に魔物が持ち帰られる事を防ごうとする意志があるとしても説明は付く。

 しかし、そうであるならば矛盾が生じる事にオリバーは気が付き、その疑問点を口に出す。

「回収を恐れてるなら、そもそも俺たちを襲ったりしないんじゃないのか? 俺たちを襲ったら戦闘になる事は分かってるだろ」

 実際にミランダが襲われていた場所では、あの魔物はオリバー達とは戦わずに引き上げていった。それは回収を恐れているから戦わないという理屈の裏付けになるだろう。

 あの時点で魔剣を使って風の魔術を使うオリバーと、炎の魔術を使うリリアを相手は見ている。オリバーとリリアと戦う事に危険を感じ引き上げたと考えるならば、オリバーとリリアがいる限り襲ってこないのではないか。

何故ルーベルはあの魔物がわざわざこの隠れ家まで戦いを仕掛けてくると予想しているのか。

 オリバーの言葉を聞いても、ルーベルの表情は崩れない。どうやらそれについても持論があるようだ。

「それはね、奴らは自分の正体を隠そうとしている。だからわざわざ狼の外見を模倣して、あたかも普通の、元々その地域に存在した魔物であるかのように振る舞っている。だから、本当の姿を見てしまった私達を口封じするために襲ってくるわよ」

 確かに空賊の外見は黒い毛並みをした狼であり、一見すれば普通の魔物か野生生物にみえる。

「それだと尚更正体を隠すために俺達に接触しないんじゃないのか?」

 しかし、見られたら困るのに襲うために姿を見せるというのはやはり矛盾したものを感じた。それに対するルーベルの答えはこうだ。

「小さい固体を見ただけならそうでしょうね。でも私達はあの体の金属部が露出している小さい固体を見て、あれが普通の魔物でない事に気が付いてしまった。さらにあの長が回収した奴を見てしまった。本来は存在しない、あの大きい個体をね。あの大きい個体の存在は奴らにとって外に漏れてほしくない情報なのよ。だから滅多に出てこない。姿を現すのはあくまで回収が必要になった時の緊急時だけ。だって、あんなに大きな体をした魔物なんて存在しないもの。だからそれを見た私達を口封じしにくる可能性が高い」

 要するに相手にとっては、正体を隠す事よりも、目撃者の口封じの方が優先されるという事か。

「あの魔物にそんな知能があるようには思えないなあ」

 ルーベルの知り合いであるギルスですら、この説は初めて聞いたのか、否定的な意見だった。

「実際に、傷ついた小さい個体を持ち帰ろうとした人間は襲撃されたのよ」

 ミランダ達を襲って、捕縛された個体を取り返したのは、持ち帰られて研究されたくないという意図があったというのがルーベルの予想だ。

「まあ、そう言われれば、そうなのかな」

 起った事実を根拠として述べられ、ギルスはルーベルの仮説を信じるつもりになったようだ。

「あれはゴーレムに似た存在。つまり作った奴が別にいて、そいつが指示を出してる。あの魔物には知能は無い。知能があるのはあくまであれを遠隔で操作する指揮者よ」

「その作成者はエルフや人間みたいに、知能を持ってるって事かい?」

「そう考える妥当よ」

 ゴーレム自体に知能は無くとも、それを操っているエルフのルーベルには知能がある。あの空賊達にも同じ事が言えるとルーベルは考えている。

「その指揮者の正体は?」

 空賊。それは空から来た存在であり、魔族ですらその正体は掴めていない。オリバーもリリアやヴァネッサから話を聞いたのみであり、明確な正体は分かっていない。

「それはまだ分からないけど、知能が無いと遠隔で操作するなんて事しないでしょ」

ルーベルも完全にその正体を掴んだ訳ではないようだが、それに対して知能があるという仮説を立てたルーベルの話はとても興味深い話であった。

「じゃあそもそも、なんでゴーレムに何度も攻撃してきたんだい?」

 正体を隠そうとする指揮者は、一体何を目的としてゴーレムに戦いを挑んだのか。いくらゴーレムの動きが鈍く、逃げるのが容易だとはいえ、戦えば正体が露見する可能性は少なからずある。それでも戦う事を選んだ理由は何なのか。

「訓練相手に丁度良かったんでしょ。そう簡単に死なないし、動くのが鈍いから直ぐに逃げられる。だから実戦を兼ねて戦闘相手に選んだ。こっちからすればいい迷惑だけどね。それに、ゴーレムには作成者が居て、その様子を見てるって気が付いてなかったんでしょ。適当な魔物相手にしてゴーレムの実戦能力を確かめるっていうのは、私もやったことあるから、きっと同じ発想だったんでしょうね」

 ゴーレムを知能の無い魔物だと思い、ある程度の戦闘能力もあるため、訓練を兼ねた実戦相手に選んだ。だからこそ、倒せなくても何度も戦いを挑んでくる。もしもその予想が正しいのならば、指揮者には知能がある事になる。

 オリバー自身、リリアに会う前には魔族や空賊の存在を信じていなかった。さらに空賊の存在と言うのは、三百年前に防衛戦争で人類を滅ぼそうとしたという漠然とした知識しかなく、知能があるか、会話は可能か、どのような外見をしているかと言った具体的な事はよく分かっていない。

 アンから聞いた話によれば、既存の生き物に似た存在を作って、地上に放っているとは聞いている。アンの話が事実であれば、「既存の生き物に似た存在を作る」という技術を持っている事になり、それは知能があるという事ではないのか。

 即ち、ルーベルが言う未知の指揮者がいるという仮説も、あながち間違いとも言い切れない。

 ルーベルの仮説を聞いて、考えを巡らせていたオリバーを他所に、ギルスは話を進める。

「それで、奴らを倒す方法は考えてあるのかい?」

 ルーベルが操るゴーレムでは空賊に逃げられてしまい。倒す事はできないが、ルーベルは空賊を倒すつもりでいる。果たしてどのような方法を使うつもりなのか。

「つまり相手は放っておいても、この家を襲いにくる。私たちの口封じをするためにね。あの小さい奴を使って。だからこっちはこの家を襲撃しに来た小さい奴を適当に痛めつけて泳がせて、大きい奴をおびき出す。そして出てきた大きい奴を倒せば、しばらくここが襲われることは無い。これでどうかしら?」

 追う事が出来ないのであれば、待伏せをして、大きい個体が出て来る条件を整えておびき出し撃破する。これがルーベルの考えた作戦であった。

 ルーベルとギルスが話を進めているが、オリバーとしては一つ気になる事があった。

「なあ、ここで相手を迎え撃つって方に話が進んでるけど、元々治療に必要な道具がこの隠れ家にあるからここに来たんだよな。だったらそれを持って安全な場所に逃げればいいんじゃないのか?」

 この場所が危険なのであれば、安全な場所に移動して治療を行う。その方が単純かつシンプルな解決方法だとオリバーは思ったのだが、ルーベルとギルスの反応をみるとどうやら違うらしい。

 それを聞いたルーベルとギルスが顔を見合わせ、先にルーベルが口を開いた。

「それは無理よ。移動できるような物じゃないもの」

「そうだね。あれを運ぶのはいくらなんでも無理だ」

 ルーベルとギルスは揃って、オリバーの提案が不可能だと断言した。

「そろそろ治療に必要な道具が何か話してくれないか? この隠れ家においてあるなら見せられるよな?」

 そこまで言われると、オリバーとしては道具の正体が何なのかが気になるところだ。以前ギルスにも話を聞こうとしたが、見た方が早いと言うだけで、具体的な事は何も話されていない。

「どこまで話したの?」

 ルーベルがギルスに問いかける。

「この家にあるって事だけだよ」

 確かにオリバー達は、ギルスからはこの隠れ家に治療道具があるとは言われているが、それ以上の事は聞いていない。

「それだけ?」

 その言葉には、意外というよりも、非難の意味合いが込められているように聞こえた。

「それだけだよ。見た方が理解が早いと思ったからね」

 それはギルスから何度も聞いた言葉だ。余程説明の難しい道具を使うというのだろうか。ルーベルの反応も気になる。まるで説明していない事が悪い事であるかのような言い方に聞こえたからだ。

「それじゃあ、あれを見た途端にやっぱりやりたく無いって言われたらどうするつもり?」

 ルーベルとしては、説明なしに実物を見せると気を悪くする、さらには協力関係を解消するとオリバー達が言い出す事を恐れているようだ。

「それは大丈夫だとおもうけどなあ。僕は先に約束を果たしたんだし、今更無理とは言わないよ」

 ギルスは相変わらず呑気な口調で、呑気な考えを主張する。ルーベルとギルスの話の内容に何やら不穏な雰囲気を感じたため、オリバーが口を開く。

「何の話だ?」

 ここには道具を取りに来るだけという話だったにも関わらず、移動はできない、見ると態度を変えるかもしれない等といった事を言い始めた。そこまで言われてしまうと詳細を確認したくなるのが普通だろう。

「いいわ、見せながら説明するから、付いてきなさい」

 そう言うと、ルーベルは地下室へと向かった。

 このあと魔物と戦うのか、それとも治療を先に行うのか。それを決めるには道具が何なのか、本当にここから移動させる事ができないような者なのかは確かめる必要がある。

 この後オリバー達は、ルーベルの言葉の真意を知る事になる。

次話は9/23に投稿予定です。

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